ある日のひみつの森のなか

おさかな

文字の大きさ
上 下
15 / 21

町へ行こう

しおりを挟む
「そろそろまた町へ行こうかと思います」
 ノエルはある日、ジノにそう言います。
「いいよ、いつ? 今日? 明日?」
「今回は少し量が多いので、今日は荷造りをして明日向かいたいです」

 ノエルが町に行くのは、畑で栽培したものや森の薬草などを採取して作った薬を売りにいくためです。ノエルは植物オタクで薬づくりが得意でした。
 町にはノエルの作った薬がよく効くと気に入って買ってくれる医者や店があるので、そこへ定期的に売りに行きノエルは生計を立てているのです。

「オッケー。荷造りも手伝うよ」
「ありがとうございます。助かります」
 ノエルはいつも手伝ってくれるジノにきちんとお礼を言います。そのたびにジノは、ノエルの役に立てる自分が誇らしくなります。


 次の日ふたりは朝早くから町へと出掛けます。町は色々な種族が入り混じって暮らしています。普段はひっそりと暮らしているノエルにとって人の多い場所は不慣れなものですし、小柄なノエルよりも体の大きな種族がほとんどですから、歩くのも一苦労です。

 それに、多くの人が集まる町は善良な人ばかりではありません。本来強く逞しいはずの種族なのに小さく非力に生まれてしまったノエルはごろつきに絡まれやすいのです。
 なので、町に行く日には必ず耳を隠すために深くフードを被って歩きます。町の女性たちの間で流行っている髪を守るための頭巾のような赤いフードは、かわいらしいノエルにぴったり似合っていました。

「……っ! いったぁ……」
「ああ? どこ見て歩いてんだぁガキ。舐めてんじゃねえぞ」
 種族などは関係なく、小さなノエルの姿を見てわざとぶつかり、いちゃもんをつけてくる者もいます。
「おい、ぶつかってきたのはそっちだろ」
「……チッ、気をつけろよ」
 すかさず後ろを歩いていたジノが睨みつけながら凄むと、ごろつきは怯んだ様子で去っていきます。

「大丈夫? ノエル。怪我してない?」
「これくらい平気です。しかし、オオカミというのは得ですね」
 オオカミ種は特に身体能力に優れ、強い種族として知られています。そして狂暴であるという偏見を持たれていて、その目つきの鋭さが威圧感を与えるのです。ジノはまだ若く幼さが残る外見ですが、そんなジノでさえ敵意をむき出しにして睨みつけたなら、弱い者をいじめようとするような者の殆どはそのまま去っていくのです。
「あはは、そうだね。ノエルを守れるなら、オオカミでよかったと思うよ」
 人懐っこい笑顔を浮かべるジノは、もちろん狂暴さとはかけ離れた青年です。争わずにノエルを守れるならば、他の者からの偏見など安いものだと思うジノなのでした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

処理中です...