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第1-2章 私は南方王国に行きました

私の婚約は粛々と進みました

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 おっと失礼。マッテオ達を蔑ろにしていましたね。私は彼らに軽くチェーザレとの出会いを説明いたしました。当然行使した奇蹟については伏せて、かつ疑われないよう簡潔に。チェーザレは要所を省いた説明に不満なようでしたが、交わした契約に従って口を閉ざしました。

「それはそれは、何とも運命的な再会なものだ!」

 うぐっ、私が気にしていた事を。
 マッテオは豪快に笑いながら息子のジョアッキーノへと歩み寄りました。そして改めてこちらに向き直ります。

「キアラ嬢、改めて紹介しよう。息子のジョアッキーノだ」
「始めまして、キアラと申します」
「ジョアッキーノ。こちらは昨日説明したキアラ嬢だ」
「ジョアッキーノだ。よろしく」

 感動のかは分かりませんが再会も程々に家同士の縁談の話に戻りました。私は顔に笑みを張りつかせてお辞儀をしました。ジョアッキーノも最低限の礼儀を込めて一礼しましたが、急に振られた話への不満を隠せてはおりません。

「んで、本当にアンタが僕の許嫁になるわけ?」
「それを決めるのはお父様とマッテオ様ではないかと」
「父さん、そんな重大な話を急に振られても困るんだけど?」
「どうせお前は急でなくたって適当に聞き流しただろう」
「いやそうなんだけどさ。でも僕にだって好みってのがあってさ」

 まるで押し付け合いですね、と私は軽くため息を漏らしました。ですが私なんかよりもっと憤りを露わにしたのは何故かチェーザレでした。ジョアッキーノとマッテオが応酬する度に不機嫌さを増していきました。

「マッテオ卿。そちらの話は纏まっていないようですし今日の所は先方にお断りを入れるだけで済ましてはどうです?」
「んん、確かにその通りだな。少し急ぎ過ぎたようだでは縁談の話は改めてにしてもらうか」

 チェーザレの指摘する声は僅かに低く鋭くなっていました。マッテオは彼の心境を察していないのかあえて受け流したのか、平然としたままで一旦引き下がります。そんなチェーザレの様子を窺ったジョアッキーノは悪巧みを思いついたのか、悪い笑みを浮かべました。

「父さん、別に僕は嫌だなんて言ってないし。その話、受けてもいいよ」
「えっ?」
「……っ!」

 ジョアッキーノが口にしたのはまさかの快諾。思いもよらぬ返事に私は間の抜けた声を上げてしまいましたし、チェーザレが今にも殴り掛からんばかりにジョアッキーノを睨みつけました。……成程、まだ大して会話を織り成していない私を伴侶に迎える決断の意図はそれですか。

「ジョアッキーノ様」
「ん? 何だよ、どうかしたのか?」
「チェーザレをからかうつもりでしたら心の底から貴方様を軽蔑いたします」
「な……っ!」

 卑劣ですね。他者の心を弄ぶなど。無論チェーザレがジョアッキーノの部屋にいるのはそれなりの交流があるのでしょう。とは言え気心知れた仲であっても許されない領域もあります。今後の一生を左右しかねない決断をそんな安易な考えでするなどもっての外かと。

「マッテオ卿、やはりチェーザレの仰ったとおり此度は一旦白紙に戻すだけに留めた方がよろしいかと」
「そうだな。ジョアッキーノ、冗談では済まされないぞ。殿下に謝るんだ」
「ぐっ……。わ、悪かったよ」
「……いや、いい。受け流せなかった俺も悪いんだ」

 マッテオから厳しく言われたジョアッキーノはチェーザレへ頭を下げました。チェーザレは複雑な表情をさせてジョアッキーノをただ眺めていました。私が見つめている事に気付いた彼は私を見ようともせずに視線を外します。

 恋愛などとは無縁だった私にも分かります。チェーザレは私に何らかの好意を持っている、と。それが単に友愛か親愛かそれとも愛情なのかは見当もつきません。しかしチェーザレとジョアッキーノの視線が交わって飛び散る火花を見て私はこうとしか思えませんでした。

 厄介な事になった、と。
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