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第2-2章 私は魔女崇拝を否定しました

野良聖女は正体を明かしました

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「そこまでだ。もう逃げないで観念してもらいたい」

 正面から向かったルクレツィアは杖を野良聖女に向けて宣告します。野良聖女も聖女直々の到来には驚きを隠せなかったようで、あわや松明を落とすところでした。その松明をルクレツィアに向けて姿を確認、警戒心を強めました。

「……まさか聖女ご本人が登場するとはね。参ったな」
「私は正義の聖女ルクレツィア。貴女が聖都に貧民街で人々の治療にあたっていた野良聖女、でいい?」
「その野良聖女って言い方は気に入らないけれど、そうね。その認識で間違ってない」

 野良聖女は包囲されていても焦りは見られず、この状況に置かれてもなお諦めないようでした。ルクレツィアに注視しつつも左右の私達の隙を伺っています。いつでも逃げ出せるようわずかに重心を落としています。

 トリルビィは徒手空拳で身構え、ミネルヴァ達二名は反対側で杖の矛先を野良聖女に向けています。この場で一番緊張している様子だったのはミネルヴァでした。いかに将来有望と言えども場数の少なさは補えませんか。

「教会に所属しないままで神に与えられた奇蹟を行使しているって聞いたけれど?」
「その発言は教会こそ唯一無二の神の代行者だって聞こえるけれど?」

 質問をしたのに返された質問にルクレツィアは少しの間言葉に詰まりました。彼女も薄々は分かっているのでしょう。教会の自分達こそが神に選ばれし者達だとの自負は傲慢でしかないと。

「……それでも教会は人を救済したいと願う者達が集った組織。一人で行動するよりよっぽど効率がいいと思うのだけれど?」
「そんな高尚な志を持つ者が果たして教会にどれだけいるのかな? 富と権力に取りつかれて堕落した奴ばっかじゃないか。神の教えを都合のいいように解釈して金をむしり取るばっかだ」
「負の一面があるのは否定しないわ。そんな欲望に束縛されない権限が聖女には与えられているでしょう。教会最高峰の地位にある枢機卿と同等、またはそれ以上に」
「そうやって持ち上げるだけ持ち上げておいて、ちょっとでも意にそぐわなかったら躊躇いなく切り捨てるんでしょう? あそこはいつだってそうだ」

 ルクレツィアはまたしても返答に窮します。コンチェッタという前例を見せつけられた彼女は聖女ですら魔女として無実の罪を被せられる可能性があると知っていますから。
 野良聖女はルクレツィアの反応を見て嘲笑います。

「腐りきった果実は放っておくと他の果実も腐らせる。教会には人の救済は任せられない」
「それが教会から遠ざかっている理由?」
「勿論あたしがそう思っているだけで聖女さんを否定するつもりは無いから。ただあたしに教会の都合を強要するなって言いたいだけよ」
「そうもいかないわ。神から授けられる奇蹟は人々に大きな影響を与える。貴女はまだ人助けに使っているけれど、そのうち身勝手に振る舞う奴や私利私欲を満たす輩も現れるかもしれない」
「だから明確に線引きするって考えは分かる。奇蹟を担う少女は人を救済せよって神様の命に従うよう教会で体制を整えているから、聖女は全員管理下に置くべきだって方針もね。それをあたしに押し付けないでもらえない?」

 ルクレツィアは答えませんでした。今度は反論出来なかったからではなく、互いの主張が平行線で近づく気配すらなかったからでしょう。すなわち、今からでも教会に所属するよう促そうとしたルクレツィアの説得は言い出す前から失敗したのです。

「そう……なら悪いけれど、ここで取り押さえさせてもらう」

 ルクレツィアは杖を構えて臨戦態勢を取りました。野良聖女もまた袖から覗かせる両手を握りしめて備えます。

「別にあたしは罪を犯していないんだけれど?」
「貴女が魔女崇拝を助長させていることは調べがついてる。教会は人の救済に取り組んだ真の聖女を厄介払いさせていた、ですって?」
「それが歴史の真実でしょうよ。教会がいくら改竄したって覆せやしない。つい最近だって聖女を貶めたって認めたじゃないの」
「だからって人々を煽って混乱を巻き起こしていい理由にはならない。話をすり替えないで」
「話をすり替えてるのは聖女さんの方じゃないの? あたしは真実を語っているだけ。教会が不信感を持たれるってことはそれだけの仕打ちを与えているんでしょう」

 正義の聖女と野良聖女の問答は互いの主張をぶつけ合うばかりで相手による様子が微塵もありませんでした。既に真向いのミネルヴァはもはや言葉を交わすだけ無駄だと思っているのか、異端者に向けるような冷たい眼差しを野良聖女に送っています。

「最後に一応聞くけれど、今からでも教会で私達と共に歩む気は?」
「くどい。聖女さんには聖女さんのやり方があるように、あたしにはあたしのやり方がある。はっきり言わなきゃ分からないの? 教会は信用出来ないからお断りだって」

 野良聖女は深く被っていた頭巾と体を覆っていた外套を脱ぎ捨てました。

「だからこそあたしは聖女にならず野に下ったんだから」

 正体を現した野良聖女には驚き半分、納得半分と言ったところでした。

「カロリーナ先生……」

 そう、まさかの先生だったのです。
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