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第1-3章 私は聖都に行きました

私達は降誕の聖女を手当てしました

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 私は囚われの身となっていた彼女の首枷と足枷を調べました。どうやら処刑された私と違って彼女の終着点はここだったようで、鍵穴が潰されていました。非情にも彼女は朽ち果てるまでここで幽閉されたままだったのです。

「手際よく済ませましょう。トリルビィは彼女の身体を拭いてください」
「……あ、は、はいっ! 畏まりましたっ」
「ジョアッキーノはこの鋸で足に繋げられている鎖を切断してください」
「く、鎖を……!? ソレその為の道具だったのかよ!」
「チェーザレはどうにか首枷を外せないか調べてもらえますか?」
「……わ、分かった。キアラはどうするんだ?」
「効果があるかは分かりませんが彼女に治療を施します」

 ただ茫然としていた三人に私は強めの口調で指示しました。やる事が与えられてようやく三人共正気を取り戻して動き出します。と言うかあまりに悲惨な光景なので何か動いていないと可笑しくなってしまうからかもしれませんね。

「何なんですか、この汚さは……!」
「ろくに身体を拭いていなかったのでしょうね。大方汚れたら水を浴びせかけて終わらせていた、と言った所かと」
「なんて非道な……。それにこの、髪や身体中にこびり付いた汚らわしい体液は……!」
「深く考えない方がいいですよ。怒りしか湧いてきませんから」

 トリルビィは袋に入れた濡れ手拭いで彼女の汚れた身体を丹念に拭き始めました。長い間身体を洗っていないのか垢がぼろぼろと落ちていきます。汚らわしい体液のこびり付きも酷いものです。石鹸を持ってくれば良かったかもしれませんね。

「キアラこれ本当に切れるのか!?」
「彼女を連れ出す事を最優先に考えて鎖を切ってください。足枷は後でゆっくり外せばいいでしょう」
「……分かったよ。くそっ、確かに僕がいくら道具持ってきたって無理だもんな……」

 ジョアッキーノはまず足枷自体を切断しようとしましたがさすがに鋸で分厚い鉄の輪は無理でしょう。大人しく鎖をぎこぎこ削っていきます。とは言えやはり木材のように簡単にはいかず、汗水たらして歯を食いしばりながら作業に勤しみます。

「チェーザレ、上手くいきそうですか?」
「首枷自体は木製で固定金具でつなぎ止めてるだけだからな。壊せばいけるな」
「成程、それは頼もしい。ジョアッキーノに貸した鋸は要りますか?」
「いや、要らないと思う。自前の道具で十分だな」

 チェーザレは首枷をじっくりと眺めてから割れ目に剣を捻じり込んでいきました。さすがにこちらは木製だったので鋼鉄の剣には及ばずに隙間が開きました。すると彼は小刀を一旦差し込んで今度は反対側の割れ目に剣を差し込みます。そうして金具でしか繋ぎ止められていなかった首枷は分解して床に転がり落ちました。

「お嬢様、それで……彼女は治るのでしょうか?」
「……あいにく私の奇蹟も万能ではありません」

 私が授かった奇蹟、蘇生はどんな傷や病気だって治せますので、とにかく深く傷ついていた箇所は治しました。具体的に酷い有様だった部位は語らない方がいいでしょう。全て抜歯されていたのは虫歯の治療か、または下種な……いえ、これ以上の詮索は無用ですね。

 ですが心に負った爪痕は治せないのです。心の救いはそれこそ妹が授かった神の慈悲たる救済の奇蹟でもないと不可能でしょう。なので奇蹟に頼らずに彼女を癒す他ありません。果たして私共に出来るかどうか……。

「……」

 トリルビィが少女の顔を拭き終えた辺りでしょうか。ジョアッキーノの作業の手が止まっていました。彼は何故か呆けた顔をしてただ少女を見つめていました。私が彼の顔の前で手を動かしても気にする様子もありません。

 私が彼の身体を少しゆすると彼は吃驚したような素っ頓狂な声を上げてきました。

「ジョアッキーノ。鎖は切断できましたか?」
「あ、ああ……。どうにか行けたよ。でも結構無理矢理やったせいで鋸の刃がボロボロなんだけどさ」
「後で廃棄しますから私が預かります」

 私はほぼ役目を果たしていなかった襤褸切れを脱がしてから少女を毛布を包みました。
 さて、あとはここから抜け出すだけですね。
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