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おもちゃ屋さん
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どノンケだったはずの俺が、オナニー動画投稿者の男の子にハマってしまってからしばらく経った。
華の大学生活、真面目に勉強して受かったそこそこ良いランクの大学でそれなりに友達もできて、仕送りだけでは遊ぶ金までは作れないからそれなりにバイトもして、ごくごく普通に暮らしている。
そんな中で、こんな趣味ができてしまうとは夢にも思っていなかった。もともとそれなりに女の子と遊んでいたから、動画で抜くなんて馬鹿らしいと思っている人間だった。それが今や、彼の動画を繰り返し見るだけでは飽き足らず、最近はあろうことかアダルトグッズのショップに足繁く通い、彼に使ってほしいおもちゃや着てほしいコスチューム等を買い漁るようになっていた。
一生懸命働いたバイト代の使い道がこれでいいのかと悩んだこともあったが、これが思いの外とても楽しい。アダルトグッズというのは実に奥が深く、時に想像を超えるようなものに出会うこともある。ネットで買うよりも、実際に見て探す方が、思いもよらない出会いがあるものだった。
「あれ、いらっしゃい松嶋くん。また来たの」
「アキさん、こんにちは。またって言っても先月ぶりですよ」
熱心に商品を見て何度も通ううち、店員さんとも仲良くなった。始めはこういうお店を怖いとか怪しいとか思っていたが、副店長でありいつもお店に出ているアキさんはとても優しい人だった。
「そうだったっけ。嫌だねえ、月日の流れが早いったら」
本名は秋元さんというらしいが、胸元の名札にはアキとだけ書いてある。少し言葉遣いがやわらかくて女性のような話し方をするし、長い髪や身なりがいつも綺麗なおっとり美人であるが、れっきとした男性だ。よく店に来ているとはいえ、どうしてただの客である俺がこんな綺麗な人と仲良くなったのかと、今でも少し不思議に思う。
「……それ、スッゴイよ」
「え、え? ああ、これですか?」
俺が適当に手に取り、持ったままだったひとつのおもちゃ。それを指さして、アキさんは俺の耳元でそう囁いた。
俺が持っていたのは、不規則な配置でグロテスクなイボイボがまばらについたバイブ。竿の部分がウネウネと動くだけでなく、根本に近い部分のイボが回転するようになっている、なかなか激しめのおもちゃだ。我ながらとんでもないものを手に持っていたなと思う。
「ここの回るところがね、浅いところ刺激してきて、とにかくやばいの」
「うへえ……えげつない感じっすね」
「そうだね、結構上級者向けかも~」
実際にこれ使ったのか、アキさん。俺はついそう思いながら、手元のものをしげしげと見つめる。俺のそんな反応が面白いのか、それを見てアキさんもにこにこと笑っていた。
アキさんと話すようになったきっかけが、まさにこれだ。アキさんはネコ専門のゲイで、自身の趣向的にも職業的にも、アナル用のグッズにとても詳しい。俺はといえば、アナニー動画を見るようになったものの、実際に自分では経験も知識もないただのノンケである。アキさんもそんな俺の雰囲気を察したのか、そもそも初めてのアダルトショップで右往左往していた俺に話しかけてくれたのだ。
「それにしても、これで何個目? 使う相手がいるわけでもなし、自分で使うわけでもなし、よくやるねぇ」
「こ、これはやめときますって。何個目かは、正直数えてないからわからないです……」
そんな経緯があって交流が始まっているから、アキさんは俺がおもちゃを買う理由も知っている。ネットの動画投稿者に使う妄想のため…なんて話を、アキさんは笑わずに聞いてくれて、『素敵じゃないの~♡』と言ってくれた。
「顔も名前も知らない子に恋しちゃうなんて、なんだかとっても現代っぽいけど、ロマンチックだよね~」
「……恋とか、そういうんじゃないような気がしますけど」
「あれ、ちがうの?」
「そんな綺麗なものじゃないかと」
「でも、会ったこともないその子のために、何かしてあげたいって思うんでしょ?」
「何かしてあげたいというか、ナニかさせてほしいというか……ナニをしているところを見たいというか……」
「そんなの同じだよぉ! それが好きってことじゃない」
「お、同じかなあ……」
そう言ってアキさんはカウンターのほうへと戻っていく。大好きな恋バナをして満足したら仕事に戻るのはいつものことだった。
アキさんの恋とか好きの判定が割とガバガバなのは、それはそれとして。あの子のことを考えると落ち着かなくて、使いもしないおもちゃを買い集めるようなことまでしてしまうのは事実だ。いつか何かの奇跡であの子に会うことができたら、選りすぐりのあんなおもちゃやこんな衣装をプレゼントしたい。そんな風には思っている。
けれど、相手はネット上で一方的に知っているだけの存在だ。一応毎回「とてもえっちでかわいかったです」「最高でした」みたいな、短いコメントは残しているものの、普通ああいうサイトのコメント欄はそう熱心に見るものでもないだろう。
向こうは俺の存在すらも知らないだろうし、そもそも俺だって、あの子の顔も名前も知らないし、どこに住んでいるのか何歳なのかも知らない。すごく離れた地方に住んでる子かもしれないし、もしかしたら海外なんてことすらあり得るのがインターネットだ。そんな子と出会える確率なんて、きっと気が遠くなるほどの低さだろう。
……そんなことを考えると、ふと虚しさも感じたりする。
俺、これを買って最終的にはどうするんだろう。可哀想なおもちゃ達。いくらエッチなポテンシャルがめちゃくちゃに高くても、出番がなければどうしようもない。いっそ俺がアナニーに目覚めるしかないのか。いや、それは何かが違う気がする……と、もう何度目かわからない思考に突入するのだった。
華の大学生活、真面目に勉強して受かったそこそこ良いランクの大学でそれなりに友達もできて、仕送りだけでは遊ぶ金までは作れないからそれなりにバイトもして、ごくごく普通に暮らしている。
そんな中で、こんな趣味ができてしまうとは夢にも思っていなかった。もともとそれなりに女の子と遊んでいたから、動画で抜くなんて馬鹿らしいと思っている人間だった。それが今や、彼の動画を繰り返し見るだけでは飽き足らず、最近はあろうことかアダルトグッズのショップに足繁く通い、彼に使ってほしいおもちゃや着てほしいコスチューム等を買い漁るようになっていた。
一生懸命働いたバイト代の使い道がこれでいいのかと悩んだこともあったが、これが思いの外とても楽しい。アダルトグッズというのは実に奥が深く、時に想像を超えるようなものに出会うこともある。ネットで買うよりも、実際に見て探す方が、思いもよらない出会いがあるものだった。
「あれ、いらっしゃい松嶋くん。また来たの」
「アキさん、こんにちは。またって言っても先月ぶりですよ」
熱心に商品を見て何度も通ううち、店員さんとも仲良くなった。始めはこういうお店を怖いとか怪しいとか思っていたが、副店長でありいつもお店に出ているアキさんはとても優しい人だった。
「そうだったっけ。嫌だねえ、月日の流れが早いったら」
本名は秋元さんというらしいが、胸元の名札にはアキとだけ書いてある。少し言葉遣いがやわらかくて女性のような話し方をするし、長い髪や身なりがいつも綺麗なおっとり美人であるが、れっきとした男性だ。よく店に来ているとはいえ、どうしてただの客である俺がこんな綺麗な人と仲良くなったのかと、今でも少し不思議に思う。
「……それ、スッゴイよ」
「え、え? ああ、これですか?」
俺が適当に手に取り、持ったままだったひとつのおもちゃ。それを指さして、アキさんは俺の耳元でそう囁いた。
俺が持っていたのは、不規則な配置でグロテスクなイボイボがまばらについたバイブ。竿の部分がウネウネと動くだけでなく、根本に近い部分のイボが回転するようになっている、なかなか激しめのおもちゃだ。我ながらとんでもないものを手に持っていたなと思う。
「ここの回るところがね、浅いところ刺激してきて、とにかくやばいの」
「うへえ……えげつない感じっすね」
「そうだね、結構上級者向けかも~」
実際にこれ使ったのか、アキさん。俺はついそう思いながら、手元のものをしげしげと見つめる。俺のそんな反応が面白いのか、それを見てアキさんもにこにこと笑っていた。
アキさんと話すようになったきっかけが、まさにこれだ。アキさんはネコ専門のゲイで、自身の趣向的にも職業的にも、アナル用のグッズにとても詳しい。俺はといえば、アナニー動画を見るようになったものの、実際に自分では経験も知識もないただのノンケである。アキさんもそんな俺の雰囲気を察したのか、そもそも初めてのアダルトショップで右往左往していた俺に話しかけてくれたのだ。
「それにしても、これで何個目? 使う相手がいるわけでもなし、自分で使うわけでもなし、よくやるねぇ」
「こ、これはやめときますって。何個目かは、正直数えてないからわからないです……」
そんな経緯があって交流が始まっているから、アキさんは俺がおもちゃを買う理由も知っている。ネットの動画投稿者に使う妄想のため…なんて話を、アキさんは笑わずに聞いてくれて、『素敵じゃないの~♡』と言ってくれた。
「顔も名前も知らない子に恋しちゃうなんて、なんだかとっても現代っぽいけど、ロマンチックだよね~」
「……恋とか、そういうんじゃないような気がしますけど」
「あれ、ちがうの?」
「そんな綺麗なものじゃないかと」
「でも、会ったこともないその子のために、何かしてあげたいって思うんでしょ?」
「何かしてあげたいというか、ナニかさせてほしいというか……ナニをしているところを見たいというか……」
「そんなの同じだよぉ! それが好きってことじゃない」
「お、同じかなあ……」
そう言ってアキさんはカウンターのほうへと戻っていく。大好きな恋バナをして満足したら仕事に戻るのはいつものことだった。
アキさんの恋とか好きの判定が割とガバガバなのは、それはそれとして。あの子のことを考えると落ち着かなくて、使いもしないおもちゃを買い集めるようなことまでしてしまうのは事実だ。いつか何かの奇跡であの子に会うことができたら、選りすぐりのあんなおもちゃやこんな衣装をプレゼントしたい。そんな風には思っている。
けれど、相手はネット上で一方的に知っているだけの存在だ。一応毎回「とてもえっちでかわいかったです」「最高でした」みたいな、短いコメントは残しているものの、普通ああいうサイトのコメント欄はそう熱心に見るものでもないだろう。
向こうは俺の存在すらも知らないだろうし、そもそも俺だって、あの子の顔も名前も知らないし、どこに住んでいるのか何歳なのかも知らない。すごく離れた地方に住んでる子かもしれないし、もしかしたら海外なんてことすらあり得るのがインターネットだ。そんな子と出会える確率なんて、きっと気が遠くなるほどの低さだろう。
……そんなことを考えると、ふと虚しさも感じたりする。
俺、これを買って最終的にはどうするんだろう。可哀想なおもちゃ達。いくらエッチなポテンシャルがめちゃくちゃに高くても、出番がなければどうしようもない。いっそ俺がアナニーに目覚めるしかないのか。いや、それは何かが違う気がする……と、もう何度目かわからない思考に突入するのだった。
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