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48 アスカロン・シェルリルの槍

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 クラーケンを肴に、無限生ビルサーバーで大盤振る舞い。
 宴の参加者に、若者の姿はない。
「みんな兵隊に取られてしもうてなー。魔獣を退治する者もいなくなってしもうて、どこもかしこも廃村じゃぁ。ここはかろうじて海から漁があるからのー。みんなして、この村に寄り添って生きてるですだ。今日は皆さんのおかげでー、楽しい夜になりました」
 感謝されるのは気分がいいけど、なんだかやるせない話になって来た。
 お爺さん、クラーケンをくちゃくちゃやりながら泣いてるし。

 宴のはずが徐々に、湿っぽい飲み会になってきた。
 気分を変えようと松明を手に、ベルゼビュートが耕した畑を見に出た。
 種は撒いたとのことだが、収穫はいつになる事やら。
 ぼんやり眺めていると、ベルゼビュートが畑に恵の雨を振らせる。 ルシファーが一帯の季節を早送りする。
 二・三分で穀物が実って収穫できる状態になった。
「奇跡じゃー。ベルゼビュート様が村に恵の奇跡をくださった」
 見ていた村人がベルゼビュートを拝み倒す。
 ローカルスターだねー。
「この村では、ベルゼビュートは神様以上だね」
 私の発言にフェンリルが反応した。
「それだ。ベルゼよ、これからお主はこの国を巡り、戦禍に苦しむ民を救って回るのだ」
「流石にフェンリル様。僕もその手で行こうと考えていました」 
 ルシファーが賛同する。
「自分が人助けの旅っすか」
 ベルゼビュートは、彼らの計略に気づいていない。
 私達は気付きましたよ。

「悪いようにはしないから、今は僕達の言うとうりに人助けだ。事を急いで早死にするなんてのは愚か者のやることだよ」
 ルシファーがなだめるようにベルゼビュートを説得する。
「よく分からないっす。でも、ルシファー様がそう言うなら間違いないっすね。自分は従うまでっす」
「良かった。明日から忙しくなるぞー」
 さっきまでの薄暗い雰囲気が一気に吹き飛んだ。
 とことん楽しく過ごす夜は、あっという間に過ぎてしまうものだ。
 村人も一人二人、広場から家路についた。
 村人にはそれぞれ沢山の土産を持たせた。
 残った食料を、丁寧に木箱へと詰めているエポナさん。
 これは宴の後の儀式のようなもので、今までも後片付けの度にやっていた。
 私はこの様子を別段疑問には思っていなかった。

「ねえー、エポナさんは、いつもそうやって木箱に食べ残しを詰めているけど、それどうしてるのー」
 ティンクは不思議に思っていたみたい。
「これはね、気が向いた時に私がいただいてますの。普段は、何もしなければ牧草だけで十分なのですよ。今は分身がいっぱい働いていますので、その分のエネルギー補給が必要ですの。ぜーんぶ私がいただいてますわ」
 ここで一番の大食いは、フェンリルでもルシファーでもなく、エポナさんだった。

 そうこうして、ああだこうだ・すったもんだ、ベルゼビュートの人助け世直し旅が始まってから、かれこれ早いもので二週間が過ぎた。
 私達はこの旅に付き添う従者という設定になっていて、村の周辺にはびこる魔獣を退治したり、調理したり、宴会の準備をしたり、食べまくったり、毎日楽しく働いている。
 ベルゼビュートの御助け旅は噂が噂を呼び、行く先々で何時も歓迎のお祭り騒ぎだ。
 その度に恵の雨を振らせ、実りの奇跡を起こし、ベルゼビュート教の信者は加速度的な右肩上がり。
 嘆いてばかりいた村人の顔にも笑みが戻り、深く感謝されての旅は実に気分が良い。
 動き回っているのに疲れを感じないでいられる。
 随分と有難い毎日だ。

 今夜も村で奇跡の収穫祭兼ベルゼビュート様御一行歓迎会。
 良い気分になっていると、馬車から麒麟の子が起き出してきた。
「な、な、な、何だその生き物は、麒麟ではないのか」
 フェンリルがびっくり仰天、腰を抜かしてあたふたする。
「はい、子麒麟で御座います。フェンリル様は初めての対面でしたわね。迷子になっていたのを私達が保護いたしましたの」
「黄麒麟には伝えたのか」
「今は反宇宙に行っていますので、私達から連絡する事はできません」
「そうであったな。奴め、これを見たら腰を抜かすぞ」
 腰が抜けたのはフェンリル、貴方です。
「黄麒麟様からの定期連絡の際に報告していただくよう、しずちゃんに頼んであります」
「ふははは、それは楽しみよのう」

 こんな宴の最中、酔ったベルゼビュートが自慢げに一本の槍を持ち出してきた。
「ルシファー様、覚えてますか。ルシファー様からいただいたアスカロンの槍ですよー。これは今でも自分の宝っす」
 そう来られたら、私達にも自慢しなければならない御宝がある。
 私とルシファーで二本のシェルリル刀、エポナさんのシェルリル包丁、そしてティンクが持っているシェルリル針剣。
 これを掲げて四人が並んでポーズ&記念撮影。
 何でフェンリルがバックに写り込んでるのよ。
「あと、シェルリル短剣を黄麒麟様が持ってるよ」
 特に作者のティンクは誇らしげだ。
 シェルリル針剣て、いったい何に使うんだ?

「‥‥‥いいなー、それ」
 これまで威勢の良かったベルゼビュートが、しぼんだ風船のようにしゅんとなって項垂れてしまった。
「そうだ、しずちゃんとシェルティーさんに連絡して、シェルリル剛を持って来てもらってよ。そしたら、あたしがアスカロンの槍にシェルリルを巻いてあげる」
「アスカロン・シェルリルか。驚異的な槍になるね」
 私も完成品を見てみたい気持ちはあるから、励ましの意味を込めて共感した。
 持って来てもらうより、送ってもらった方が早くないか。
「なんという有難い申し出、感謝いたします」
 ベルゼビュートではなく、ルシファーが有難がっている。
 ベルゼビュートに関係して良い事があると、ルシファーは自分事のように喜ぶ。

 エポナさんが、しずちゃんに連絡してから三日が過ぎた。
 夕食時だけ手土産の魔獣を持って現れ、腹いっぱいになると帰ってしまうフェンリルが、珍しく長尻している。
 今日は熱かったので、生ビールが一際美味しいようだ。
 ゲップが出る度に周りを見回す。
 ゲップが恥ずかしいんだな。
 鼻先が赤く色付いているのは、酔っているからだけではないと見た。
 毛むくじゃらで顔の色合いはよく見えないけど、たぶん鼻先より赤くなっている。
 ここへ休日返上のしずちゃんが、超高価なシェルリル剛を持ってきてくれた。
 誰が代金を支払ったんだ。
 金の出所は不明のままだ。

 慌てたのはベルゼビュートだ。
 隠れようにも広場の真ん中で、祭壇の上に祭られているからどうする事も出来ない。
 私達もあたふたしたけど、そこは気心が知れたしずちゃん。
 私達の最終目的を知ってか知らずか、ベルゼビュートを無視してフェンリルとビールの飲み比べを始めた。
 この戯れを良い事に、ベルゼビュートは祭壇から下りて私達と一緒に飲み始めた。
 自分はベルゼビュートではないぞといった顔をしているけど、骸骨の模様入り四枚羽がしっかり名刺代わりになっている。
 
 この日、しずちゃんが持って来たのはシェルリル剛だけではなかった。
 黄麒麟さんが博物館に置いて行った短剣も持ってきていて、これは、まだ素性の知れていない子麒麟に託された。
 ティンクは職人芸を披露しながら、シェルリルとアスカロンを組合わせ、驚異的な槍を作り出した。
 披露しながらとしたけど、正直言って動きが速過ぎた。
 誰も何も見えなかった。
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