無法探偵

甘党

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妻の危機

無法探偵:探偵記録NO,1【Where is プリン】

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この世の中には悪と正義がある。悪いことをするとそれは「悪」とみなされ、「正義」

に倒される。これが世の理であり、全世界全人類に課せられた「法」なのだ。

しかし、この「法」から逃げたものが一人いた。それ

「逃げたとは心外だね。僕は法を嫌い、法に抗い、法を抹消した。歩く治外法権がこの

僕さ。」

法から逃げたもとい法を抹消した人こそこの物語の主人公であり、この探偵事務所の所

長兼探偵の無法理無(むほうただなし)でこの人助手戌井犬斗(いぬいけんと)がこの僕だ。

そんでもって僕が務めているこの事務所は「無法探偵事務所」で都会のビルとビルの間

の細い路地を通り、坂道を登り下りし、薄暗い場所の隅に事務所がある。長々と語った

が、まとめればクラスで一番優しいと有名の田中くんでさえ、激憤し激昂し

るくらい、荒んだ環境だということだ。ただそんな荒んだ環境であっても、たとえ苦し

み悶えるような場所であっても、訪れる人はいる。どこからともなく湧き出る噂を鵜呑

みし、藁にもすがる思いで、藁にもすがらなければいけない状況の人が。

「誤解を招くようなことをいうべきではないよ。ここに来る人の大概は興味本位や、半


分嫌がらせみたいな人だけで、この事務所に入って来るときには苦しみ悶えて藁にもす

がる思いで僕たちに助けを求めているってだけなんだから。


「卑屈な意見じゃないですか?」

「そんなことないさ。実際その人たちは藁にすがるべくしてすがっているんじゃない。

自分から藁に向かってトライしに行ってるんだよ。」

「取り敢えずそんなくだらない例えにラグビーの、ボールを相手ゴールライン向こうに

あるインゴールに持ち込み、地面に置くことで5点を取得する方法の名称を使ったこと

に対して謝ってください。」

「誠に申し訳ありませんでした。この件に関して反省の意をを示したいと恩います。」

「『思』が『恩』になってます。」

「謝っているときに誤るなんて僕はなんてことをしてしまったんだ…」

「氷河期かと思いました。」

「そのまま一生凍ってくれないかい?」

「人間の発言とは思えませんね。」

「この土壇場にきて…やはりお前は人間だ。ククク……ごく短い時の流れでしか生きない

人間の考え方をする…………。」

「どこの吸血鬼ですか。しかもあなたも紛れない人間じゃないですか。」

「わからないよ。もしかしたら僕が夜な夜な吸血に勤しんでるかもしれないじゃない

か。」

「だったらなぜ僕は吸血されないんですか。」

「だって君の血不味そう。」

今この人はとんでもないことを言った!仮にも助手であり、パートナーである僕の血を

不味そうって!「紫色してそ

「僕はナメック星人か!!」

「まあ僕が吸血鬼なのか君がナメクジなのかは置いといて。」

「あ!!ワンランクダウンした!僕の種族に一体何をするんだ!」

いや僕の種族は人間なのだけども。

「まあ君が枝豆なのかどうなのかは置いといて。」

「ナメック星人に何か恨みでもあるんですか!」

「あるとすれば君にあるよ。」

………僕はその言葉に反論できない。それだけのことをした自覚は一応あるのだから。

「そう黙り込むこともないさ。僕は君を許しはしない。そして君も僕を許さない。それ

でいいだろう。WIN-WINならぬLOSER-LOSERさ。」

使い方は違うのだろうけど言いたいことはわかった。みんなハッピーエンドで平等では

なく、みんなバッドエンドで平等になったのだ。それでもうあの「探偵記録」は終わったのだ。

「さあ話を戻そう。今日は午後から依頼者が来るはずだよ。」

「またいたずらですかねぇ」

「ううん…どうだろう。午前9時現在で今のところいたずら8件事務所に来るまでに虫の

息8件だからねぇ…。そうだ!ここはひとつ賭けをしないかい?予約された方が依頼者

かいたずらか。」

「別にいいですよ。 なら僕は…」

「ストップ!ただそうやって脳死したかのように即決するのな探偵らしくない。5分あ

げよう。理由も含めて僕に提示するんだ。」



……5分後

「僕はいたずらだと思います。理由は簡単。わざわざこんな廃れたところに来るくらい

なら、まだ三流探偵事務所に行ったほうがマシですから。」

「なら僕は本命かな。」

「理由は?」

「え?言う必要なくない?」

「無法さんが提示したルールじゃないですか!?」

「強制した覚えはないんだけどね。」

「なら僕が強制します。」

「うーん………強いて言うならフラグが立っているからかな。」

「メタい!!」




……そして午後に

「…失礼します。」

ドアの上にある鈴がカランコロンと鳴る。

「お待ちしておりました。探偵の無法と申します。」

「…先日予約させていただいた虎田寅助(とらだえんすけ)と申します。」

ではそこに椅子に座っていてください。と無法さんはある種テンプレとも言われるやり

とりを済ませた。というか僕は初対面のはずの依頼者の名前にどこか見覚えがある。何

故だろう。

そんなことを思いつつ僕はお茶を出し、無法さんの隣に座り、一呼吸おく。そして二呼 

吸、三呼吸………今は一

体何呼吸目だろうか。おそらくもう3桁を越したくらいに無法さんが囁く。

「君は本当に接客に向いてないね。これはどう考えたってお茶がお気に召さなかったん

だろう。最初は無難に水に決まっているだろう。」

そういわれるとそういう気になってしまう石の弱い自分がある…。

そして僕はその言葉を鵜呑みにし、水をだす。

そして無法さんの隣に座り一呼吸おく。そんでもって例のごとく3桁起こしたくらいに

また無法さんが囁く。

「君。これはきっとお菓子がないことに苛立っているんだ。仕方ない。冷蔵庫に君のプ

リンがあっただろう。あれ渡してあげたまえ。」

その口調には若干焦っているような感じだった。否、若干僕を焦らせようとする感じだ

った。

「無法さん。それって無法さんのでもいいですか。」

目を潤ませて言う。いやこればっかりはガチでお願いする。

「ああ。そう言えば君は甘党なんだっけ。ごめんねー。でも僕も甘党なんだ。あれそう

言えば人の不幸ってどんな味だったけ?物知りな君ならきっとわかるんだろうなー。」

「……………………蜜の味………」

「そうだ。蜜の味だったねー。折角君が我が身を削ってまで蜜の味を体験させたあげよ

うとしているのに、それを無下にはできないよねー。僕も鬼じゃないからなぁ。」

明らかにあなたは鬼ですよ。もう前言撤回。あなたは完全に人ではない。吸血鬼でもな

んでもなってしまえ(泣)

僕はそんなことを思いつつもプリンを差し出した。ドンっと机から乾いた音がなる。否

乾いた音を鳴らしたのだ。勢い良くプリンを置いたせいで。決して拗ねているわけで

も、怒っているわけでもない。ただ接客に対して張り切って置いたらたまたま音がなっ

ただけだ。たまたまだよ。

そして一呼吸、二呼…カラン……音がした。僕が不意に瞬きした瞬間、そんな音がした。

そして僕は何を勘付いたのかわからないが、プリンの方を向く。そして目を剥いた。も

うプリンがなくなっていたのだ。時間にしてコンマ何秒も無いだろう。でも綺麗に、ま

るでそこにプリンがなかったかのようにプリンが食べられていた。立つ鳥跡を濁さずと

は言うが、この場合プリンは立つ前に明らかに姿を消したのだ。神隠しといっても過言

で………

「長い。いつまで喋るつもりだい?危うく寿命を迎えるところだったよ。」

「モノローグを喋っていることにされたら、僕は迂闊に無法さんの前で大人な妄想もで

きないじゃないですか。」

「まず僕の前で大人な妄想をすることがおかしいんだよ。そんな弱々しい羞恥プレイ初

めて聞いたよ。」

「そんな趣味僕はもっていませんよ。性癖に関して言っても僕は結構普通な方です

よ。」

「よく言うよ。まさか君の性癖が爪の垢を煎じて飲むことだったなんて……」

「僕にそんな趣味はありません!」

「ことわざの世界だけだと思っていたのに…現実であれを見ると三日三晩眠れないと言

っても過言だね。」

「過言なんです。」

依頼人の前でそんな話をしていると急に依頼人が泣き始めた。

えっ…そんな涙なしで語れぬエピソードだったか!

「…………助けて…ください…。私を……私の妻を……助けて…………ください……!!」

突如として喋り出す依頼人。歯切れ悪くも短く発信されたそのメッセージ。

「妻を助けて…ですか。それが依頼でよろしいですか?」

「………はい。」

依頼者が涙を拭き、そう答える。聞き覚えのある名前…依頼者の妻の危機とも取れるメ

ッセージ…そして僕のプリンは何処へ!!




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