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105 ストロベリーリキュールをロックで

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「ルシファー、季節とかも自由に調整できるの」
 出掛けようとしている私の横で、興味深い質問をするティンク。
「僕が居なくても季節とか時間を自在に操れるように、リモコンを作ってみました。取扱説明書付きですよ」
 自慢気に出したルシファー特性取扱説明書は、向こうに書かれた文字が透けて見えるほどの極薄紙を使用しているのに、厚さ二十センチにも及ぶ超長編大作。
 全ての事柄を感性で解決してきたティンクに、広辞苑以上の厚さがある取扱説明書は無意味とすべきか、拷問とすべきか。

「このボタンで昼と夜の範囲設定するのね」
 ティンクが僅か十五秒で学ぶことに目覚めた。
 今までの昼夜境界線が、あっちこっち行ったり来たりする。
 その度にベルゼはランタンを消したり点けたり。
「こっちのボタンで季節を変えられるんだよ」
 ルシファーも、ティンクに取扱説明書は意味のない書物だと悟っている。

「フーン、四季だけじゃなくて、地球の行事月に合わせた時期にも調整できるみたいだね」
 ルシファーに教わる前に、機能を自分流に理解してきた。
 ティンクはリモコンを持ってから三十秒で、独自のリモコン操作を開発し始めている。
 季節が変わる度にエポナさんの水着がコートに変わったり、アイスドリンクがホットチョコレートに変わったり目まぐるしい。

「あー、そんな使い方もあるんですね。作った僕でも思い浮かばなかった」
「ふーん、これで湿度とか雨とか曇りとか、霧も出せるし。雪も降るのかー」
 四十秒で。ティンクのリモコン操作に迷いがなくなって来た。
 もうやりたい放題。
 雪に喜んで、テントの中で寝ていたリンちゃんとモイラが起きだしてきた。
 ベルゼとエポナさんも引き込み、雪合戦や雪だるま作りに夢中。

「このリモコンは、私と出会う為に生まれてきたのね。そうに違いないわ」
 リモコンと出会ってから五十秒後。
 取っておいたロック鳥の羽で素早くリモコンケースを作り、首にぶら下げてはしゃぎまくるティンク。
「それはちょっと違うけど、ここでしか使い道のない物だからね。無理やり解釈すればそういう事になるかな」
 一分経過、もはやルシファーの言う事など聞こえはしない。

 これから十秒。
 ティンクはリモコンのボタンをめちゃくちゃ押して、耐久テストを始めた。
「無茶するな~」
 ルシファーによって一時的にリモコンは没収され、平穏な時間が戻ってきた。

「何時でも自分の家の中に大自然が有るのっていいね」
 リモコンを取り上げられて気落ちしているティンクを励ましてやろうと思い、夜に設定された海岸の焚火を囲んで焼肉ジュージュー。
「生ビールだけではなくて、カクテルも色々と作れるようになりましたのよ」
 エポナさんが、ティンクの前に無限カクテルシェーカーを出して見せる。
「うっわー、どんなカクテルでも作ってくれるの?」
「ええ、私の知る限りでは完璧ですわよ」
「テゲーラサンライズ作ってー。あたし大好きー」
 だから、テゲーラなんか飲むなって言ってるだろ。

「モイラ、ジュースがいいの」
「キュッイーン」
 モイラとリンちゃんには御酒よりジュースの方が良わね。
「カクテルの材料になりますから、ジュースも色々と出せましてよ」
 アルコール抜きのカクテルも有りってことですね。
「モイラはイチゴジュース」
「キュィーン」
 モイラのイチゴは分かるんだけど、リンちゃん……。
「はい、イチゴジュースとトマトジュースの海獣血液割りですわね」
 エポナさんはリンちゃん語理解してるし、リンちゃんは吸血鬼体質だったー。

「イチゴジュースでソフトクリーム作れないかなー」
 ティンクちゃん、それってとっても素晴らしい発言。
「生クリームがありますから、作れましてよ」
「御願いしまーす」
 皆の声が揃った。
「では、ルシファー様。御手伝いをしてくださいな」
「はーい」
 イチゴジュースと生クリームにグラニュー糖と水飴を入れて、 
大きなブレンダーで撹拌。
 これをルシファーが冷やす。
 時間がかかるので魔法の出動。
 早回しして固まったところで、今度は柔らかくなるまでもみもみすれば出来上がりー。
 季節は夏、焚火の灯りで波がキラキラ輝く三日月の夜。
 イチゴのソフトクリームを食べながら、ストロベリーリキュールをロックで頂いてます。

 こんな夜を過ごした翌朝。
 季節も時間もしっちゃかめっちゃかやったから、今が何時なのかも分からない。
「そろそろ戻りましょうか」
 エポナさんは家の片付けが途中だ。
 ちょっとばかり外界の事が気になりだしてきた。
「そうだねー、何時でも誰でも入れる所にしてあるから、今日はこれくらいにしとこうか」 
 こう言うティンクの手には、しっかりリモコンが握られている。
 皆がいなくなったら、耐久試験をする気だな。
 そんなでたらめやって、中の生物に悪影響が出なければいいけど。

 外に出て時計を確認する。
 日付が変わっている。
 私達は、箱庭の中で丸々二十四時間過ごしていた。
 急いでガレージやクローゼットから家の中に荷物を出して、工事が始まる前のように配置する。
 なんとなく生活感が出てきた。
「改築しても炬燵の部屋はそのままなんだね」
 ルシファーが不満そうにしている。
「広くしたわよ。何か問題でも?」
 このレイアウトが一番しっくりくるんですけど。
「今はこの世界って、夏ですよね。暑くないですか」
 そんな気がしないでもない。
「クーラーがありますわよ」
 エポナさんが真新しいクーラーの方を向く。
「そんなの要らないっすよ。ルシファー様の季節魔法で、室内は何時でも快適に出来るっす」
 ベルゼ、他力本願をありがとう。

「御願い、クーラーでかかる電気代も馬鹿にならないから、ルシファーの魔法で家中快適にして」
「僕も快適な生活を望みますから、それはいいんですけど、さっきも言ったように、炬燵ってのが視覚的に暑っ苦しいのではないかなと思うんですよ」
「そうですわね、こたつ布団は外しておきましょうか」
 エポナさんがささっと炬燵布団をしまい込む。
 家の中が何時でも快適気温となると、炬燵布団の出番は永久になくなってしまう。
 少しだけ寂しい眺めになった炬燵ちゃん。

 改築で広くしたとはいえ、七人が同じ部屋でゴロゴロすると狭っ苦しい感がぬぐえない。
「もっと広く作れば良かったかなー」
 私のつぶやきにエポナさんが「これくらいが良いのですよ。広い所に行った時に、解放感を楽しめるじゃ有りませんか」
「そうかー、ものは考えようですね」
「ルシファーの島に行こうよー」
 箱庭から出てきて何時ものサイズに戻ったティンクが、炬燵台の上で焚火しながら提案。
 誰の家だと思ってんのよ。
 家の中で焚火するんじゃない。
「良いっすねー。今夜はキャンプしたい気分だったんすよ」
 ベルゼは何時でもキャンプ気分だろうが。
「それでは支度しましょうね」
 支度も何も、エポナさんは何時でも直ぐに、何処へ行っても生活できるだけの物を持ち歩いている。
 暗に、私に対して「早く行きますよ」と言っている。
 
「島でサーフィンとかヨットとか、モイラちゃんはボディーボードとかやりたいねー」
 ルシファーなりの夢みたいのがあるんだね。
「麒麟界は今の時期、真冬になりますわね。そのあたりはルシファー様が何とかしてくださるとしても、季節魔法で周囲の海まで水温が上がるのは困りますわよ」
 エポナさんは、地域の一時的温暖化現象を懸念している。
「それならモイラが結界で囲うから大丈夫なの」
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