上 下
134 / 278
第2-1章 私は学院に通い始めました

私達は三人の魔女について説明を受けました

しおりを挟む
「は? 本当に教会が過去の判決を覆したのか? ……ですか?」
「何しろ聖女だった者が魔女とされていましたからね。とんでもない大事件だと思いませんか?」
「そりゃあまあ、確かに。過去の誤りを認めるなんて教会らしくないって言うか」

 その辺りの経緯は当事者の私が良く知っていますがこの場で口にする必要性はありません。この口ぶりだと私が関わっているとは秘匿されたままのようですね。全容が公になれば教会の権威が失墜しますから当然と言えば当然ですが。

「カロリーナさん達が研究の成果を発表しても教会は戯言だって一笑するばっかでしたから、この一件は大きな希望になったっす。他にもこんな感じに不当に異端扱いされた魔女もいるんじゃないかってね」
「その姦淫の魔女さんが特別だったんじゃないのか?」
「勿論冤罪ばっかはびこっていたって主張する気は無いっす。でも一つ事例があったなら他にもあったって不思議じゃあないでしょう?」
「うーん、そうも思えますけど……」

 私は教会などその時の都合で良し悪しを定める存在と考えていますから冤罪ばかりでも全く驚くに値しませんがね。神を信じるかはさておき教会への信用度は無いに等しいです。それを言い出すとこの場が更に混迷を深めそうですので黙っておきましょう。

 先生は無実の罪を着せられたと思われし魔女達を例に挙げてその根拠を並べ立てます。大半は疑わしくも憶測の域を出ていないものばかりで、更なる研究と証拠の発見が必要だと結論付けていました。思い込みばかりでなくきちんと調査しているのは好印象でした。

「で、今カロリーナさん達が疑ってるのが三人もの魔女を輩出した時代っすよ」
「三人の魔女って、人が最も苦しんだって暗黒時代のですか?」

 三人の魔女、と聞いて反応を示さなかった自分を褒めたいぐらいでした。自然と拳に力がこもりますが何とか感情を表に出すまいと必死にこらえます。

「ええ。三人共が聖女でありながら堕落したとされる大事件っすね。正直カロリーナさんはこれは怪しいって思ってるっす。教会の公式文書は尤もらしい文言が並んでるっすけど諸国に残ってる記録の中には彼女達は神の使いだと敬うものまで残されてるっすから」

 先生は簡単に三人の魔女が出現した時代の説明を行っていきます。その時期は天変地異が頻発した上に飢饉や異教徒の侵略も重なってこの世の終わりかとも思われる危機的状況でした。そんな中三人の聖女が現れて、自分の全てをかけて救済を行っていきました。
 しかし、ある程度の平穏を取り戻した矢先に三人の聖女は歴史上から姿を消します。次々と魔女であったと発覚して処刑されたために。その後新たに選出された聖女が人々の希望となって平穏な時勢を守ったんだそうです。めでたしめでたし。

「カロリーナさん達はこの時の三人の魔女は教会が自分達の都合で殺したんじゃないか、って疑ってる訳っす」

 邪竜の魔女。赤き竜を使役して世の中を混沌の渦に叩き込んだ者。
 逃亡の魔女。ありとあらゆる困難から逃げるよう堕落を誘った者。
 そして、反魂の魔女。神の下へ召された者に偽りの生を与えた者。

 たまらず私は口元を抑えました。込み上げてくる吐き気を堪えるのが精一杯です。オフェーリアが心配そうに声をかけてくれましたが私は強がって大丈夫ですと言います。きっと今の私は青褪めているんでしょうね。

 嗚呼、思い出すのはあの凄惨な光景。
 邪竜の魔女とされた聖女が異端審問官共に討伐された日の光景は今もなお忘れません。

 思い返せば私はあの時に逃げるべきだったのです。聖女の役目を捨て去り一介の少女として新たな一歩を踏み出していたらその後私が魔女だとのそしりを受けて火炙りにされやしなかったのに。
 それでも私は神を信じました。教会の善意に身を委ねました。本当、愚かだったとしか言えませんよ。

「そんな感じに記録の矛盾から真実を見つけ出そうってのがこの会の目的っす。どうです? 興味が湧いてきましたか?」

 ようやく満足したのか先生の講義は終了しました。私達は圧倒されっぱなしで返す言葉もありません。しかしオフェーリアとパトリツィアの思いは一致していたでしょう。これ以上関わってはいけない、この場に一秒たりとも残ってはいけない、と。

「あー、その、何です?」
「あの先生、今日はまだ初日ですし検討させてもらえませんか?」
「あー、そりゃあまあそうっすよね。分かったっす。期待して待ってるっすからね」
「それじゃあ私達は失礼します。今日はありがとうございました」

 オフェーリアは衝撃を受けたままの私の手を取ってすぐさま部屋を出ました。それに続いたパトリツィアが扉を閉めます。それから早足で廊下を進んでいき部屋が視界に入らなくなった辺りで一旦立ち止まり、深く息を吐いたり汗をぬぐいました。

「ヤバいなあそこは。今後は近寄らないようにしよう」
「そうね。賛成だわ」
「……」

 面倒事や厄介事の類だと決めつけた様子の二人とは違い、私は別の考えを抱いていました。

 何故、かつての私は魔女として処刑されたのか?
 その真相が明らかになったら私は過去と決別出来るのか?
 もし先生の主張通りに冤罪だったら?

 少なくとも本当は何が起こっていたのか知りたい。そんな気にさせられました。
 ですのであの会に参加するのは止めておいた方がいいでしょうが、接点は持ち続けたいとも思いました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます

下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。

死んで巻き戻りましたが、婚約者の王太子が追いかけて来ます。

拓海のり
恋愛
侯爵令嬢のアリゼは夜会の時に血を吐いて死んだ。しかし、朝起きると時間が巻き戻っていた。二度目は自分に冷たかった婚約者の王太子フランソワや、王太子にべったりだった侯爵令嬢ジャニーヌのいない隣国に留学したが──。 一万字ちょいの短編です。他サイトにも投稿しています。 残酷表現がありますのでR15にいたしました。タイトル変更しました。

転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる

花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。

今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。

柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。 詰んでる。 そう悟った主人公10歳。 主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど… 何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど… なろうにも掲載しております。

逆行令嬢は聖女を辞退します

仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。 死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって? 聖女なんてお断りです!

小説主人公の悪役令嬢の姉に転生しました

みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
第一王子と妹が並んでいる姿を見て前世を思い出したリリーナ。 ここは小説の世界だ。 乙女ゲームの悪役令嬢が主役で、悪役にならず幸せを掴む、そんな内容の話で私はその主人公の姉。しかもゲーム内で妹が悪役令嬢になってしまう原因の1つが姉である私だったはず。 とはいえ私は所謂モブ。 この世界のルールから逸脱しないように無難に生きていこうと決意するも、なぜか第一王子に執着されている。 そういえば、元々姉の婚約者を奪っていたとか設定されていたような…?

【完結済】悪役になりきれなかったので、そろそろ引退したいと思います。

木嶋うめ香
恋愛
私、突然思い出しました。 前世は日本という国に住む高校生だったのです。 現在の私、乙女ゲームの世界に転生し、お先真っ暗な人生しかないなんて。 いっそ、悪役として散ってみましょうか? 悲劇のヒロイン気分な主人公を目指して書いております。 以前他サイトに掲載していたものに加筆しました。 サクッと読んでいただける内容です。 マリア→マリアーナに変更しました。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

処理中です...