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第1-2章 私は南方王国に行きました
王子は私の向き合い方を確かめました
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「……やはり私を呼んだのはその為でしたか」
発した声は私自身も驚くほど低くて冷淡なものでした。
怯んだ彼の手を私は手首を捻って振りほどきました。よほどの力の差が無ければ拘束の外し方はあるのですよ。かつてのわたしの知識ではあるのですけれど。
ジョアッキーノも傍に居る手前、具体的な単語は口に出せません。ですが今ので彼もどうして私の奇蹟を頼るのか、との批難であると分かったでしょう。失望を露わにした私を見て取った彼はそれでも顔色を変えずに私を瞳に映し続けます。
「この国の王子として私に命じるおつもりですか?」
「いや、そんなつもりは全く無いぞ」
「では私に懇願すると?」
「そもそも俺はキアラに何かやれとか言うつもりは無いんだけど」
……はい?
声にこそ出しませんでしたが私の頭は疑問符で一杯でした。私の混乱を目にしたチェーザレは少し申し訳なさそうな顔をさせつつ頭を掻きました。
「ごめんな。そう言えば事情だけ説明して目的とか話してなかったっけ」
……言われてみれば確かに。どうしてここに連れてこられたのかお聞きしていませんでしたっけ。もしや奇蹟でフィリッポを治せとは私の早とちりでしたか? 怪我人が違和感を覚えていると耳にしたものですからてっきりそうだとばかり。
「今フィリッポがどんな感じなのか意見を聞きたかったぐらいだな」
「……そうだったのですか」
「それにしてもキアラは凄いな。王宮かかりつけの医者より的確な診察だったし」
「にわか知識に過ぎません。専門家のご意見の方がよほど参考になるでしょう」
チェーザレには私が奇蹟を授けられていると明かしています。聖女と患者の主張が食い違っている以上、かつてのわたしの記憶で言うセカンドオピニオンで第三者の見解を聞きたかったのでしょう。だからと言って私を巻き込むなんてかつて交わした契約すれすれなのですがね。
「フィリッポは本当にもう治らないのか?」
「私の意見は先ほどフィリッポに述べた通りです。現代の聖女が各々どのような奇蹟を授かっているか存じませんので、断言は致しかねますが」
「……じゃあもっと凄い奇蹟を持つ聖女だったらフィリッポを治せるかもしれない、と」
「既に治っていますよ。後は彼をどう満足させるかに過ぎません」
確かにフィリッポは失うには惜しい才能ではあります。しかし命に別状はありませんし日常生活だって普通に送れるでしょう。彼の努力次第なら音楽家としての再起も叶うかもしれません。なら、これ以上の奇蹟は贅沢と言っても過言ではないでしょう。
「ところでキアラは今日帰るんだよな。この後の予定とかはあるのか?」
「いえ。マッテオ様のお屋敷に戻った後は出発までゆっくり過ごそうかと」
この淡々としたやりとりの裏には、私がフィリッポを治さないのかとの問いかけも入り混じっているのでしょう。なので私はもう帰ると伝えて暗に私は彼を治さないと答えます。確かにフィリッポは気の毒ではありますが、だからと奇蹟を披露していい理由には至りません。
だって、チェーザレの時と違って内密に出来ませんもの。
それに奇蹟を成してしまった後にごまかしも利きませんし。
「フィリッポにはどうか諦めずに夢を叶えてくださいとお伝えください」
「俺はキアラの選択を尊重する。それでいいんだな?」
「ええ、ようございます」
私がチェーザレにはにかみますと彼はこちらに視線を合わせようとせずに前へと向き直りました。それから私とジョアッキーノを出口へと誘います。ジョアッキーノは私達の不思議な会話に首をかしげていましたが、私はあえて気付かぬふりをしました。
そうして歩みだした途端でした。
――眩暈に襲われたのは。
発した声は私自身も驚くほど低くて冷淡なものでした。
怯んだ彼の手を私は手首を捻って振りほどきました。よほどの力の差が無ければ拘束の外し方はあるのですよ。かつてのわたしの知識ではあるのですけれど。
ジョアッキーノも傍に居る手前、具体的な単語は口に出せません。ですが今ので彼もどうして私の奇蹟を頼るのか、との批難であると分かったでしょう。失望を露わにした私を見て取った彼はそれでも顔色を変えずに私を瞳に映し続けます。
「この国の王子として私に命じるおつもりですか?」
「いや、そんなつもりは全く無いぞ」
「では私に懇願すると?」
「そもそも俺はキアラに何かやれとか言うつもりは無いんだけど」
……はい?
声にこそ出しませんでしたが私の頭は疑問符で一杯でした。私の混乱を目にしたチェーザレは少し申し訳なさそうな顔をさせつつ頭を掻きました。
「ごめんな。そう言えば事情だけ説明して目的とか話してなかったっけ」
……言われてみれば確かに。どうしてここに連れてこられたのかお聞きしていませんでしたっけ。もしや奇蹟でフィリッポを治せとは私の早とちりでしたか? 怪我人が違和感を覚えていると耳にしたものですからてっきりそうだとばかり。
「今フィリッポがどんな感じなのか意見を聞きたかったぐらいだな」
「……そうだったのですか」
「それにしてもキアラは凄いな。王宮かかりつけの医者より的確な診察だったし」
「にわか知識に過ぎません。専門家のご意見の方がよほど参考になるでしょう」
チェーザレには私が奇蹟を授けられていると明かしています。聖女と患者の主張が食い違っている以上、かつてのわたしの記憶で言うセカンドオピニオンで第三者の見解を聞きたかったのでしょう。だからと言って私を巻き込むなんてかつて交わした契約すれすれなのですがね。
「フィリッポは本当にもう治らないのか?」
「私の意見は先ほどフィリッポに述べた通りです。現代の聖女が各々どのような奇蹟を授かっているか存じませんので、断言は致しかねますが」
「……じゃあもっと凄い奇蹟を持つ聖女だったらフィリッポを治せるかもしれない、と」
「既に治っていますよ。後は彼をどう満足させるかに過ぎません」
確かにフィリッポは失うには惜しい才能ではあります。しかし命に別状はありませんし日常生活だって普通に送れるでしょう。彼の努力次第なら音楽家としての再起も叶うかもしれません。なら、これ以上の奇蹟は贅沢と言っても過言ではないでしょう。
「ところでキアラは今日帰るんだよな。この後の予定とかはあるのか?」
「いえ。マッテオ様のお屋敷に戻った後は出発までゆっくり過ごそうかと」
この淡々としたやりとりの裏には、私がフィリッポを治さないのかとの問いかけも入り混じっているのでしょう。なので私はもう帰ると伝えて暗に私は彼を治さないと答えます。確かにフィリッポは気の毒ではありますが、だからと奇蹟を披露していい理由には至りません。
だって、チェーザレの時と違って内密に出来ませんもの。
それに奇蹟を成してしまった後にごまかしも利きませんし。
「フィリッポにはどうか諦めずに夢を叶えてくださいとお伝えください」
「俺はキアラの選択を尊重する。それでいいんだな?」
「ええ、ようございます」
私がチェーザレにはにかみますと彼はこちらに視線を合わせようとせずに前へと向き直りました。それから私とジョアッキーノを出口へと誘います。ジョアッキーノは私達の不思議な会話に首をかしげていましたが、私はあえて気付かぬふりをしました。
そうして歩みだした途端でした。
――眩暈に襲われたのは。
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