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承 その③

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 わたくしの所属するとある組織に依頼が届いたのは今から一週間ほど前でした。王国でも由緒正しき公爵家に招かれたとある組織の代表、テレサさんは依頼人である公爵からとんでもない要求を突き付けられたそうです。

「今から一週間後までに我が愛娘ガラテアの身代わりを用意しろ」

 それがどれほどの無茶なのか想像できますでしょうか?

 テレサさんは思わず眉をひそめました。思わず断ろうと漏れかけた声を用意されたお茶と飲み込み、かろうじて堪えたらしいです。

「一週間後、とはまた急ぎますね。失礼ながら閣下は我が組織を便利屋か何かと間違っておりませんか?」
「噂には聞いている。どんな婚約破棄も承る、と豪語しているそうだな」

 かつて、この世界では『転生ヒロイン』の出現により大国が滅亡の危機にさらされました。やんごとなき方々がその悪女の毒牙にかかり、彼らの婚約者やそのご実家が『ハーレムルート』の犠牲となられた痛ましい事件、と歴史に刻まれています。

 そのため、今度『転生ヒロイン』が現れても迎え撃つべく、わたくしの祖国である公国は『乙女ゲーム』の脚本に対抗する組織を結成しました。『ヒロイン』を出し抜いて『悪役令嬢』を救う者を派遣する、その名もズバリ悪役令嬢協会を。

「謳い文句は仰るとおりですが、準備期間とご協力を充分にいただければ、という前提がございます。不可能を可能にするためにも、まずはどういった経緯で我々に依頼したのかをご説明願います」
「無理だ、とは言わぬのだな。いいだろう。事の始まりは――」

 所感混じりで整理するのが大変だったそうですが、かいつまむと依頼人のご息女ガラテア様は王太子殿下の婚約者で、その彼は突如男爵令嬢のロクサーヌさんが現れたことで約束された未来が破綻し始めたそうです。

「内容は報告書で拝見しましたが……指導や教育にしては行き過ぎだったのでは?」
「王太子殿下に横恋慕する真似以上に深刻ではないな」

 公爵閣下が開き直るように、身分の低い輩の人権はあって無いようなものです。己の溜飲を下げるためなら過度な暴力や陰湿な嫌がらせは挨拶と同程度とみなされます。ガラテア様は自分の癇癪が正しい所業だと疑いもしません。

「それで王太子殿下がご息女との婚約破棄をするだろう、と閣下はお考えで?」
「だろう、などという憶測ではない。一週間後に必ずされる確定事項なのだ」
「ではその信頼を置く情報の出どころは?」
「……いいだろう。これは他言無用だが――」

 数日前、ガラテア様は突如として『前世の記憶』とやらを思い出しました。

 この世界は『乙女ゲーム』の舞台で自分は『悪役令嬢』、王太子殿下は『攻略対象者』でロクサーヌさんは『ヒロイン』。既に『王太子ルート』に入っていて一週間後に自分は断罪される。そんな破滅の未来を。

 既に断罪まで一週間しかないため挽回は不可能。かと言って破滅を免れたいからとロクサーヌさんへ頭を下げるなんて誇りが許さない。既にガラテア様は自分を裏切った婚約者に愛想を尽かしていて恋心はもはや微塵もない。

 行き着いた対策が身代わりを用意し、生贄とするものだったのです。

「組織の娘を公爵令嬢ガラテアとして王太子殿下に断罪させるのが依頼ですね?」
「そのとおりだ」
「公爵令嬢ガラテアとして断罪された組織の娘はその後もそのように振る舞えと?」
「婚約破棄された娘など公爵家の恥だ。勘当した後にのたれ死のうが関知しない」
「では断罪を免れたご息女はいかがなさるおつもりで? 王太子殿下に知られては組織の者を差し出す意味がありません」
「公爵家の分家の娘として他の分家に嫁に出す」

 このように保身のために組織を利用する貴族は跡を絶ちません。ですが選り好みをして依頼を断れば運営するための資金が足りません。『乙女ゲーム』に対抗するとの理念に反しない限り、汚れ仕事だろうと受注するのが鉄則でした。

 テレサさんは条件をすり合わせて公爵閣下と契約を結び、依頼成立となりました。
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