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第2-2章 私は魔女崇拝を否定しました

下の妹は正義の聖女を目にしました

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「否定はしない。しないけれど、教会に集うのは決して悪いことじゃない」

 分かっていますよ、それぐらい。世の中綺麗事だけでは済みません。奇蹟を授かった少女が幸福になれるわけではなく、むしろ権力者のいいように酷使される可能性もあります。教会は少女達を人の欲や罪から保護する役割を担っているのです。

 とは言え、結局のところ教会は自分達の意にそぐわずに奉仕を続ける野良聖女を放ってはおけないのでしょう。聖女が直接敬われれば教会など不要になりますからね。ルクレツィアが派遣されるのも野良聖女を懐柔するため。誘いに断れば、きっと……。

「それでルクレツィア様。私は一体どれほど貴女様の手助けすればよろしいのですか?」
「と、言うと?」
「野良聖女を捕縛するつもりならこれ以上手は貸せません。見返りとして不十分だと仰るのでしたらあの話は無かったことにしていただきたく」

 トビアの為に片棒を担いでいますがそれはあくまで正体を掴むところまで。そこから踏み込むのは私の望み、信念に反します。ルクレツィアの同席は最善手でしかなく、彼女の考え次第では別の選択肢を選ばざるを得ないでしょう。

 そんな私の警戒を安心させるためか、ルクレツィアは朗らかに笑いました。

「大丈夫。私の任務は調査だけだって。野良聖女の正体と動機さえ分かればいい。教会の力を借りずに人々に奉仕し続けるつもりなら協力を申してでもいいぐらいね」
「意外ですね。教会が認めぬ聖女など聖女にあらず、と異端扱いするかと思いましたのに」
「頭の固いエレオノーラ様ならそうしたかもしれないけれどね」
「では、争いをもたらす者だったとしたら?」

 ルクレツィアが柔軟なのは分かっています。私のことも見過ごしてくれていますし。教会としては人々から慕われる新たな聖女を何としてでも奇蹟の担い手を引き込みたいでしょうから、ルクレツィアの対応は穏健とも言えます。

 しかし現状では救済に励む一方貧民街では教会に対する不信感が広がりつつあります。野良聖女にとって不本意なのか、それとも狙って扇動しているのか。もし後者だとしたら正義の聖女が出る行動は、分かりきっています。

「決まっているじゃない。正義を執行するまでよ」

 ルクレツィアの言葉は決意表明にも聞こえました。

「では今日は大勢を動員して大捕物ですか」
「人聞きが悪いって。行方を追うだけさ」
「ルクレツィア様は今日も酒を持参なさって聞き込みをすると?」
「勿論。貧民街は広い。何の手掛かりも無しに片っ端から探ろうとしたら時間と手間ばっかかかっちゃうからね」
「……昨日も思いましたが、私の同行って必要ですか?」
「精度はキアラの方が上だと思ったからだったんだけど、今のところは一緒でなくてもいいかもしれない」

 この場には他の使用人達もいたので表現をぼかしていましたが、おそらく彼女は私が聞く神託をあてにしていたのでしょう。女教皇の伝心の奇蹟すら撥ね退ける程ですから。とは言え私に下さる神託は使命の通達の他に注意や助言程度ですけれどね。

「ではしばらくは吉報をお待ちいたします。出番が来た際はまたお呼びかけください」
「ああ、分かった。そうさせてもらうよ」

 ルクレツィアは外套を羽織ると後片付けをして一礼、去っていきました。彼女を見送った私は洗顔と歯磨きをしようと踵を返したところ、トビアが聖女の背中を見つめ続けています。どうしてか難しい顔をさせて。

「姉さん。あの人は?」
「正義の聖女ルクレツィア様です。トビアが聖女にならぬよう起死回生の一手を担っていただくつもりです」

 そう言えば昨日帰ってきた時にはもうトビアは寝ていましたっけ。そんな夜遅くまでふらつくなんてとトリルビィの怒りを買いましたね。

「野良聖女を捕まえるって言ってたけど、あの人が追ってるの?」
「そのようです。放置しておくには聊か噂が広がりすぎましたか」
「……そうなんだ」
「今日はあの方と付き合わずに済みますから夕食は一緒に取りましょう。どんな事情にせよ折角こうして一緒に暮らしているのですから」

 この時、私は既に日常へと気持ちを切り替えていました。ですからどうしてトビアが野良聖女に付いてを気にかけるのか疑問に思わなかったのです。それが吉と出るか凶と出るかはまさしく神のみぞ知る、でしょうね。
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