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第2-1章 私は学院に通い始めました

私達は劇の感想を語り合いました

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「セラフィナ」
「……はい、何でしょうかお姉様?」
「貴女は私に貴女の言う嘘っぱちを見せたかったんですか?」
「最初お姉様を誘った動機はそれです。でもお姉様と一緒に遊びたかったのも事実ですから」

 劇場から抜け出すと既に日が傾き始めていました。これでは少し休憩を取ってから帰路についたら部屋に着くころには夜空のお星様が輝いているでしょう。さすがに夜遊びまでする気は起きませんので、この辺りがお開き時ですか。

「どうして私に見せたかったか、教えてもらえますか?」
「あの顛末をどう演じるのか興味があったのと、わたし一人だと行く勇気が無かったから、でいいですか?」
「では、どうして嘘だと断じるのですか? 三人の魔女が断罪された後で大聖女によって世の中に平和が戻った、と歴史書にも記されているでしょう」
「それは、そう教会が捏造したんです。自分達の都合の良い歴史を事実だって後世に残すために」

 どうも違和感がありました。乙女げーむでのひろいんや救済の奇蹟を授かった後の大聖女からは当然として、私の知る過去の妹からも目の前の少女はかけ離れているような気がしてなりませんでした。普通に教会で生活していたのではこの変化は有り得ません。

 可能性として考えられるのは正義や審判といった教会による歴史の修正を見破れる奇蹟を授かった場合ですが、ひろいんが授かった奇蹟である祝福や救済ではそれも叶いません。実は教会は闇に葬られた歴史を記録として残していて偶然閲覧した? そんな馬鹿な。

「そう神が言っていたのですか?」

 ここは先入観を捨てるしかありませんか。ここまで私の知るセラフィナと食い違っている以上は乙女げーむの情報や設定など役立たずですね。きちんと彼女本人と向き合って判断するべきでしょう。
 妹は静かに首を横に振りました。長く伸ばした髪が波打つように揺れ動きます。

「いえ、神様から貰った奇蹟のおかげです」
「奇蹟が発現したのですか。それはおめでとう……と素直には喜べないんでしたっけ。では仮に三人の魔女による混沌が偽りだったとして、どうして私に知ってもらいたかったと?」
「それは……お姉様が聖女になるのを嫌がったからです。もしかしたら分かってもらえるかもしれない、って」

 ――聖女なんて大した存在じゃない。
 セラフィナは真剣な面持ちでそう言い切りました。
 憎悪、ですかね? 彼女の声に混じる抑え切れない感情は。

「教会はですね、三人の聖女が疎ましくなったんですよ。聖女が人を救えば救う程信仰は教会ではなく聖女達本人に向けられます。だから在りもしない罪をでっち上げて魔女だなんて烙印を押して名声を貶めたんです」
「憶測で物を語るのはあまり良くありませんよ」
「妄想なんかじゃないです。絶対にそうに違い――」
「セラフィナ」

 いけない。彼女の言葉を止めようと名を口にしましたが、妹を呼ぶ声は自分の想定よりはるかに重く鋭く、そして相手を威圧するようでした。セラフィナは少し怯えたように身体を反応させて発言を打ち切ります。

「貴女の授かった奇蹟は歴史の真偽を暴くものですか?」
「い、いえ。違います」
「では冤罪を晴らすように神託を受けたのですか?」
「……わたしはそこまではっきりと神様の声は聴けません」
「過去を見通したり記憶を閲覧するものですか?」
「その類だと思ってもらえればいいです」
「それならセラフィナが知っているのはあくまで真実の一側面に過ぎないでしょう。教会が三人の聖女を謀殺したんだと断言出来ますか?」
「……っ」

 私の指摘に妹は表情を険しくさせて口を噤みました。やはりセラフィナは祝福や救済とはまた違った奇蹟で過去を知ったのは理解しましたが、どうやら全容の把握には至っていないようですね。方法は後で考察するとして、今は憶測で語らない方がいいでしょう。
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