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相談
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いつもの道を、いつも通りの自分が歩く。大学生になってから住み始めたアパートも、今ではすっかり慣れている。そのはずなのに、そこにいる自分だけがふわふわとしていて、まるで別の世界みたいに見える。
もちろん本当のところは、別に何が変わったわけでもない。けれど俺にとってはついそう感じてしまうくらい、浮かれたり、落ち込んだりを繰り返していたのだった。
ずっと好きだった子と、してしまった。
それはその言葉の響きに含まれるような、決して一般的に、常識的に、順当に、恋をして告白をして付き合って、その末に成就したという、そんなものではなかった。むしろ、それの正反対とさえ言えるかもしれない。
始まりがまず、アダルトサイトにアップロードされている彼自身が撮影したオナニー動画を、俺が偶然目にしたことからだ。ここからまず、一般的であるとかそういう話をするのがバカらしくなるような始まりだ。
画面越しの彼の淫らな姿に、俺は欲情するとともに、今にして思えば、恋をしてしまったのだろう。恋と呼ぶにはあまりにも欲望にまみれていて、そう断言するには気が引けるけれど。
それでも、彼を知ってからの俺は四六時中、寝ても覚めても彼のことを考えていた。自分でも嘘だろうと思ったけれど、紛れもなく、俺は彼のことが好きだった。
会えるかもわからない彼に贈るプレゼントを買い貯めた。彼への想いが募っていくのと同じだけ、未使用の大人のおもちゃが増えていったのだった。いつかこれらを、彼に使ってみてほしい。できることなら、俺の目の前で。
その結果がどうだろう。運命の悪戯で巡り会えた俺たちは、勢いとしか言いようのないシチュエーションで、セックスしてしまった。ホテルに入る前に彼が許してくれたのは「おもちゃを使うこと」だったような気がするのに、キスもしたし、挿入までかましてしまったのだ。
最終的には彼からも求めてくれていたように思うけれど、正直いっぱいいっぱいだったのでそれも定かではない。
こんなこと、許されるのだろうか。騙してやっちゃったようなものなのではないか。これまで割と遊んでいたとはいえ、こんな出会いも展開も初めてなのでわからない。
「……ということなんですけど、どう思いますか、アキさん」
「なにさ、そんなことで悩んでるの? 小さい男だね~松嶋くん」
まず俺がオナニー動画投稿者にハマったことを知っているのが、この世でたった一人、アキさんしか居ない。なので、こんなモヤモヤを相談できる相手もアキさんだけになる。
先日店を出た後に何があったのか聞かれたので正直に話して、これはアリなのかナシなのかを聞いてみたところ、アキさんからはそんな返答がくる。さらっと軽くディスられたが、アキさんだから、なんとなく傷つかずに済む。
「アキさんは強引な人が好きかもしれないですけど、榛名くんがそうとも限らないじゃないですか?」
「まあ、それもそうだね。もしあの子が奥手な子だったら、いいよって言ってないことまで勢いでされたら、ちょっと引いちゃうこともあるのかな~」
「うう、そうですよねえ」
アキさんの尤もな言葉に俺はやっぱり少し落ち込む。それでもアキさんは、まだ少し考えるような顔をしていた。
「でもさ、偏見かもしれないけど、自分でオナニー動画撮って投稿してる子が、そこまでウブで奥手ってことあるのかねえ。あの子にだって、そういうことへの興味とか、ともすると、人に見られたいみたいな願望は絶対あるわけじゃない?」
「……それは、確かに」
そこは盲点だった。というか、もしかしたら最初に考えるべきことのような気がするけれど、彼をきれいなもの、かわいらしいものとしてばかり考えているから、当たり前なのに見逃していた点だったかもしれない。
改めて彼に対して盲目だった自分を自覚して、これってやっぱり恋だったのかと思うし、恋をすると人はバカになるのだなと実感する。
「まあだから、アリかナシかで言うと僕は全然アリだと思うけどね。でも結局これも人それぞれじゃない? 僕の意見聞いてもね、本人に確かめなきゃ」
「そうですよね」
「……普段は他のお客さんについてのことなんて話さないけど、かわいい恋する松嶋くんにだけ、特別にあの子のこと教えてあげるとすると……」
「な、なんですか?」
「あの子もね、エッチなことに興味津々でしょうがないって子だよ。快楽に正直で、まだ感じたことのない気持ち良さを探してる」
色んなことを見抜くアキさんの目は、もちろん俺だけでなく、榛名くんのこともじっと見ていたようだった。それを思い出すみたいに、アキさんは語る。
「ウチのお店のお客さんには、いつも通りの快楽をいつも通りに欲しいだけって人も多いけど、あの子は違うよ。それだけはわかる」
「……そうなんですね」
「だから、初めてをくれたなんて、すごく嬉しいんじゃないかって、僕は思うよ」
そうなんだろうか。そうだったらいいな。
俺はそんな風に思って、そのことでまた、ああ俺は榛名くんが好きなんだなとわかった。衝動的に動いてしまうのに嫌われるのが怖くて、右往左往と迷って、彼も俺のことを好きだったら嬉しいなんて思ってしまう。
「……会いたいな」
「ほんと、はやく連絡して話しなね。根性見せな!」
「はい。ありがとうアキさん」
アキさんの喝に気合を入れた俺は、あの日なんとか交換できていたらしい彼の連絡先へと、メッセージを送ったのだった。
もちろん本当のところは、別に何が変わったわけでもない。けれど俺にとってはついそう感じてしまうくらい、浮かれたり、落ち込んだりを繰り返していたのだった。
ずっと好きだった子と、してしまった。
それはその言葉の響きに含まれるような、決して一般的に、常識的に、順当に、恋をして告白をして付き合って、その末に成就したという、そんなものではなかった。むしろ、それの正反対とさえ言えるかもしれない。
始まりがまず、アダルトサイトにアップロードされている彼自身が撮影したオナニー動画を、俺が偶然目にしたことからだ。ここからまず、一般的であるとかそういう話をするのがバカらしくなるような始まりだ。
画面越しの彼の淫らな姿に、俺は欲情するとともに、今にして思えば、恋をしてしまったのだろう。恋と呼ぶにはあまりにも欲望にまみれていて、そう断言するには気が引けるけれど。
それでも、彼を知ってからの俺は四六時中、寝ても覚めても彼のことを考えていた。自分でも嘘だろうと思ったけれど、紛れもなく、俺は彼のことが好きだった。
会えるかもわからない彼に贈るプレゼントを買い貯めた。彼への想いが募っていくのと同じだけ、未使用の大人のおもちゃが増えていったのだった。いつかこれらを、彼に使ってみてほしい。できることなら、俺の目の前で。
その結果がどうだろう。運命の悪戯で巡り会えた俺たちは、勢いとしか言いようのないシチュエーションで、セックスしてしまった。ホテルに入る前に彼が許してくれたのは「おもちゃを使うこと」だったような気がするのに、キスもしたし、挿入までかましてしまったのだ。
最終的には彼からも求めてくれていたように思うけれど、正直いっぱいいっぱいだったのでそれも定かではない。
こんなこと、許されるのだろうか。騙してやっちゃったようなものなのではないか。これまで割と遊んでいたとはいえ、こんな出会いも展開も初めてなのでわからない。
「……ということなんですけど、どう思いますか、アキさん」
「なにさ、そんなことで悩んでるの? 小さい男だね~松嶋くん」
まず俺がオナニー動画投稿者にハマったことを知っているのが、この世でたった一人、アキさんしか居ない。なので、こんなモヤモヤを相談できる相手もアキさんだけになる。
先日店を出た後に何があったのか聞かれたので正直に話して、これはアリなのかナシなのかを聞いてみたところ、アキさんからはそんな返答がくる。さらっと軽くディスられたが、アキさんだから、なんとなく傷つかずに済む。
「アキさんは強引な人が好きかもしれないですけど、榛名くんがそうとも限らないじゃないですか?」
「まあ、それもそうだね。もしあの子が奥手な子だったら、いいよって言ってないことまで勢いでされたら、ちょっと引いちゃうこともあるのかな~」
「うう、そうですよねえ」
アキさんの尤もな言葉に俺はやっぱり少し落ち込む。それでもアキさんは、まだ少し考えるような顔をしていた。
「でもさ、偏見かもしれないけど、自分でオナニー動画撮って投稿してる子が、そこまでウブで奥手ってことあるのかねえ。あの子にだって、そういうことへの興味とか、ともすると、人に見られたいみたいな願望は絶対あるわけじゃない?」
「……それは、確かに」
そこは盲点だった。というか、もしかしたら最初に考えるべきことのような気がするけれど、彼をきれいなもの、かわいらしいものとしてばかり考えているから、当たり前なのに見逃していた点だったかもしれない。
改めて彼に対して盲目だった自分を自覚して、これってやっぱり恋だったのかと思うし、恋をすると人はバカになるのだなと実感する。
「まあだから、アリかナシかで言うと僕は全然アリだと思うけどね。でも結局これも人それぞれじゃない? 僕の意見聞いてもね、本人に確かめなきゃ」
「そうですよね」
「……普段は他のお客さんについてのことなんて話さないけど、かわいい恋する松嶋くんにだけ、特別にあの子のこと教えてあげるとすると……」
「な、なんですか?」
「あの子もね、エッチなことに興味津々でしょうがないって子だよ。快楽に正直で、まだ感じたことのない気持ち良さを探してる」
色んなことを見抜くアキさんの目は、もちろん俺だけでなく、榛名くんのこともじっと見ていたようだった。それを思い出すみたいに、アキさんは語る。
「ウチのお店のお客さんには、いつも通りの快楽をいつも通りに欲しいだけって人も多いけど、あの子は違うよ。それだけはわかる」
「……そうなんですね」
「だから、初めてをくれたなんて、すごく嬉しいんじゃないかって、僕は思うよ」
そうなんだろうか。そうだったらいいな。
俺はそんな風に思って、そのことでまた、ああ俺は榛名くんが好きなんだなとわかった。衝動的に動いてしまうのに嫌われるのが怖くて、右往左往と迷って、彼も俺のことを好きだったら嬉しいなんて思ってしまう。
「……会いたいな」
「ほんと、はやく連絡して話しなね。根性見せな!」
「はい。ありがとうアキさん」
アキさんの喝に気合を入れた俺は、あの日なんとか交換できていたらしい彼の連絡先へと、メッセージを送ったのだった。
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