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49 四界への根回し

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「おお、なんて素晴らしい輝きなんだー。これ程見事な槍を持てるとは、バアル・ゼブルは果報者っすー」
 なにがそんなに嬉しいんだ。
 男泣きするほどの一大事なのか。
 ところで、バアル・ゼブルって言ってたけど、一体幾つ名前があるの。
 しずちゃんの前で自分の名前言っちゃっていいの?

 しずちゃんは、ベルゼビュートのお馬鹿加減に呆れたのか、フェンリルとの決着を付けずに帰った。
 明日からも館長としての仕事が山積みらしい。
 毎日毎日、慣れない御仕事ご苦労さまです。
 フェンリルも気分をよくして、千鳥足で帰っていった。
 どこへ帰ったのかは不明だ。 

 翌日からも、ベルゼビューと私達は、戦禍に苦しむ人々の村を回っては大量の信仰エネルギーを集め続けた。
 地獄で暴れていてミカエルに捕まった頃より、ベルゼビュートはずっと強くなってきている。
 この強大な信仰心力の気配に、ミカエルが気づかないはずがない。
 苦境に立たされていた村に救いの奇跡を起こしている時、ミカエルはやって来た。

「どうしてここにベルゼビュートがいる」
 ミカエルの表情は怒りそのものだ。
「本格的に御馬鹿だね。こいつを蠅にしちゃったのは御前さんだろ。格子の檻に入れておいて心臓まで取っちゃったら、ちっこい蠅になって逃げられるに決まってるだろう。なっはっはっはー、笑えるー」
 ルシファーがミカエルを小馬鹿にしている。
 奴を怒らせたいのかよ。
 話がややこしくくなるから、やめとけってば。
「お前達はお尋ね者だ。だが、人間界で善行をしているうちは見逃してやる。やりたい事を終えたら、さっさとこの世界から立ち去るがいい」
 なんだこいつ、偉そうに。
 私、とっても不愉快なんですけど。
「奈都姫様、抑えて、抑えて」
 何時でも冷静なエポナさんが、私の暴走を制御しながらも、顔面が引き攣って何時もの綺麗可愛い顔じゃなくなっている。

「はいはい、分かりましたよ。あんたはいつでも正義の味方ですよ。御立派ですよ」
 ルシファーが投げやりに答えると、ミカエルは何もせずにこの場から消え去った。
「あっぶねーもん、自分もう殺されたと思ったっす」
 ベルゼビュートがビビリバビリブーになっている。
「そろそろ仕掛け時ですわね」
 エポナさんが真顔で天を指さす。
「やりますか」
 ルシファーが答える。
 作戦開始である。

「その前にー、景気づけに一杯やりませんか。村での歓迎会もある事だしー」
 ベルゼビュートが緊迫した空気を和ませてくれる。
「いいねー。僕、実は腹ペコだったんだよ」
 そうだよルシファー、腹が減っては戦が出来ぬってね。
「うん、うん、そうしようよ。私もお腹減ったー」
 ティンクの俊敏な動きを支えるのは、大食である。
 体重の数十倍に匹敵する食事量が、毎日の事だから驚ける。
「キュー、キュー」
 麒麟‥‥‥黄麒麟さんは人間の姿だから、私が実際に麒麟を見たのはこの子が始めて。
 だから、まだまだこの子の事はよく分かっていない。
「大賛成ですわ」
 エポナさーん、食べる気満々で宜しい。
 何人もの分身を使いこなすには、やはりエネルギー補給ですよね。
 ベルゼビュートが、ルシファーが、ティンクが、麒麟の子が、エポナさんが、実は私も同感。
 たとえ迷える子羊達の為の善行であろうとも、一時の空腹には勝てないのだよ。

 夕方になって火の準備が整うと、この世界では御馳走なんだろうなー的な物がずらり並んだ。 
 この中で私が食べられるのは、黒毛牛のステーキとワイバーンのたたきとロック鳥の焼き鳥くらいかな。
「奈都姫様、好き嫌いしないで何でも食べないと、もっと大きくなれませんわよ」
 そういう次元の問題じゃないと思うんですよ。
 魔獣じゃないんだから、今更大きくはならないし。
 私、これ以上進化しませんから。
「ははは、そうですよね」と言いつつ、私はゲテを食べない。
「いつになったら麒麟の子に名前を付けてやるのだ。なんならわしが名付け親になってやっても良いのだぞ」
 夕食時だけ旅仲間のフェンリルが、名付け親候補としてやけに乗り気だ。
「黄麒麟様が帰って来てから決めますわ。当然、名付け親は黄麒麟様で御座います」
「やはりのー。そうだとは思っておったがのー」
 フェンリルの残念そうな顔を始めて見た気がする。 

 翌日から私達は、今までのんびり楽しくして来たツケを払うかのように、労働基準監督署が業務停止命令を発令するほどの勢いで働いた。
 元々、政情不安定な地域として、渡航時要警戒地域に指定されている。
 この世界は、私立異世界博物館の常時監視対象になっている。
 四界の各界毎に、私立異世界博物館から監視役が派遣されているのだ。
 異世界司書団として行動を起こす前に、監視役に協力要請を兼ねて、私達がこれから何をするのか説明して回らなければならない。

 ティンクは元精霊界の長だったこともあって、精霊界を監視している青龍に面識があった。
 何処の世界に行っても、精霊達には世界とか国といった認識が希薄なので、何につけ一斉連絡や団結してという仕事が進めにくい。
 そこで、常日頃から精霊達と連絡しあっている青龍に、作戦決行に伴う精霊界の協力を要請しに行った。
 そして、ティンクが訪問した一番の目的は、今回の作戦はあくまでも神界の年会費徴収に関わる行為であり、内政不干渉の原則を破るものではないと説明するためだ。

 余談になるけど、精霊界の界内環境はバラバラでまとまりがないの一言に尽きる。
 特別な決め事もなく好き勝手に生きている精霊達が、なんとなく集まって生活している。
 非常時の備蓄や地域の施設管理は総て個人まかせ。
 お金に対しては、まったく無頓着な者達ばかりだ。
 そもそも、国家という考え方がないに等しい。
 お金はなくとも何となく生活できてしまうので、お金の為にがむしゃら働く必要もない。
 そんなこんなの事情を鑑みて、どの世界でも精霊界は界全体で一つの国家として勘定されている。
 年会費も一国分だ。

 まとまりがない上に金銭感覚零の世界で、会費はどのようにして集めているのか、気になってティンクに聞いた事がある。
「だいたいは御賽銭かな。精霊界にある社に神界からの集金は来ないから」
 賽銭泥棒かよ。
「それとね、人間界の悪い子から、悪い事したときに罰金徴収」
 かつあげだろ。
「他に多いのは、森とか道に落ちている御金を拾ってくるの」
 猫糞を決め込んでいやがる。
 これらの集金は、総て気まぐれなボランティアに頼り切っているのが現状。

 と言う訳で、精霊界は順調に準備が進んでいる…‥‥‥でいいのかな?

 エポナさんは、神界の監視をしている朱雀に協力を御願いしに行った。
 天界戦争の時には、中立の立場で看護活動に参加していたので、朱雀はエポナさんに対して好意的だ。

 エポナさん曰く
「神界では集団になる習慣がなくて、国そのものが存在していませんの。それぞれ主義主張が違っていますから、神一柱を国一つとして考えていますわ。元々御金を必要としない筈の神なのですが、他世界や異世界の影響を受けて、貯えを持つ神も少なくないのです。とは言うものの、上級神は信者が多くて御金を集められますが、低級神には信者も少なく御金には縁がありません。ですから、私立異世界博物館では、どの世界の神界に対しても、上級神の数で世界の数とし、低級神の年会費は免除していますわ」
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