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第2-2章 私は魔女崇拝を否定しました

私は竜退の聖女と再会しました

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「もう一度問います。貴女は、誰ですか?」
「『姉さん』に言ったって信じられないだろうし、知ったところで何も出来ないよ」
「御託はいいから早く言いなさい」
「はあ、姉さんがそこまで強情だったなんて知らなかったよ」

 トビアの姿をした者はわざとらしくため息を漏らすと、堂々たる佇まいでお辞儀をしました。

「人はかつて僕をこう呼んだ。竜退の聖女、と」

 竜退の聖女。その単語を聞いた私達は衝撃で打ちのめされました。
 何故なら竜退の奇蹟を授かった聖女は長い歴史を紐解いてもただ一人ですから。

「邪竜の魔女ガブリエッラ……」

 そう、赤き邪竜を操る大罪者として討伐された最悪の魔女の――。

 トリルビィが思わず口にした称号と名前にトビア……いえ、ガブリエッラは怒りをあらわにしましたがすぐに押さえました。彼女は気を逸らすためかしゃがんで今もなお血を流し続けて気絶するルクレツィアの頭をそっと撫でます。

「世迷言を。何故竜退の聖女とやらの意識がトビアに宿っているのですか?」
「さあね。神様がどうお考えなのか僕には計り知れないよ。転生の奇蹟によるものだって勝手に納得したけれど」
「……聖女になりたくなかったのは魔女として処罰された経験にもとづいてですか」
「そう。あれだけ献身的に奉仕活動をした最後がアレだもの。避けたくなるのは当然でしょう?」

 彼女はトビアやお母様に対して男装して乗り切るよう囁きました。神託と誤解させる程の説得力があったのか、二人は聞き入れて彼女の希望に沿って成長していきました。やがて聖女拝命の年齢を過ぎたら本来の貴族令嬢に戻れば良い、とか考えていたのでしょう。

 ところが、神はそうはさせじと神託の聖女に命じて彼女の真実を暴こうとなさったのでしょう。少女が奇蹟と共に救済の使命を授かったのならそれに殉ずるべき、との思想により、神はまたしても彼女を過酷な宿命に引きずり込もうとしているのです。

「聖女になりたくない、とトビアを洗脳したわりには厄介ごとに首を突っ込むのはお粗末な話ですね。何故野良聖女を手助けしたのですか?」
「『姉さん』に言ったって理解出来ないと思うよ」
「それは実際に聞いてみなければ分かりません」
「そうだね……。『姉さん』は自分が舞台上の役柄でしかなかったらどんな感じ?」

 通常なら唐突かつ意味不明な問いかけは、しかし私にだけは理解出来ました。彼女は私が盤上に並べられた駒でしかなく、自分の意志で動いていると思わせて実は何者かが指しているだけだと言いたいのでしょう。

 この言い方、おそらくガブリエッラは私がひろいんの引き立て役として破滅する悪役令嬢キアラだと知っているのでしょう。すなわち、彼女もまたこの世界が乙女げーむとして作品化された世界に一度転生している、と推察出来ます。

「安息の聖女はあくまで設定を肉付けするだけの存在でしかなかったんだ。物語が始まる頃には退場する筈だったの」
「……貴女が声をかけてその退場する先生の運命とやらを覆したと?」
「その通り。異端者として手早く断罪されないように、ね」

 おそらく、ガブリエッラが先生と接触したのは以前セラフィナに会いに聖都に来た頃でしょうね。魔女について研究していた先生にとってかつて聖女だった記憶を持つ少女は興味深かったことでしょう。

「先生は自称竜退の聖女の生まれ変わりの言葉を信じたのですか?」
「ええ。この方の証言で疑問と矛盾だらけだった偽りだらけの歴史の説明が付いたっすからね」
「先生は人をより多く救いたいから今の教会の方針に従っていませんが、今の話を伺う限りこの者は違います」
「そんなの承知の上っすよキアラさん。ガブリエッラ様の悲願は――」

 ――復讐、でしょう?

「復讐、そうですか……」

 ガブリエッラは自分に魔女としての烙印を押し付けた教会を許していないのですか。
 ただ関わりたくなくなった私や神を出し抜く気満々のセラフィナと違って……。
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