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第1-3章 私は聖都に行きました

私は正義の聖女と知り合いました

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 救済、それは強く想う相手を救う奇蹟。

 例えば先天的な障害を改善させ、例えば困窮した家計を上向かせ、例えば傷ついた心を癒し。時と場合を選ばず様々な形で苦しむ人へと手を差し伸べて引き上げる。それは正に究極の奇蹟、神の愛の体現に他ならないのです。
 他の奇蹟など児戯も同然でしょうね。だって他の全ての奇蹟は人を救うために神より授かりし能力。つまり人の救済を悲願としているのですから。むしろこれまでの聖女は全てこの救済の奇蹟をこの地上にもたらすために存在いていたと断言したって過言ではございません。

 ヒロインが救済の奇蹟を発揮するのは乙女げーむの舞台でも終盤に差し掛かった辺りになります。るーとごとに救済の効果は異なりますが、一貫してヒロインと相思相愛になった攻略対象者を救う為に使われていました。それから物語は最高潮に達していくのです。

「本当、セラフィナは神に愛されているのですね」
「主人公補正に尤もらしい設定を付けたらこうなっちゃったんじゃない?」
「そんな身も蓋も無い事を……」

 あえて欠点を挙げるのでしたら救済に結びつかない事象は起こせない、でしょうか。例えば貧しい家族にお金を施すのが救いになりますか? ささやかながら幸せならそれ以上は贅沢でしょう。風邪や怪我を安易に奇蹟で治しても? 免疫力や抵抗力が育ちませんね。

 より多くの人を助けたいなら汎用性が高い治療や浄化の奇蹟の方が優れています。ヒロインが至高ながらも融通の利かない奇蹟が与えられたのも、ぷれいやー視点で普通の女の子が素敵な殿方との恋路を送る話になるように、辺りですか。

 祝福も救済もすぐに目に見える形にはならない奇蹟です。聖女候補者として教育を受ける中で奇蹟の扱い方も学んでいるのでしょうが、妹は苦労していそうですね。それとも救済の奇蹟から漏れ出るように派生される奇蹟の各種を使って勉強しているのでしょうか?

「大体、救済の奇蹟だって万能じゃないじゃん。あんまり欲しいとは思えないなー」
「それを仰るなら奇蹟自体が無用の長物なのですが?」
「あははっ、そりゃ違いない」

 まあ、どちらでも構いませんか。妹が歴史に名を刻む大聖女になろうと私にはこれっぽっちも関係ありませんし。悪役令嬢が妹に嫉妬する気が知れません。物語上のキアラは聖女の何に憧れてわざわざ悪意に染まったのでしょうね。

「家族と久しぶりに会えたのにあまり嬉しそうじゃないね」
「……!?」

 急に声をかけられた私は思わず体をびくっと反応させました。慌てて声のする方へと顔を向けると、二十代半ばから後半辺りだろう女性が微笑みながらこちらを見つめていました。長い睫毛や長い猫っ毛も気になりましたが、凛々しい面持ちが一番印象に残りました。

 服装から判断するに彼女は神官のようです。文献で読みましたが神官にも階級があって役割が異なるんだそうです。聖女を守護、補佐する神官が最上級でしたっけ。彼女の場合は着ている衣から伺うに雑務をこなす一般階級の神官と思われます。

「失礼、名乗ろう。私はルクレツィア。元はしがない貴族の三女って奴さ」
「キアラと申します。妹がいつもお世話になっております」
「ああ、いい。頭は下げなくたって」

 妹と父達は近状を楽しく語り合っていました。妹を監視する神官は床へと視線を落としました。おそらくステンドグラスから差し込む日光の角度から大よその時間を確認したのでしょう。再び妹へと向き直りましたからまだ面会時間はあるようです。

「キアラ嬢、君がそうか。エレオノーラ様が妙に執着していたご令嬢だったかな?」
「それは聖女様に下った神託を誤って解釈しているせいだと思うのですが」
「その線も捨てきれなくてあの人ったら若干滅入っているみたいなんだ。今度会ったら慰めてやってくれないかな?」
「会う機会がありませんのでお答えいたしかねます」

 うぐっ、まさか一般の神官にまで私の噂が広がっているなんて。エレオノーラったら一体どれぐらいの規模で言い触らしているのでしょう。十中八九リッカドンナとの一件がそれに拍車をかけているんでしょうし。ため息しか出ませんね。
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