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おもちゃ箱のなかみ
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「あのさ、この後なんだけど」
「うん、どうしようか」
欲しかったものも買って、見たいものも見て、ひと休みするために入った喫茶店。普通に付き合い始めのデートなら、今日はこれくらいで、となりそうで、俺は寂しくてもう少し粘りたいような気分だった。
「…夏生くんが僕のために集めてたの、見たいな」
「……えっ!?」
明確に何とは言わずとも、『榛名くんのために集めてた』と言うと、もうアレしかない。それを見せる? 今日、この後?
「だめ?」
「だ、だめじゃないけど」
榛名くんは戸惑う俺を見て、少し困り顔をして見せたけど、ほんの少し口元が笑っている。あんな出会い方をした俺たちだから、初めてのデートと言っても、つい期待は大きくなってしまっていた。
榛名くんは、きっとそれを見抜いていたんだろう。俺がきっと断れないって、わかったうえでこんな上目遣いのえっちな顔で聞いてくるんだ。
「やった、じゃあ、連れてって。夏生くんの家」
「うん、じゃあ…行こっか」
多分俺に拒否権はなかったと思う。榛名くんは言葉も雰囲気も柔和で、よく笑う明るい子だけれど、俺はそんな子に弄ばれるのが、どうにも心地よく思ってしまっていたのだった。
「おじゃましまーす」
榛名くんは明るくそう言っているけれど、俺は彼が自分の家に居るのが信じられないでいる。それでも、ここまで全てのことがトントン拍子に進んでいて、もう驚いたり緊張感することにも慣れてしまい、意外と態度は平静を保てていた。
「散らかってるけど、ごめんね」
「いや、キレイにしてるじゃん。一人暮らしいいなあ」
「榛名くんは実家なんだっけ」
「そう、なんか一人暮らし反対されててさ。ちょい過保護なんだよね」
榛名くんは落ち着いてはいるものの、一人にするのはちょっと不安だというのはなんとなくわかるような気がする。彼の機嫌を損ねそうで言わないことにしたが、妙に納得してしまった。
榛名くんにはやくはやくと急かされて、俺はクローゼットに積み重ねてしまってある箱をふたつ取り出してくる。たくさんのおもちゃが詰まっているその箱は置くとごとりと音がして、それに対して榛名くんがおお、と小さく声をあげたのに恥ずかしくなった。まるで愛の重さを計られてしまったみたいだ。
「……やっぱり全部見せなきゃダメ?」
「いいじゃん、減るもんでもなし」
「恥ずかしいんだけど」
「あんなとこで会ったのに今更~」
「…それは、確かに」
そう言われてしまうと、まあいいかと思えてしまう。出会いっていうのは色んな意味で大事なんだなと思う。
「……それに、恥ずかしいのは僕も同じだし」
「! だ、だよね」
そうだ、多分これから今日使うものを選ぶ流れになる。見せてほしいだなんて、遠回しにすらなっていない、榛名くんなりの誘い文句だ。いい加減、そういう展開に戸惑って照れてばかりじゃかっこつかないだろう。
覚悟を決めるみたいに俺の手で開かれたひとつめの箱。俺にとっては見慣れたおもちゃたちだけれど、いざ客観的に見ると……
「めちゃ多っ! 何個あるのこれ?」
そういう感想になるだろうなというくらいには、箱にぎっしりと詰まっている。
「数えてないな、なんかカウントするのも変な気がして」
「それもそうだね。わ、これかわいい」
「それかわいいよね。持つところがうさぎの形になってるの」
榛名くんはたくさんのおもちゃを前にかわいいかわいいとはしゃいでいる。それだけを言葉にすればなんだか微笑ましく思えるから不思議だ。かわいらしいピンク色のそれは、ビーズ型のアナル用バイブであって、れっきとしたアダルトグッズだ。
「アダルトグッズって、こういうやけにかわいいものも多いよね……っていうかなんか、ピンクとかかわいい形のやつとかばっかり選んでる?」
「……榛名くんのこと考えて選んでたから、そうなったんだよ」
「あは、そっか」
顔も知らなかったのに、勝手なかわいいイメージで選んでしまっていた。すぐにそれに気付かれたことに、やっぱり少し恥ずかしくなってしまった。
「うん、どうしようか」
欲しかったものも買って、見たいものも見て、ひと休みするために入った喫茶店。普通に付き合い始めのデートなら、今日はこれくらいで、となりそうで、俺は寂しくてもう少し粘りたいような気分だった。
「…夏生くんが僕のために集めてたの、見たいな」
「……えっ!?」
明確に何とは言わずとも、『榛名くんのために集めてた』と言うと、もうアレしかない。それを見せる? 今日、この後?
「だめ?」
「だ、だめじゃないけど」
榛名くんは戸惑う俺を見て、少し困り顔をして見せたけど、ほんの少し口元が笑っている。あんな出会い方をした俺たちだから、初めてのデートと言っても、つい期待は大きくなってしまっていた。
榛名くんは、きっとそれを見抜いていたんだろう。俺がきっと断れないって、わかったうえでこんな上目遣いのえっちな顔で聞いてくるんだ。
「やった、じゃあ、連れてって。夏生くんの家」
「うん、じゃあ…行こっか」
多分俺に拒否権はなかったと思う。榛名くんは言葉も雰囲気も柔和で、よく笑う明るい子だけれど、俺はそんな子に弄ばれるのが、どうにも心地よく思ってしまっていたのだった。
「おじゃましまーす」
榛名くんは明るくそう言っているけれど、俺は彼が自分の家に居るのが信じられないでいる。それでも、ここまで全てのことがトントン拍子に進んでいて、もう驚いたり緊張感することにも慣れてしまい、意外と態度は平静を保てていた。
「散らかってるけど、ごめんね」
「いや、キレイにしてるじゃん。一人暮らしいいなあ」
「榛名くんは実家なんだっけ」
「そう、なんか一人暮らし反対されててさ。ちょい過保護なんだよね」
榛名くんは落ち着いてはいるものの、一人にするのはちょっと不安だというのはなんとなくわかるような気がする。彼の機嫌を損ねそうで言わないことにしたが、妙に納得してしまった。
榛名くんにはやくはやくと急かされて、俺はクローゼットに積み重ねてしまってある箱をふたつ取り出してくる。たくさんのおもちゃが詰まっているその箱は置くとごとりと音がして、それに対して榛名くんがおお、と小さく声をあげたのに恥ずかしくなった。まるで愛の重さを計られてしまったみたいだ。
「……やっぱり全部見せなきゃダメ?」
「いいじゃん、減るもんでもなし」
「恥ずかしいんだけど」
「あんなとこで会ったのに今更~」
「…それは、確かに」
そう言われてしまうと、まあいいかと思えてしまう。出会いっていうのは色んな意味で大事なんだなと思う。
「……それに、恥ずかしいのは僕も同じだし」
「! だ、だよね」
そうだ、多分これから今日使うものを選ぶ流れになる。見せてほしいだなんて、遠回しにすらなっていない、榛名くんなりの誘い文句だ。いい加減、そういう展開に戸惑って照れてばかりじゃかっこつかないだろう。
覚悟を決めるみたいに俺の手で開かれたひとつめの箱。俺にとっては見慣れたおもちゃたちだけれど、いざ客観的に見ると……
「めちゃ多っ! 何個あるのこれ?」
そういう感想になるだろうなというくらいには、箱にぎっしりと詰まっている。
「数えてないな、なんかカウントするのも変な気がして」
「それもそうだね。わ、これかわいい」
「それかわいいよね。持つところがうさぎの形になってるの」
榛名くんはたくさんのおもちゃを前にかわいいかわいいとはしゃいでいる。それだけを言葉にすればなんだか微笑ましく思えるから不思議だ。かわいらしいピンク色のそれは、ビーズ型のアナル用バイブであって、れっきとしたアダルトグッズだ。
「アダルトグッズって、こういうやけにかわいいものも多いよね……っていうかなんか、ピンクとかかわいい形のやつとかばっかり選んでる?」
「……榛名くんのこと考えて選んでたから、そうなったんだよ」
「あは、そっか」
顔も知らなかったのに、勝手なかわいいイメージで選んでしまっていた。すぐにそれに気付かれたことに、やっぱり少し恥ずかしくなってしまった。
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