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第1-3章 私は聖都に行きました

私は屋敷の皆さんの身近になりました

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 そんなお父様をお母様はあまり理解していない様子でした。
 少し体調を崩して南方王国に同行出来なかった為に聖女達が私に目を付けていると説明されても話半分だと解釈しているようです。

 ですがお母様は依然として私にあまり関心が無いまま、とはいきませんでした。南方王国有数の名門貴族のご子息であるジョアッキーノと仮婚約を結んだせいです。貴族の娘としてこれ以上無い家への貢献と言える快挙にお母様は興奮なさっていました。

「素晴らしい縁談に恵まれて私も嬉しく思います。ですがキアラ、なおさらジョアッキーノ様に相応しい女性にならねばなりません」
「はい、お母様」

 お陰様で更に完璧な礼儀作法や教養を求められました。厳しいと思いましたが転生を繰り返して別の人生を知っている私は女として磨かれていく自分素敵に惚れ惚れとしてしまいまして。あと頑張る自分素敵って思うのは間違っていないって主張したいのです。

 それから使用人達からの接され方も変わったと思います。

「トリルビィ、ちょっといいでしょうか?」
「はいお嬢様、何でございましょうか?」

 ある日、まだお天道様が空の真上で地上を照らしつけている時刻、私はとうとうトリルビィに訊ねてみる事にしました。
 屋敷では使用人達が掃除や手入れに励んでいます。私の侍女たるトリルビィも例外ではなく私の部屋を掃除しています。本来部屋の主がいるのですから時間をずらすべきでしょうね。私がむしろ貴女の仕事を見学したいと強く要望した結果なのです。

「気のせいかもしれませんけれど……この所みなさん私を敬ってくれていませんか?」
「私共が仕える主のご令嬢なのですから敬うのは当然かと」
「いえ、そうではなくて……。仕事と割り切って頭を下げなくなった、って言ったらいいのかしら?」

 どうも皆さんの態度が事務的でなくなったように感じるのです。最初は気のせいかと思っていましたが、すれ違う際に挨拶以外の「今日はいい天気ですね」等の気さくな一言が混じるようになって確信に変わりました。

「嗚呼、成程」

 トリルビィは一旦作業を中断して顔をこちらに向けました。掃除道具も一旦置こうとしますがそこまで畏まらなくてもいいと私が促して中断させました。

「聖女適性試験をお受けになる以前のお嬢様は皆さんを遠ざけておりましたよね」

 ええ。あの時は聖女にならなければいけないのか、との恐怖と絶望の只中にいました。ですから自分の事でいっぱいで人を気に掛ける余裕などありませんでした。屋敷の中でも最低限挨拶を交わし合うばかりで一歩踏み込もうなどとはとても。

「ですがこちらにお戻りになられた後のお嬢様は使用人にも分け隔てなく接しておられます。お嬢様より人としての温かさを感じたから皆さんそれに応えているのではないかと」
「……そんなに私、向こうに行ってから変わりましたか?」
「はい。通り過ぎる際にもお嬢様の方から挨拶をなさりますし、思い悩んでいる方には親身になって声をおかけになります。何より、失敗を犯しても咎めずに慈悲深くお許しになるようにお変わりになりました」
「自分ではあまり意識していませんでしたが……そう、私が変わっていたのですね」

 聖女にならないって開き直った影響でしょうか? それともわたしって別の前世を思い出したからでしょうか?
 何にせよ人との繋がりが少しずつ生まれているのは喜ばしい傾向ですね。これからも維持、発展させていければと願わずにはいられません。

「ところでお嬢様。チェーザレ殿下とジョアッキーノ様のどちらが好みでしょうか?」
「……。えっと、その質問は何でしょうか?」
「いえ。素晴らしい男性から同時に好意を持たれた感想をお聞きしたく」
「その、男女の仲まで進展するのはもっと先ではありませんか?」

 トリルビィのように冗談を言い合える友人が増えるのはきっと素敵でしょう。
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