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第2-1章 私は学院に通い始めました

私は手芸会に入る事にしました

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「それで、結局オフェーリア様もパトリツィア様も陸上競技会と料理研究会に入ったんですか」
「ええ。私が手芸会に入ったのと同じで何の捻りもありませんが」
「いいんじゃないでしょうか。得体の知れない活動に加わる必要は無いかと」
「それよりトリルビィは私と合わせなくても良かったんですよ」
「奉仕活動の形で好きな事をやりたいとは思えません。ならお嬢様とお傍にいたく」
「……。それも一理ありますね」

 奉仕活動の体験期間が終了して新入生一同は正式に一員として活動するようになりました。

 私は結局初めから目を付けていた団体へ加入する道を選びました。今も足踏み式ミシンで服を作っている最中になります。とは言え、奉仕活動としては恵まれない方へ支給する簡単な造りの服や下着を大量生産するのが主なので、ほぼ単純作業なのですが。

「チェーザレ殿下とジョアッキーノ様はどちらの方へ?」
「チェーザレは剣術会に入りました。ジョアッキーノは絵画会でしたっけ」

 剣術会はその名とは異なり剣や槍といった近接武器から投擲や弓等の遠距離攻撃まで、所謂武具全般の扱いを学ぶところだそうです。拳闘会や組技研究会を始めとして戦い方を研究する会は多くありますが、剣術会は学院において騎馬術会と花形と言っていいでしょう。

 当たり前ですが刃物で斬り付ければ人は怪我を負います。基本的には防具に身を固めて殺傷力を弱めた、例えば木刀や刃を潰したなまくらな剣を用いるんだそうですが。それでも一対一の決闘はとても迫力があります。まるで古の大帝国時代に流行した闘技場のように。

 チェーザレがそこに入りたいと決めた理由を聞いたのですが、大切な存在を守れる強さが欲しいんだとか。大いなる決意に満ちた彼はとても男前でした。彼の想う大切な方とはこれまでずっと支えてきた母親か、それとも……。

「……チェーザレには言いませんでしたが、実は私は彼に剣術会に入って欲しくありませんでした」
「それはまたどうしてですか?」
「剣術会はその人気ぶりから多くの著名な方が所属しています。単純に剣の腕前を伸ばせるなら私も嬉しいのですが、社交界のように人付き合いに苦労するかもしれないので」
「あー。確かに色々な国の大貴族のご子息だったり武門の家の嫡男だったりがいましたっけ」

 そんなチェーザレだから私は反対出来ませんでした。可能だったら私の身近にいる彼にも極力あの方々、つまり攻略対象者達に関わって欲しくないからです。剣術会にはオネストとアポリナーレが所属していますので。

 まあ、結局は私自身が粗を出さずに彼らと直に接触しなければ問題ないでしょうと割り切りました。チェーザレに頑張ってくださいねと言葉を送った際の笑いは上手く作れた筈です。彼の脚を引っ張りたくなんてありませんでしたから。

「ジョアッキーノ様が絵画会とは意外な一面を見た気がします。絵心がおありなのですか?」
「いえ、聞けば筆を触った試しも無いんですって」
「はあ。では一体何に目覚めて絵を描こうなどと?」
「決まっているでしょう。聖女に心を射抜かれたからですよ」
「嗚呼、成程」

 ジョアッキーノはコンチェッタを絵にして残そうと考えているそうです。偶像崇拝に引っかかるのではと心配になりましたが、むしろ聖女ではない一人の少女として生きた証にしたい意図があるようです。後世でもジョアッキーノの信じた通りに解釈されてほしいものです。

 こうして私達はばらばらに活動するようになりましたが、四人で一緒に登下校するようにしています。折角徒歩なのだからとジョアッキーノが言い出したのですが、私も密かにそうしたいと思っていましたので幸いでした。

「慌ただしく時間が流れていきましたが、ようやく落ち付けそうですね」
「そうでしょうか? もう数週間後には学期中間試験が控えていますし、それが終われば体育祭。それが過ぎてもすぐに学期末試験になります。目まぐるしく行事が迫ってきますよ」
「それは待ち遠しいですね。賑やかなのは喜ばしい限りです」
「わたしはもっと穏やかな感じでも構わないのですが」

 人とは不思議な生き物でして、年を取るごとに時の流れを早く感じてしまいます。では前世の記憶がある私にとってはどうなのかと疑問でしたが、年相応にきちんと長く感じます。チェーザレとの出会いや聖都での聖女救出もはるか昔に思えてなりません。
 何が言いたいかと申しますと、トリルビィが心配する数週間後はすぐ来るとの意見には反対致しましょう。当然適時行われる試験の対策は怠りませんが、それを今から不安に思っているようでは学生生活を送るにあたって損ですからね。

 何にせよ、今は平穏だと断言出来ます。
 このまま荒波も立たないままで乙女げーむ本番を迎え討ちたいものですね。
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