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114 蛍の海

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 海岸は宴会の真っ最中。
 リンちゃんとモイラも起こしちゃってー。
 子供は早く寝かせてあげなさいよ。
「なっちゃん、花火やろう」
 誰から貰ったのか知らないが、モイラが花火の袋を持って寄ってきた。
 ティンクの眼がキラリ。
「やろうやろう。早くやろうよー」
「しかたないなー、付き合ってやるか」

 手持ち花火をやってから打ち上げをして、その後に線香花火をチラチラやっていたら、蛍がブンブン飛んできた。
 ベルゼが素早く松明の火を消すと、ルシファーは焚火の火を消して、辺りはランタンの薄明りだけになった。
 さっき行った小川の方から一本、光の筋がこちらに向かってやってくる。
「うっわーあっ」
 ティンクの動きが止まった。
 誰もが空を見上げている。
 次第に近付いてくるのは蛍の大群だ。

 私達を取り囲むようにぐるり旋回すると、わーっと散らばって、そこら中で小さな灯りが点滅する。
「木も草も、浜辺まで光で溢れていますわ」
 エポナさんがウルウルしている。
「なんと見事な。ルシファー君にこの島を任せて良かったねー、エポナさん」
 黄麒麟さんとエポナさんが、見合ってウンウンうなずきあってる。
 顔が近いですから、怪しい雰囲気になってますから、間違いのないように。 
 ルシファーとベルゼがハイタッチ。
 泣けてくるほどの感激ではないにしても、私はこんなの初めて。
 初めてじゃない人なんて、どこにもいない。  
「いやー、これも魔法ですか、本物の蛍ですよね。凄いですねー」
 神仙さんには詳細を教えない方がいいかも、半分魔法です。

 翌朝、蛍の感動を土産に黄麒麟さんと神仙さんは地球に帰った。
 私は一人で一生懸命、分身魔法の練習してるのね。
 だけど、招集の連絡が何時になってもこない。
 事情を盗聴していただけに「まだでーすかー」と催促するのも具合の悪い話しになっている。
「どうしますー、このまましらばっくれていていいんすかー」
 ベルゼが待ちくたびれている。
 朝からの戦闘体制を崩し、暇そうに槍を磨き始めた。
「釣りでもやるかい」
 ルシファーとベルゼが、こぞって船を準備。
 釣り竿を担いで出て行った。

「困りましたわね。こちらから出向くのも不自然ですしー、連絡がなければ何時もどうり過ごすしかありませんわよねー」
 笑顔が隠せないエポナさん。
 まったく困っているようには見えない。
 ティンクとリンちゃんとモイラなんか、朝からルシファー城と同じ大きさで砂の御城をつくると躍起になっている。
 そんでもって、私は分身魔法の練習してるのね。

「できたー。なっちゃーん、見て見てー」
 御城づくり組が、精神集中真っ盛りしている私の元へ駆け寄ってくる。
 巨大な砂城が完成している。
 それも沢山の分身を使って作り上げたものだ。
 私への嫌味か。
「集中力途切れたわー」
「だめですよ。奈都姫様の邪魔をしないように遊びなさい」
 エポナさん、言葉は怒っているけど、とってもにこやかだもの。 
 顔が怒ってないし、おやつのチョコレートまで出してる。
 

「ヤッホー、大漁っすー!」
 ガキんちょがチョコレートで静になったそばから、ベルゼの大声が私の鼓膜を刺激する。
 同時に集中力が途切れ、怒りにも似た感情が湧き上がってきた。
「奈都姫さん、休憩しませんか。そんなに立て続けにやったって、出来ない物は出来ないし、出来るものは出来る。無理しないでくださいよ」
「ルシファー君、私に諦めろと言っているように聞こえるけど、そんな事はないよね。きっと、もっと簡単に分身できる方法を教えてくれるわよね」

「エポナさん、保管庫もう満タンすよねー。めっちゃいっぱい獲れたんすけど、どうしたらいいっすか」
 ベルゼが船を見せる。
「あらまあ、船が沈みそう。少々お待ちくださいね。試作中の保管庫を試すには丁度よろしくてよ」
 保管庫を試作中とな。
 絶対に一つは欲しいアイテムだったから、ついつい耳が二人の方に寄って行ってしまう。
 周りが騒がしくても、簡単に出来るようにしなければならない分身魔法。
 だけど、こうも外野に騒がれてはおちおち練習もしていられない。
 ここはルシファーのアドバイスを真摯に受け止め、一旦チョコレート休憩に入ってやる。

 ベルゼとルシファーで、エポナさんが新しく作った保管庫に大量の魚を運び込んでいる。
「保管庫の試作品て、エポナさんが作ったんですか」
 ちょっと大人になって、ビターチョコレートを頬張ってから聞いてみた。
「ええ、保管庫の原理は簡単なものですから、奈都姫様にも作れましてよ」
 私にも作れるってか。
「幼稚園児の折り紙じゃないんだから、分身魔法も習得できていない私に作れるはずがないですよ」
「場所さえ見つかれば、あとは連絡してあげるだけですので、試作品が上手くいったら、皆さんのも御作りしますわね」
「うん、その方が無難だわ」

「どんな原理なのー」
 ティンクは何にでも興味津々だ。
「私の保管庫は、劣化の非常に遅い麒麟界の中でも、一際のんびり劣化する場所と連絡しているだけの箱なの。ティンクも作る時に手伝ってくれたわよね。私がオーナーのキャンプ場に有った温泉。あの隣に、物が殆ど劣化しない場所があるのですけど、範囲が限られているのであまり広く使えないの。だから、今のところ一つしかないのですよ」
 原理は簡単でも、その場所と保管庫を常に連絡していなければならないって、大変じゃないのかな。
「開発者はエポナさんだったんだね。でも、狭くて一つしか作れないのに、試作品はどうなってんのー」
 ティンクも保管庫が欲しいんだ。
 マジ聞きしてくれるから、私は質問の手間が省ける。

「モイラちゃんの故郷にあった博物館の寮で、温泉を探していて気付いたのですけれども、あの寮の広場は超劣化の遅い場所なの。不思議なのは、あの世界全体ではなくて、寮の広場に限ってなの。あの場所で何等かの異変が起きているのは確かなのですが、原因が分からなくて、ですから試作品は試験中なのですよ」
 劣化しない地域だったら、寮の建物があんなに早く傷んだりしない。
 妙な事もあるものだ。
 何らかの異変てやつと関係あるんだろうか。

「寮での異変て、例えば同じ地域の中で、何かが異常に早く劣化していく現象の逆効果で、別の物は劣化が遅くなる何てこと………ないですよね」
 話していて、途中から自分の発言に自信がもてなくなってきた。
「異常に早く劣化しているものなんて寮の中に有りましたか」
 エポナ食いつくー。
 ひょっとしたらひょっとして、私ってば異常現象を発見したのかしら。
「ええ、寮そのものです。建物が石造りにしてはあちこち傷んでいて、直してもすぐに壊れちゃうから、職員の人達だけじゃ修繕しきれなくて、私も手伝って直したりしたしー……」
 やっぱり関係ないか、だんだん声が小さくなっているのが自分でも分かるわ。
「それですわ! それしか考えられませんわ」
 エポナ、感激のシーン。

「あの石城に使っている石は劣化石と言って、石自体の劣化に反して周囲の環境を安定させる性質があるんですよ。とっても希少な物なんだ。建物は早く壊れるけど、住環境を整えてくれるから、昔はよく使われていたんだ。寮のある丘全体があの石で出来ているから、建築材料がなくなる心配はないし、それであそこに寮を建てたんじゃないかな」
 ルシファーが知ったかぶりしてるけど、本当にそんな石があるんかい。
 いや、あるんだろうな。
 実際に御城は壊れるの早かったし。
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