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第2-2章 私は魔女崇拝を否定しました

正義の聖女は本気で解決する気でした

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「今日の夜は少し聖女様のお手伝いをする為に外出しますので」
「いけませんお嬢様! 教会の失態で物騒になりとても危険です!」

 一旦ルクレツィアと別れて下校した後、大雑把にトリルビィに説明しますと猛反対されました。主の身を案ずる侍女の鑑でとても嬉しく思うのですが、残念ながら今回ばかりはその忠義に答えられません。

「場合によっては野良聖女にどうして魔女崇拝を助長させるのかを問い質さなければなりません。これ以上放置しておけばいつ火の粉が降りかかるとも限りませんので」
「しかし……」
「何も一人で出歩こうとしているのではありません。聖女様に同行するだけですから」
「それは、お嬢様がしなければいけないのですか?」
「ええ。私が動かなければルクレツィア様の協力は得られません。私はトビアの希望を叶えたいのです」
「……っ。そこまで仰るのでしたらわたしも同行します」

 危険だ、と言っても聞かないでしょう。そう思わせる程にトリルビィの顔は真剣でした。彼女は私の真実を知っていますしコンチェッタの一件に巻き込みもしましたので、申し出を却下する理由が見当たりません。主の命令だと言って聞かせる他無いでしょう。

「分かりました。頼りにしていますよ」
「お任せください。この身に代えてもお嬢様を守りますから」
「そう意気込んでもらっても困ります。危険がこちらに及びそうだったら二人して逃げてしまいましょう。今回はさすがに命を賭す義理までありませんから」
「それもそうですね」

 話が付いたところで私達は身支度を整えます。私は動きやすい普通の町娘風な衣服に着替え、トリルビィは使用人の制服のままですが靴を頑丈なものに履き替えます。太ももに何か巻き付けていますが、いざとなったら使う暗器の類でしょうか?

 窓から外を眺めると既に日が沈んでおり薄暗くなり始めていました。この後ルクレツィアが迎えに来ていざ貧民街へとなる予定です。この前の聞き込み調査の時と同じ時間帯で行動するつもりですし、夕食は今取ってしまいますか。

「姉さん。またどこか行くの?」

 晩餐時、当たり前ですがいつもと格好が違う私を不思議に思ったトビアが疑問を投げかけてきます。
 不安を滲ませてこちらを見つめてきますが、私はむしろ少し安心しましたよ。だってこちらに来た時は自分のことでいっぱいだった下の妹は私を気にかけてくれる余裕が生まれていましたから。

「ええ。聖女様のお手伝いをしなければいけませんので」
「危ないよ。なんか街の雰囲気が変なんだ」
「承知の上です。なさねばならない事がありますから」
「それは、今日じゃなきゃ駄目なの?」
「そうです。大丈夫ですよ、聖女様やそのお付きの方々が私を守ってくださいます」
「……分かった」

 納得いっていないようですが私が決して説得に応じないとは悟ってくれたようです。トビアはそれ以上の言葉を飲み込んで当たり障りの無い話題に切り替えてくれました。配慮させてしまい申し訳なさが生じてしまいます。

 夕食を食べ終えて少しくつろいでいますと夜も更けた時刻にも拘わらず戸が叩かれました。トリルビィが出迎えましたが、正義の聖女様のようやくの到来だったようです。しかし待ちくたびれたと顔を来訪者に向けたところ、軽く驚いてしまいました。

「……祭服、ですか?」
「そうよ。今日はお忍びでも教会の下っ端でもなく、聖女として出向こうかと思っている」

 そう、なんとルクレツィアはいつぞやで目にした聖女の正装に身を包んでいたのです。手にする杖は聖女個人に与えられ祭儀でも用いられるもの。気さくなお姉さんだった雰囲気が威厳に満ちており、畏怖すら覚えさせます。

 その場に居た者は私やトリルビィ、使用人の隔てなく誰もが驚きのあまりに言葉を失っていました。彼女達の疑問は神に遣わされた救済の代行者がこんな所に来たんだ、辺りでしょうか。しかし私の受け取り方は異なります。

「それだけ野良聖女に対して本気で向き合うとお決めになったのですね」
「ええ。教会の権威を失墜させたいのか転覆を図っているのか、はたまたは単に混乱を招いてどさくさに紛れて何かしたいのか。目的は分からないけれど、これ以上は見過ごせないから」
「それが恵まれない方達の不信感を更に招く結果になっても?」
「それを収めるのは私の仕事じゃない」

 それはそうですけれど、と反論しようと思いましたが口をつぐみました。いかに聖女であれ教会の方針に背けば待ち受けるのは異端認定の後の魔女扱い。ただ影響力はありますから内部工作でその方針自体の操作は可能の筈ですよね。
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