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第3-1章 私は聖地より脱出しました

私は客室に案内されました

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 リッカドンナの部屋から出た私達が案内されたのは一等客室でした。三等客室、下手をすれば大部屋での雑魚寝を覚悟していたので聊か拍子抜けしました。本来乗る筈だった船で予約していたのは二等客室でしたし、扱いは悪くないようです。

「なんて横暴な! 教会が大公国を通じて正式に要請するのでしたらまだしも、神託を盾に無理やり連れ回すなど……!」
「トリルビィ。それ以上は口にしてはなりません。教会にとって神託は絶対。逆らえば背信者として罪に問われます」

 トリルビィは部屋に通されて扉が閉まった途端に不満を漏らしました。癇癪を起こして荷物を床やベッドに叩きつけなかっただけ怒りは抑えてくれているようです。私はもう神の都合の良さに怒りを通り越して呆れ果てていますよ。

「申し訳ありません。船の乗員を目にした時に違和感を覚えていたら出航前に降りられたものを……」
「仕方がありません。船員を含めて皆が教国の軍人ばかりではないようですからね」

 この船に乗っているのは主に聖女を守護する聖堂騎士や教国軍兵士、それから聖地を巡礼しに行く熱心な教徒達なんだそうです。ですからトリルビィの言った通り、甲板に出ていた乗員を注意深く観察していたらもしかしたら雰囲気から気付いたかもしれませんね。

 この船はあくまでも人員と物資を運搬するだけで、船自体は戦闘能力は無いそうです。本来なら聖地へ直行する筈でしたが、私を乗せる為に南方島国に寄ったんだとか。沖で停泊する護衛船と共に船団を形成して向かう予定と聞きました。

「浄化の聖女様はお嬢様をどのように扱われるのでしょうか?」
「あの方は私を聖女候補者と同じようにすると仰っていましたがね。神託にもとづいていますから他の者も従うとは思いますが、内心ではどう感じているのやら」
「お嬢様の身の回りの世話は引き続きわたしにお任せください。世話をかけなければいらぬ反感は持たれないでしょう」
「ですね。神官達に召使のように顎でこき使われたくはありませんから」

 しかし逆を言えばリッカドンナは私が聖女候補者に相応しいと考えている、とも取れます。すなわち私が神より奇蹟を授かっており後に聖女に成りうる、とも。南方王国でのフィリッポの件でほぼ確信を抱かれているのは聊かまずいかもしれません。

 とは言え、今更嘆いたところで後の祭りですね。陸から離れてしまった今となっては海に飛び込んだところで助かる見込みはなく、真夜中に救命艇を盗むにしても航海技術の無い私達がいくら漕いでも潮に流されて海の上で干からびるだけでしょう。

「それにしても、聖地まで連れていってお嬢様に何をさせようと言うのですかね?」
「さあ? リッカドンナ様は私を連れて行けとだけ神託を授かったようですし。リッカドンナ様とアウローラ様の一存でしょう」
「奇蹟を行使せよと聖女様が仰ったら?」
「私はただのしがない貴族の娘に過ぎません。セラフィナとは違います。フォルトゥナ様方と違って判別する奇蹟はお持ちではないでしょうし、いくらでもごまかしは効きます」

 おそらくは聖女候補者としてリッカドンナの助手を務めればいいのでしょうね。浄化のは毒や病気、更に陰気や瘴気まで払う奇蹟です。なので最前線ではなく野戦病院や各陣営をはしごするのだろうと想像出来ます。

 と思考を巡らせていたからでしょうか。ふと向き合うトリルビィを観察すると彼女は怯えた顔をさせて身体を震わせていました。真っ先に船酔いかと思いましたが気分が悪いわけではなさそうです。どうして、と考えてやっと一つ思い浮かびました。

「怖いのですか?」
「……っ。いえ、そんなことはありません。何時如何なる場所でもわたしはお嬢様を守ろうと――」
「トリルビィ。私は貴女を信頼出来る侍女であると同時に気心知れた友、もっと踏み込むなら姉のように想っています」
「それは、勿体ない言葉です」
「部屋には二人きりですからどうか本音を語ってくれませんか?」

 トリルビィは視線を右往左往させたので悩みに悩んだとうかがい知れました。やがて意を決してくれたのか、顔をあげて私を正面から見つめます。
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