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68 メイド服の御嬢さん、夜にはバニーガール
しおりを挟むこの宿に投資した魔獣肉は、全部合わせて五百トンを超える勘定になる。
町の肉屋で売っている小売価格に換算すると、十億円分くらいだろうか。
只で入手しているから、掛かりとしては零になるのかなー。
‥‥‥‥‥ひょっとして、ベルゼの取り分になった魔獣肉って、投げ売りしても十億とか二十億くらいになるよ。
今のうちから仲良くしておきましょ。
「ここで配るにしては、エポナさんの受け取ったお肉って多くないですか」
「問題ありませんわ。どうせ使い道のないお肉です。長期逗留のお客様には、もれなく大型魔獣のお肉一頭分を差し上げますし、全部配りきってみせますわよ」
凄まじい自信だ。
「どうせ使い道のないお肉って、どうしてですかー。全部食べられますよね」
「ええ、当然食べられます、高級肉ですわ。ですが、量が多すぎるのです。一度にこれだけの魔獣肉を市場に放出したら、お肉屋さんが大混乱になってしまいますわ。もっとも、私達には無関係ですから、それを眺めるのも一興ですけど」
肉代零、設備投資零、だとしても、人をいっぱい雇ってるみたいだし。
こんなに先行投資しちゃって、元が取れるんだろうか。
「私、素人ですけど、投資額が半端じゃなくて、どう考えても利益が出るとは思えないんですけど。悪魔の呼び込みは何れ居なくなるし、魔獣の肉だって際限がありますよ」
「いいのですよ。このお宿は、これといった就労施設のない精霊界での、新事業として提案しているものですの。精霊達が働いて稼げる場所の提供を、ティンクが議題にしましたの。私立異世界博物館が、観光開発計画実験施設として稼働させていますわ。総ての費用を異世界博物館で出してくれますから、私達は何も心配しないで御宿を運営して、その間のデーターを集めれば良いだけですのよ」
なんだー、そんな裏があったのか。
だんだん話が読めてきた。
けど、私の仕事が何もないってのが、ちよっとだけ寂しい物語よね。
「奈都姫様、夕食後の抽選会では振袖を着ていただきますわよ。何と言っても主役ですから」
はて、私が主役とはいかなる趣向だろう。
夕食は二階のラウンジ・バーでバイキング形式になっていて、お酒も飲み放題だ。
テゲーラもある。
誰だよ、こんな物を持ち込んだのは。
初日から大勢の御客さんで、豪華な料理が並んでいる。
食事を準備をしているのはエポナさんの分身。
みんな同じ顔の同じ背格好でメイド服。
見ていて妙な世界にいるようだ。
精霊界の御宿だから許される眺めなんだな。
ここまではいいとしても、異世界の慣習に倣ってゲテが多い。
私が拒絶反応を示す食べ物ばかりだ。
「人間界からの御客さんが殆どなんだから、出来れば人間の食べ物を半分くらいにした方がいいんじゃないですかー」
提案はしてみたが、どうなることやら。
バーカウンターではお酒が出されていて、バーテンダーの恰好をしたエポナさんの分身と、猫耳の可愛い女の子が担当している。
猫耳は、変身したケット・シー。
御客さんは宿で貸し出している浴衣を着ている。
地球で観光してきたお客さんも何組かいて、着こなしも慣れているし、浴衣に抵抗はないようだ。
私は振袖を着てしずしずと、エポナさん本体の付き添いで御客さんに挨拶回り。
この宿の女将に仕立て上げられた。
フロアの一角はカジノになっていて、ルシファーとベルゼが女性客の相手をしている。
あの辺りだけホストクラブ状態になっている。
悪魔どもは御客さんを酔わせてカジノに誘い、全財産巻き上げる気だ。
さすがに悪魔、やり口が三下より質悪い。
配膳と給仕は、昼間客室係をしていた御姉さん達が担当。
バニーガールの恰好をしているから、ことさらスタイルの良さが強調されている。
妖艶な微笑みに男どもはすっかり悩殺されて、メロメロのヘロヘロ。
飲みすぎて行儀悪くなったお客さんは、ルシファーとベルゼが悪魔の使う恐怖魔法できつーく叱ってから、お部屋で大人しくお休み願っている。
食事が一段落したところで、お土産や魔獣肉の抽選会が始まった。
庭でバーベキューをしているお客さんには、大画面のテレビで生中継までしている。
バニーガールの御姉さん達が、弓を持ってステージに並ぶ。
ステージの端には回転する的があって、一等から五等までの当たり番号が書かれている。
私は、頭の上に真ん中が丸く刳り貫かれたリンゴを乗せて、くるくる回る的の前に立っている。
「こんな話聞いてなかったよー」
「黄麒麟様の加護がありますから、間違っても残酷な場面にはなりませんですわよ」
「それは分かってるけど、怖いのはどうにもならないよー」
「奈都姫様、ひきつってますわよ。にっこり笑って、笑顔、笑顔」
むちゃぶりしてくれるエポナさんの顔が、とーってもにこやかなのは気のせいでしょうか。
バニーガールが代わる代わる矢を射ると、リンゴの穴をすり抜けた矢は的に書かれた当たり番号に突き刺さる。
御客さんから大歓声が湧き上がる度に、エポナさんがカーテシー。
これを、御客さんの数だけ繰り返す。
私はチビリバビリブーですわ。
「一番の札をお持ちの方、一等賞ー」
エポナさんが的に刺さった矢を抜く。
宿帳順に配った番号札と、矢の刺さった当たり番号を合わせる。
「冒険者の一等賞は、魔獣のお肉一頭分だよー」
引換券をティンクが、ブーンと飛んで行って渡す。
「怖かったー」
自分の部屋に帰った途端、体中の力が抜けていくのを感じた。
やっとの夕食。
何時ものように、何時ものメンバーで、何時もの、とりあえず生。
プッハー。
翌朝、ティンクと仲間の妖精達が土産物売り場で、観光で来た御客さんの景品引き換えに大忙ししている。
早めの朝食を済ませて宿を引き上げる冒険者達は、景品引き換え所の前で行列を作っている。
思いがけない程の魔獣肉が当たって、景品を受け取った足で引き取り所に肉を持ち込む為だ。
ここはエポナさんが担当している。
魔獣肉を渡す時に「この宿での景品の事は内緒ですわよ。売り先は、商業者ギルドの会長が経営している御店にしてくださいね」と指定している。
店から何がしかの見返りでもあるのか。
「売り先のお店指定って、何かエポナさんと関わりがあるんですか」
「お肉を大量に仕入れる資金として、シェルティーさんの御金を私が貸し出しているお店ですの」
やはり、シェルティーさんとエポナさん二人が組んで、銀行だか高利貸しだかをやっていた。
それも、かなりの高金利。
業者の買い入れを増やして、シェルティー&エポナ金融からの借入も増やす計略が絡んでいたとは。
なんて姑息な手段を駆使する人達なんだ。
銭の鬼だな。
「凄い事してますね。ちょっと、えげつないですよ」
「あら、こんなのまだまだ序の口、やっと幕開けですわ。ティンクは私達より一枚も二枚も役者が上ですー」
ティンクは土産物売り場で、御客さん相手に愛嬌をふりまいていたけど、何やったんだ。
「ねえねえ、ティンクちゃん。エポナさんからね、貴女がとーってもえげつない商売してるって聞いたんだけど、何やってるのかな」
歯に衣着せぬ性格の私に、一言でも言ったら直接本人に聞くだろう事くらい、エポナさん程の知恵者なら予知しての発言。
御期待通り、ここははっきり本人に聞いちゃいます。
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