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第2-1章 私は学院に通い始めました

私は妹の悲願を知りました

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 自分の複雑な心境をごまかしたかったのでパンを口いっぱいにねじ込みました。頬が膨らんでみっともないですが構いません。そのまま咀嚼して飲み込みます。もっと味わいたかったですがこうでもしていないと今私に渦巻く感情がどこに向かうやら分かりませんから。

「あら、お姉様は馬鹿な考えを持つのは止めろとか私に怒らないんですね」
「私がどんなに説得したって考えを改めるつもりは無いのでしょう?」
「いえ別に。お姉様が一緒に聖女になってくださるなら話は全然違いますよ」
「なら話になりませんね。初めから不可能だと言っているも同然ではありませんか」

 それにしても違和感を禁じ得ません。目の前の少女は本当にセラフィナなのでしょうか? 奇蹟を授かっていたと判明した時アレほど喜んでいたではありませんか。みんなを笑顔に出来るんだとの願いは失ってしまったのですか?

「……教会で何かあったのですか?」

 おそらくこれで話をお終いにした方が賢明なんでしょう。それでも私は自分の疑問を晴らすべく思い切ってセラフィナに問いかけました。彼女の考えを改めさせるほどの事件が起こっていたならそれはそれで問題でしょうから。

「いえ、特には。あー、でも女教皇聖下がご逝去なさって見習いのわたしまで駆り出されるぐらい大混乱でしたね。あと降誕の聖女様の名誉回復も激震が走ってました」
「えっと、環境ではなくセラフィナ自身について聞いているのですが?」
「んー。お姉様には教えたくありません」
「どうして?」
「じゃあお姉様はどうして聖女になりたくないのか教えてください。それぐらいの対価は欲しいです」
「では話は終わりです。昼食も取り終わりましたし行きましょうか」
「お姉様ったらいけずですね」

 私はパンの入っていた紙袋を綺麗に折り畳んでしまい込みます。セラフィナが自分が後で捨てるからと言ってきましたが断りました。まだ綺麗なようですから後で使用人に渡して再利用させますので。

 それから立ち上がって軽くスカートをはたいた私はセラフィナに自然と手を差し出していました。初めの内はきょとんとしていた妹はやがて朗らかな笑みと共に私の手を掴みます。そして互いに力を合わせてセラフィナを立ち上がらせました。共同作業、とでも言っておきます。

「次は何処に行きますか? 調べたら今劇場では面白そうな演目をやってるそうですよ」
「美術館に行くのもいいですね。混み具合を確認して選びましょうか」

 好奇心には蓋をしてしまい神託とは無縁な生活に戻りましょう。セラフィナが今の立場から聖女にならないためには水準を満たす奇蹟に目覚めないか恋愛を成就させるかの二択しかありません。後者を選択した場合に備えて警戒を怠らなければ安泰の筈ですね。

「私は、幸せになりたいんです」
「えっ?」
「自分を救いたいからですよ、セラフィナ」

 それでも、ここまで本音を明かしてくれた彼女にはこれぐらい漏らしても構わないでしょう。

「……そうですか。そうだったんですね」
「言っておきますが奇蹟が無くたって自分の道ぐらい自分で切り開くって主張したいだけですからね」
「ふふっ、勿論分かっていますって」

 セラフィナは私の前に躍り出ると優雅に一回転した。はしゃいでいるのか喜びを露わにしているのかは定かではありませんが、妹が楽しそうで何よりです。太陽が丁度彼女の方を向いていたので世界が彼女を祝福するかのように幻想的でもありました。

 そんなセラフィナは朗らかな笑いを浮かべながら言葉を紡ぎます。

「わたしはですね、幸せになって欲しいんです」
「幸せに……?」
「とある人を救いたいから聖女にはなりません」

 それはセラフィナにとっての願いでもあり決意でもあるように聞こえました。
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