63 / 278
第1-3章 私は聖都に行きました
私は正義の聖女と知り合いました
しおりを挟む
救済、それは強く想う相手を救う奇蹟。
例えば先天的な障害を改善させ、例えば困窮した家計を上向かせ、例えば傷ついた心を癒し。時と場合を選ばず様々な形で苦しむ人へと手を差し伸べて引き上げる。それは正に究極の奇蹟、神の愛の体現に他ならないのです。
他の奇蹟など児戯も同然でしょうね。だって他の全ての奇蹟は人を救うために神より授かりし能力。つまり人の救済を悲願としているのですから。むしろこれまでの聖女は全てこの救済の奇蹟をこの地上にもたらすために存在いていたと断言したって過言ではございません。
ヒロインが救済の奇蹟を発揮するのは乙女げーむの舞台でも終盤に差し掛かった辺りになります。るーとごとに救済の効果は異なりますが、一貫してヒロインと相思相愛になった攻略対象者を救う為に使われていました。それから物語は最高潮に達していくのです。
「本当、セラフィナは神に愛されているのですね」
「主人公補正に尤もらしい設定を付けたらこうなっちゃったんじゃない?」
「そんな身も蓋も無い事を……」
あえて欠点を挙げるのでしたら救済に結びつかない事象は起こせない、でしょうか。例えば貧しい家族にお金を施すのが救いになりますか? ささやかながら幸せならそれ以上は贅沢でしょう。風邪や怪我を安易に奇蹟で治しても? 免疫力や抵抗力が育ちませんね。
より多くの人を助けたいなら汎用性が高い治療や浄化の奇蹟の方が優れています。ヒロインが至高ながらも融通の利かない奇蹟が与えられたのも、ぷれいやー視点で普通の女の子が素敵な殿方との恋路を送る話になるように、辺りですか。
祝福も救済もすぐに目に見える形にはならない奇蹟です。聖女候補者として教育を受ける中で奇蹟の扱い方も学んでいるのでしょうが、妹は苦労していそうですね。それとも救済の奇蹟から漏れ出るように派生される奇蹟の各種を使って勉強しているのでしょうか?
「大体、救済の奇蹟だって万能じゃないじゃん。あんまり欲しいとは思えないなー」
「それを仰るなら奇蹟自体が無用の長物なのですが?」
「あははっ、そりゃ違いない」
まあ、どちらでも構いませんか。妹が歴史に名を刻む大聖女になろうと私にはこれっぽっちも関係ありませんし。悪役令嬢が妹に嫉妬する気が知れません。物語上のキアラは聖女の何に憧れてわざわざ悪意に染まったのでしょうね。
「家族と久しぶりに会えたのにあまり嬉しそうじゃないね」
「……!?」
急に声をかけられた私は思わず体をびくっと反応させました。慌てて声のする方へと顔を向けると、二十代半ばから後半辺りだろう女性が微笑みながらこちらを見つめていました。長い睫毛や長い猫っ毛も気になりましたが、凛々しい面持ちが一番印象に残りました。
服装から判断するに彼女は神官のようです。文献で読みましたが神官にも階級があって役割が異なるんだそうです。聖女を守護、補佐する神官が最上級でしたっけ。彼女の場合は着ている衣から伺うに雑務をこなす一般階級の神官と思われます。
「失礼、名乗ろう。私はルクレツィア。元はしがない貴族の三女って奴さ」
「キアラと申します。妹がいつもお世話になっております」
「ああ、いい。頭は下げなくたって」
妹と父達は近状を楽しく語り合っていました。妹を監視する神官は床へと視線を落としました。おそらくステンドグラスから差し込む日光の角度から大よその時間を確認したのでしょう。再び妹へと向き直りましたからまだ面会時間はあるようです。
「キアラ嬢、君がそうか。エレオノーラ様が妙に執着していたご令嬢だったかな?」
「それは聖女様に下った神託を誤って解釈しているせいだと思うのですが」
「その線も捨てきれなくてあの人ったら若干滅入っているみたいなんだ。今度会ったら慰めてやってくれないかな?」
「会う機会がありませんのでお答えいたしかねます」
うぐっ、まさか一般の神官にまで私の噂が広がっているなんて。エレオノーラったら一体どれぐらいの規模で言い触らしているのでしょう。十中八九リッカドンナとの一件がそれに拍車をかけているんでしょうし。ため息しか出ませんね。
例えば先天的な障害を改善させ、例えば困窮した家計を上向かせ、例えば傷ついた心を癒し。時と場合を選ばず様々な形で苦しむ人へと手を差し伸べて引き上げる。それは正に究極の奇蹟、神の愛の体現に他ならないのです。
他の奇蹟など児戯も同然でしょうね。だって他の全ての奇蹟は人を救うために神より授かりし能力。つまり人の救済を悲願としているのですから。むしろこれまでの聖女は全てこの救済の奇蹟をこの地上にもたらすために存在いていたと断言したって過言ではございません。
ヒロインが救済の奇蹟を発揮するのは乙女げーむの舞台でも終盤に差し掛かった辺りになります。るーとごとに救済の効果は異なりますが、一貫してヒロインと相思相愛になった攻略対象者を救う為に使われていました。それから物語は最高潮に達していくのです。
「本当、セラフィナは神に愛されているのですね」
「主人公補正に尤もらしい設定を付けたらこうなっちゃったんじゃない?」
「そんな身も蓋も無い事を……」
あえて欠点を挙げるのでしたら救済に結びつかない事象は起こせない、でしょうか。例えば貧しい家族にお金を施すのが救いになりますか? ささやかながら幸せならそれ以上は贅沢でしょう。風邪や怪我を安易に奇蹟で治しても? 免疫力や抵抗力が育ちませんね。
より多くの人を助けたいなら汎用性が高い治療や浄化の奇蹟の方が優れています。ヒロインが至高ながらも融通の利かない奇蹟が与えられたのも、ぷれいやー視点で普通の女の子が素敵な殿方との恋路を送る話になるように、辺りですか。
祝福も救済もすぐに目に見える形にはならない奇蹟です。聖女候補者として教育を受ける中で奇蹟の扱い方も学んでいるのでしょうが、妹は苦労していそうですね。それとも救済の奇蹟から漏れ出るように派生される奇蹟の各種を使って勉強しているのでしょうか?
「大体、救済の奇蹟だって万能じゃないじゃん。あんまり欲しいとは思えないなー」
「それを仰るなら奇蹟自体が無用の長物なのですが?」
「あははっ、そりゃ違いない」
まあ、どちらでも構いませんか。妹が歴史に名を刻む大聖女になろうと私にはこれっぽっちも関係ありませんし。悪役令嬢が妹に嫉妬する気が知れません。物語上のキアラは聖女の何に憧れてわざわざ悪意に染まったのでしょうね。
「家族と久しぶりに会えたのにあまり嬉しそうじゃないね」
「……!?」
急に声をかけられた私は思わず体をびくっと反応させました。慌てて声のする方へと顔を向けると、二十代半ばから後半辺りだろう女性が微笑みながらこちらを見つめていました。長い睫毛や長い猫っ毛も気になりましたが、凛々しい面持ちが一番印象に残りました。
服装から判断するに彼女は神官のようです。文献で読みましたが神官にも階級があって役割が異なるんだそうです。聖女を守護、補佐する神官が最上級でしたっけ。彼女の場合は着ている衣から伺うに雑務をこなす一般階級の神官と思われます。
「失礼、名乗ろう。私はルクレツィア。元はしがない貴族の三女って奴さ」
「キアラと申します。妹がいつもお世話になっております」
「ああ、いい。頭は下げなくたって」
妹と父達は近状を楽しく語り合っていました。妹を監視する神官は床へと視線を落としました。おそらくステンドグラスから差し込む日光の角度から大よその時間を確認したのでしょう。再び妹へと向き直りましたからまだ面会時間はあるようです。
「キアラ嬢、君がそうか。エレオノーラ様が妙に執着していたご令嬢だったかな?」
「それは聖女様に下った神託を誤って解釈しているせいだと思うのですが」
「その線も捨てきれなくてあの人ったら若干滅入っているみたいなんだ。今度会ったら慰めてやってくれないかな?」
「会う機会がありませんのでお答えいたしかねます」
うぐっ、まさか一般の神官にまで私の噂が広がっているなんて。エレオノーラったら一体どれぐらいの規模で言い触らしているのでしょう。十中八九リッカドンナとの一件がそれに拍車をかけているんでしょうし。ため息しか出ませんね。
26
お気に入りに追加
1,379
あなたにおすすめの小説
至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます
下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。
転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる
花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
悪役令嬢に転生したら病気で寝たきりだった⁉︎完治したあとは、婚約者と一緒に村を復興します!
Y.Itoda
恋愛
目を覚ましたら、悪役令嬢だった。
転生前も寝たきりだったのに。
次から次へと聞かされる、かつての自分が犯した数々の悪事。受け止めきれなかった。
でも、そんなセリーナを見捨てなかった婚約者ライオネル。
何でも治癒できるという、魔法を探しに海底遺跡へと。
病気を克服した後は、二人で街の復興に尽力する。
過去を克服し、二人の行く末は?
ハッピーエンド、結婚へ!
今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。
柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。
詰んでる。
そう悟った主人公10歳。
主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど…
何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど…
なろうにも掲載しております。
逆行令嬢は聖女を辞退します
仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。
死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって?
聖女なんてお断りです!
小説主人公の悪役令嬢の姉に転生しました
みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
第一王子と妹が並んでいる姿を見て前世を思い出したリリーナ。
ここは小説の世界だ。
乙女ゲームの悪役令嬢が主役で、悪役にならず幸せを掴む、そんな内容の話で私はその主人公の姉。しかもゲーム内で妹が悪役令嬢になってしまう原因の1つが姉である私だったはず。
とはいえ私は所謂モブ。
この世界のルールから逸脱しないように無難に生きていこうと決意するも、なぜか第一王子に執着されている。
そういえば、元々姉の婚約者を奪っていたとか設定されていたような…?
死んで巻き戻りましたが、婚約者の王太子が追いかけて来ます。
拓海のり
恋愛
侯爵令嬢のアリゼは夜会の時に血を吐いて死んだ。しかし、朝起きると時間が巻き戻っていた。二度目は自分に冷たかった婚約者の王太子フランソワや、王太子にべったりだった侯爵令嬢ジャニーヌのいない隣国に留学したが──。
一万字ちょいの短編です。他サイトにも投稿しています。
残酷表現がありますのでR15にいたしました。タイトル変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる