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第2-1章 私は学院に通い始めました

私達は歩いて登校しました

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 神の奇蹟を体現する聖女は教会にとって最重要人物。しかし聖女の恋路が成就されてしまえば使命を果たしたとばかりに奇蹟は失われます。いかに聖女の子が奇蹟を授かりやすいと言ったって、どこぞの馬の骨に託すわけにもいきません。本来でしたら嫁ぎ先は厳粛に精査されます。
 今回わりとあっさり許しが出たのは女教皇の失態を闇に葬りたい教会と純粋にコンチェッタに幸せになって欲しかったルクレツィア等現役の聖女達の願いが一致したからでしょう。それでも此度の婚約は教会による正式な祝福を受けたもの。個人の結婚とはわけが違います。

「分かってるよ。けれどコンチェッタはこれから僕が必ず守ってみせる。もうあんな目には二度と遭わせないって誓うさ」
「それは、例え教会やご実家が相手でも?」

 きっと他の者が聞いたら性質の悪い冗談だと受け取ったでしょう。しかし現実にコンチェッタは教会から誤った罰を与えられて地獄のような思いをしてきたのです。再び彼女を陥れようとする輩が現れないとも限りません。

「当たり前だろ。刃向える権力は無くたって逃げ延びるぐらいはしてみせるさ」

 だからジョアッキーノも私の問いかけに真剣な顔をさせました。私は彼の回答が嬉しくて笑みがこぼれます。

「その心意気ですよ。きっとコンチェッタ様も嬉しいでしょうね」

 世界が敵に回っても自分を想ってくれるたった一人だけ傍に居てくれればいい。少なくとも私はいつか自分がそんな方と添い遂げられればと願わずにはいられません。コンチェッタとジョアッキーノの恋路は私にとっては心強い事この上ないのです。

 さて、そんな風に会話を織り成していると、学院の正門が見えてきました。先ほどの大通りの渋滞はこの正門まで続いており、むしろここが混雑の元凶だったのでしょう。生徒一人一人に馬車一台と考えると空間の無駄に他なりませんね。

「おはよう、新入生の諸君」

 正門で待ち構えていたのは学院の学生服に身を包んだ方々でした。彼らは徒歩でやってくる生徒一人一人に声をかけています。何人かは会釈してもう何人かは挨拶を返し、素通りをする者もいました。ただ大半の方に共通する動作が見られました。

「どうして俺達が新入生だと分かったんですか?」
「学院の門をくぐる際は守衛で手続きを取るか学生証を見せる決まりになっている。在校生なら呼び止められないよう学生証を見せながら通っただろうからな」
「やはりそういうことでしたか」

 これは教国連合の未来を担うやんごとなき方々のご子息ご息女が通う学院に不審者が紛れ込まないような措置なのでしょう。聖女候補者達は教会の敷地から通じる専用の門を使うので、乙女げーむ中ではそんな描写は無いのですよね。

「こちらでよろしかったでしょうか?」
「ああ問題ない。ようこそ当学院へ」

 私はあらかじめ鞄に学生証を吊り下げていたので鞄を持ち上げて終了です。しかしチェーザレ達他の三人は失くさないようしまっていたらしく、慌てて取り出しました。トリルビィはよほど奥にあったようで鞄をひっくり返す勢いで探っていたものですから笑いが込み上げましたよ。
 学生証は学院の生徒である証明となる一文を刻印で記してある薄い鉄の板になります。わたしの世界で例えると名刺ぐらいの大きさでしょうか。更には氏名と家紋も打刻されているため、身分証明としても使える代物になります。

「新入生は講堂に進みたまえ。入学式が始まる間際になると入口が混むから早めにな」
「御親切にありがとうございます」
「そうそう、俺はこの学院の風紀を任されているオネストと言う。何か困ったことがあったら放課後に訪ねてくるといい。相談に乗ろう」
「貴方様のお手を煩わせるような厄介な出来事に巻き込まれないように致します」

 私達は会釈をしてオネスト達の前を通り過ぎました。彼らが他の方々の確認に移ってこちらから注意がそれた後、早速チェーザレとジョアッキーノが口を開きました。

「噂には聞いてたけど本当に登校の時は各所の門を風紀委員が取り締まってるんだな」
「検問かよ。少し身だしなみが乱れてたら注意されるんだろ? 息苦しいなぁ」

 私からすれば登校時の確認自体はさほど気になりません。問題なのは、取り締まりを行っていた先ほどの背が高い殿方でしょう。彼には絶対に目を付けられないように気を引き締めねば。かと言って彼の関心を引く程過度でも駄目なのです。

 風紀委員長オネスト。彼もまた攻略対象者の一人なのですから。
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