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第1-2章 私は南方王国に行きました
私は王太子を拒絶しました
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南方王国の王太子アポリナーレ。彼はチェーザレの弟にあたります。王妃の御子なので彼は正当なる王位継承者、嫡男であらせられます。文武共に優れており南方王国は次代も安泰だと臣下の間では囁かれているとか何とか。
「すみませんコルネリア様。食事中にお邪魔してしまいまして」
「いえ、構いません。食事は賑やかな方が楽しいですから」
彼は国王の勅命で舞い戻った愛妾のコルネリアとその男子チェーザレをどう思っていたのか? その答えは昨日開かれた夜会で観察したのですが、少なくとも表向きは寛容にも受け入れていらっしゃるようです。
「それにしても酷いなチェーザレ。私にも麗しのご令嬢を紹介してくれてもいいだろうに」
「昨日直接挨拶しただろ? 何で俺を挟む必要があるんだよ」
「チェーザレの所感を聞きたかったからに決まっているだろう。君は彼女をどう思っているんだ?」
「他の貴族令嬢達とは別格、とだけ言っとく」
アポリナーレはチェーザレに笑いかけながら語りかけ、チェーザレはフォークを置いてアポリナーレの顔を見つめながら答えました。年が一年も離れていないお二人は兄弟と言うより友人として打ち解けているように見受けられます。
アポリナーレははにかみながら私へと視線を移しました。スプーンですくったデザートを口に運ぼうとしていましたが一旦皿の上に置き直します。チェーザレにも似た、ですがより端整で優しい顔立ちをした彼の笑顔はきっと多くの貴族令嬢が見惚れるでしょう。
「昨日は慌ただしい挨拶をしてしまってすまなかったね。改めて自己紹介しようと思うのだけれどいいかな?」
「必要無いかと考えます。むしろ昨日の続きをしていただければと」
「成程、確かに繰り返す必要は無いかな」
勿論アポリナーレには昨日きちんと挨拶に伺いました。他にも王太子に挨拶したい方は大勢いらっしゃったので名前を交換する程度のやりとりでしたけれどね。他国のしがない貴族令嬢に対しても彼は優しく丁寧に接してくださいました。
「マッテオ卿の側室になるって聞いてたけど変更になったんだって?」
「はい。一度語り合ったのですがその際有難い事に自分には勿体ないと仰っていただきました」
「それでジョアッキーノを紹介されたと?」
「はい。マッテオ様と父は交流がありますので、その関係で婚約者がまだいらっしゃらなかったジョアッキーノ様とお付き合いするのはどうかと薦めていただきました」
「挙句にチェーザレが乱入してきたって?」
「乱入……」
確かにそうとも言えるのですね。どのように答えようか迷っていますとチェーザレが軽くアポリナーレを睨みました。王太子はそんな腹違いの兄を笑って受け流します。私を見つめるアポリナーレの瞳はとても深い印象を覚えます。吸い込まれそうな程に。
「昨日今日では決められませんので婚約は仮とさせていただきました。これから親睦を深めてまいりたいと思います」
「ふぅん、じゃあキアラ嬢が他の素敵な人と恋をしたら婚約は破棄になるんだ」
「……っ!」
「はぁ? 何勝手な事言ってるわけ?」
アポリナーレの言葉に真っ先に反応を示したのはチェーザレでした。彼は思わず立ち上がろうとしてかろうじて思い留まったようで姿勢を正そうとしていました。直後にジョアッキーノが声を上げました。馬鹿にしているようでわずかに焦りが滲み出ているのは嬉しいですね。
「ご冗談を。ジョアッキーノ様の方が私より美しい女性に心を奪われるかもしれませんし」
「じゃあキアラ嬢、私と婚約するかい?」
「アポリナーレ、お前……!」
「いえ、お断りいたします」
アポリナーレがさらりと仰ったとんでもない提案にチェーザレが憤りを見せましたが、その前に私自ら拒絶致します。チェーザレとジョアッキーノは会って間もないから保留しましたが、アポリナーレの伴侶にはなれません。いえ、なりたくありません。
いえ、勿論第一印象は申し分ありませんし今だって一介の貴族令嬢である私を見下したりせず穏和でいらっしゃいます。もし本当に私が殿下の妃となったとしたら成功と幸福に満ちた未来が待っている事でしょう。
「嫌だな、そんな明確に拒否されるのは。何か理由があるのかい?」
「王太子殿下にはおそらくこれから運命の相手と出会うでしょうから」
「それは予言かい?」
「女の勘です」
と嘘を申してごまかします。
貴方様は存じないでしょうが、これから魂の片割れとでも申すべき女性と出会います。貴方様はやがて現実を認められない者の悪意を受ける恋人、即ち稀代の聖女を守るために立ち上がります。そう、セラフィナを抱いたアポリナーレがキアラを断罪するのですよ。
攻略対象者、敵である貴方様に心動かされる訳がございません。
「すみませんコルネリア様。食事中にお邪魔してしまいまして」
「いえ、構いません。食事は賑やかな方が楽しいですから」
彼は国王の勅命で舞い戻った愛妾のコルネリアとその男子チェーザレをどう思っていたのか? その答えは昨日開かれた夜会で観察したのですが、少なくとも表向きは寛容にも受け入れていらっしゃるようです。
「それにしても酷いなチェーザレ。私にも麗しのご令嬢を紹介してくれてもいいだろうに」
「昨日直接挨拶しただろ? 何で俺を挟む必要があるんだよ」
「チェーザレの所感を聞きたかったからに決まっているだろう。君は彼女をどう思っているんだ?」
「他の貴族令嬢達とは別格、とだけ言っとく」
アポリナーレはチェーザレに笑いかけながら語りかけ、チェーザレはフォークを置いてアポリナーレの顔を見つめながら答えました。年が一年も離れていないお二人は兄弟と言うより友人として打ち解けているように見受けられます。
アポリナーレははにかみながら私へと視線を移しました。スプーンですくったデザートを口に運ぼうとしていましたが一旦皿の上に置き直します。チェーザレにも似た、ですがより端整で優しい顔立ちをした彼の笑顔はきっと多くの貴族令嬢が見惚れるでしょう。
「昨日は慌ただしい挨拶をしてしまってすまなかったね。改めて自己紹介しようと思うのだけれどいいかな?」
「必要無いかと考えます。むしろ昨日の続きをしていただければと」
「成程、確かに繰り返す必要は無いかな」
勿論アポリナーレには昨日きちんと挨拶に伺いました。他にも王太子に挨拶したい方は大勢いらっしゃったので名前を交換する程度のやりとりでしたけれどね。他国のしがない貴族令嬢に対しても彼は優しく丁寧に接してくださいました。
「マッテオ卿の側室になるって聞いてたけど変更になったんだって?」
「はい。一度語り合ったのですがその際有難い事に自分には勿体ないと仰っていただきました」
「それでジョアッキーノを紹介されたと?」
「はい。マッテオ様と父は交流がありますので、その関係で婚約者がまだいらっしゃらなかったジョアッキーノ様とお付き合いするのはどうかと薦めていただきました」
「挙句にチェーザレが乱入してきたって?」
「乱入……」
確かにそうとも言えるのですね。どのように答えようか迷っていますとチェーザレが軽くアポリナーレを睨みました。王太子はそんな腹違いの兄を笑って受け流します。私を見つめるアポリナーレの瞳はとても深い印象を覚えます。吸い込まれそうな程に。
「昨日今日では決められませんので婚約は仮とさせていただきました。これから親睦を深めてまいりたいと思います」
「ふぅん、じゃあキアラ嬢が他の素敵な人と恋をしたら婚約は破棄になるんだ」
「……っ!」
「はぁ? 何勝手な事言ってるわけ?」
アポリナーレの言葉に真っ先に反応を示したのはチェーザレでした。彼は思わず立ち上がろうとしてかろうじて思い留まったようで姿勢を正そうとしていました。直後にジョアッキーノが声を上げました。馬鹿にしているようでわずかに焦りが滲み出ているのは嬉しいですね。
「ご冗談を。ジョアッキーノ様の方が私より美しい女性に心を奪われるかもしれませんし」
「じゃあキアラ嬢、私と婚約するかい?」
「アポリナーレ、お前……!」
「いえ、お断りいたします」
アポリナーレがさらりと仰ったとんでもない提案にチェーザレが憤りを見せましたが、その前に私自ら拒絶致します。チェーザレとジョアッキーノは会って間もないから保留しましたが、アポリナーレの伴侶にはなれません。いえ、なりたくありません。
いえ、勿論第一印象は申し分ありませんし今だって一介の貴族令嬢である私を見下したりせず穏和でいらっしゃいます。もし本当に私が殿下の妃となったとしたら成功と幸福に満ちた未来が待っている事でしょう。
「嫌だな、そんな明確に拒否されるのは。何か理由があるのかい?」
「王太子殿下にはおそらくこれから運命の相手と出会うでしょうから」
「それは予言かい?」
「女の勘です」
と嘘を申してごまかします。
貴方様は存じないでしょうが、これから魂の片割れとでも申すべき女性と出会います。貴方様はやがて現実を認められない者の悪意を受ける恋人、即ち稀代の聖女を守るために立ち上がります。そう、セラフィナを抱いたアポリナーレがキアラを断罪するのですよ。
攻略対象者、敵である貴方様に心動かされる訳がございません。
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