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出会ったころの話
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それからノエルはジノが獲ってきた鴨肉とハーブやスパイスを使って料理をして、二人で食卓を囲みました。
「うん、美味しい。さすがノエル」
「こういう調理は久々にやりましたが、うまくいってよかったです。美味しいですね」
二人はにこにこと上機嫌に料理を楽しみます。人里離れた場所に住むノエルは小屋の裏にある小さな畑の野菜と、いつもこうしてジノが何か獲ってきたり町から仕入れてくるものなどを食べて暮らしていました。
「いつもありがとうございます、ジノさん」
「ううん! 俺がノエルに何かしたいんだ」
ジノはノエルのことが大好きです。だからこうしてノエルのために狩りをしたり町で色々なものを仕入れてきたりするのは負担になどなりませんでした。
「それに、ノエルにはこんなことじゃ返せないくらい恩があるんだから。全部そのお返しなんだよ」
「だから、それはもう気にしなくてもいいと言っているでしょう」
「そんなの無理だよ。それに、ノエルが俺を助けたくてそうしたように、俺がそうしたくてやってるだけだから」
「あなたも言うようになりましたねえ」
「ふふ、そうでしょ? もうノエルに口でも負けないよ」
そう話すジノはすっかり大人の顔をしています。その顔を見て、ノエルももう何も言い返しません。
ジノが話す恩というのは、ジノがとてもとても小さかった頃の話です。
ジノは森でひとりぼっちでした。ある日突然、家族がみんな居なくなってしまったのです。
実はジノの家族は獣人種ではない普通の人間を襲ったために、人間の猟師に撃たれて殺されてしまいました。たまたまそのとき寝床で留守番をしていた幼いジノだけが生き残り、何も知らないまま孤独な子になってしまったのです。
家族を探してひとり森の中を彷徨っていると、この小屋の近くを通りかかり、ノエルと出会いました。
ノエルはとても長寿の種族ですから、既に大人になっていたノエルは今のままの姿でジノの前に現れました。ジノはまだ幼い小さな子どもで、親の世話を突然受けられなくなり薄汚れて痩せていました。
「おや、小さなオオカミさん。どうしたのですか、こんなところで。……あなた、汚いですねえ。親から捨てられましたか」
「……おれ、捨てられたのかな?」
「うぅん、自分の状況すらわかっておられないのですね。まあ、子どもですし仕方がないのでしょうか……」
ノエルは少し考え込みました。ノエルはかわいらしく優しそうな雰囲気をしていますが、実のところ極度の面倒くさがりで人嫌いなのです。見知らぬオオカミ種の子どもを保護するなど、本心を言えばしたくはありませんでした。
けれど、薄汚れたみすぼらしい非力な存在が、自分の置かれた状況すら理解できないような子どもが、ひとりぼっちで誰にも頼れずにいることに痛む心はありました。それは、かつての自分のようだったからです。
「あなた、帰る場所がないのでしたらうちへいらっしゃい。もちろん、あなたがお嫌でなければですけれど」
「……いいの?」
「ええ、狭いところですが、小さなあなたが眠る場所くらいはありますよ」
「たべもの、ある? ……おなか、すいた」
「オオカミさんのお口に合うかはわかりませんが、何か作ってさしあげましょう」
そんなやりとりをして、ノエルはよろよろと歩くジノをひょいと持ち上げて、抱っこしたまま小屋へと連れて帰りました。
それからジノはノエルの小屋で食事をとり、夜は一緒にベッドで眠りました。
そっけない態度で難しい言葉を使うノエルのことを最初は気難しいウサギだと思っていましたが、その奥にある優しさや世話焼きな面を知っていき、ジノはどんどんノエルが大好きになりました。
「ノエル、おさかなとってきてあげる!」
「ジノさん、転ばないように気を付けるんですよ」
「だいじょうぶー!」
ノエルのお世話のおかげですっかり元気になったジノは、ノエルのために得意の狩りをして畑の野菜や保存食の干し肉だけじゃなく色んなものが食べられるようにと頑張りました。ジノが少し大きくなってからは、少し離れた町へ行って必要なものを買いそろえてきたりもしてくれました。
「ノエル、だいすきだよ」
「はいはい。もうたくさん聞きましたよ」
ジノは、助けてもらった恩返しをするうちに、ノエルに対する小さな恋心もゆっくりと育てていきました。ノエルにとってジノはほんの子どもです。ノエルの膝の上に頭を乗せて髪と耳を撫でてもらいながら眠るのが大好きでしたが、それもノエルがジノを子どもとして扱っているからできることなのでした。
大きくなったジノはそれを複雑に思いながらも、ノエルに甘え、またノエルに尽くしました。そうしているうちにノエルもすっかり絆されてしまったのです。自分とは違って素直で懐っこいジノのことがかわいいと感じてしまうようになりました。
それからジノはすくすくと育ち、すっかりノエルの背も追い越すまで大きくなりました。オオカミ種の獣人の成長はとてもゆっくりです。人間でいう青年期に入り大人の仲間入りをしたジノは、ノエルに改めて想いを伝えて今の関係に至ります。
「うん、美味しい。さすがノエル」
「こういう調理は久々にやりましたが、うまくいってよかったです。美味しいですね」
二人はにこにこと上機嫌に料理を楽しみます。人里離れた場所に住むノエルは小屋の裏にある小さな畑の野菜と、いつもこうしてジノが何か獲ってきたり町から仕入れてくるものなどを食べて暮らしていました。
「いつもありがとうございます、ジノさん」
「ううん! 俺がノエルに何かしたいんだ」
ジノはノエルのことが大好きです。だからこうしてノエルのために狩りをしたり町で色々なものを仕入れてきたりするのは負担になどなりませんでした。
「それに、ノエルにはこんなことじゃ返せないくらい恩があるんだから。全部そのお返しなんだよ」
「だから、それはもう気にしなくてもいいと言っているでしょう」
「そんなの無理だよ。それに、ノエルが俺を助けたくてそうしたように、俺がそうしたくてやってるだけだから」
「あなたも言うようになりましたねえ」
「ふふ、そうでしょ? もうノエルに口でも負けないよ」
そう話すジノはすっかり大人の顔をしています。その顔を見て、ノエルももう何も言い返しません。
ジノが話す恩というのは、ジノがとてもとても小さかった頃の話です。
ジノは森でひとりぼっちでした。ある日突然、家族がみんな居なくなってしまったのです。
実はジノの家族は獣人種ではない普通の人間を襲ったために、人間の猟師に撃たれて殺されてしまいました。たまたまそのとき寝床で留守番をしていた幼いジノだけが生き残り、何も知らないまま孤独な子になってしまったのです。
家族を探してひとり森の中を彷徨っていると、この小屋の近くを通りかかり、ノエルと出会いました。
ノエルはとても長寿の種族ですから、既に大人になっていたノエルは今のままの姿でジノの前に現れました。ジノはまだ幼い小さな子どもで、親の世話を突然受けられなくなり薄汚れて痩せていました。
「おや、小さなオオカミさん。どうしたのですか、こんなところで。……あなた、汚いですねえ。親から捨てられましたか」
「……おれ、捨てられたのかな?」
「うぅん、自分の状況すらわかっておられないのですね。まあ、子どもですし仕方がないのでしょうか……」
ノエルは少し考え込みました。ノエルはかわいらしく優しそうな雰囲気をしていますが、実のところ極度の面倒くさがりで人嫌いなのです。見知らぬオオカミ種の子どもを保護するなど、本心を言えばしたくはありませんでした。
けれど、薄汚れたみすぼらしい非力な存在が、自分の置かれた状況すら理解できないような子どもが、ひとりぼっちで誰にも頼れずにいることに痛む心はありました。それは、かつての自分のようだったからです。
「あなた、帰る場所がないのでしたらうちへいらっしゃい。もちろん、あなたがお嫌でなければですけれど」
「……いいの?」
「ええ、狭いところですが、小さなあなたが眠る場所くらいはありますよ」
「たべもの、ある? ……おなか、すいた」
「オオカミさんのお口に合うかはわかりませんが、何か作ってさしあげましょう」
そんなやりとりをして、ノエルはよろよろと歩くジノをひょいと持ち上げて、抱っこしたまま小屋へと連れて帰りました。
それからジノはノエルの小屋で食事をとり、夜は一緒にベッドで眠りました。
そっけない態度で難しい言葉を使うノエルのことを最初は気難しいウサギだと思っていましたが、その奥にある優しさや世話焼きな面を知っていき、ジノはどんどんノエルが大好きになりました。
「ノエル、おさかなとってきてあげる!」
「ジノさん、転ばないように気を付けるんですよ」
「だいじょうぶー!」
ノエルのお世話のおかげですっかり元気になったジノは、ノエルのために得意の狩りをして畑の野菜や保存食の干し肉だけじゃなく色んなものが食べられるようにと頑張りました。ジノが少し大きくなってからは、少し離れた町へ行って必要なものを買いそろえてきたりもしてくれました。
「ノエル、だいすきだよ」
「はいはい。もうたくさん聞きましたよ」
ジノは、助けてもらった恩返しをするうちに、ノエルに対する小さな恋心もゆっくりと育てていきました。ノエルにとってジノはほんの子どもです。ノエルの膝の上に頭を乗せて髪と耳を撫でてもらいながら眠るのが大好きでしたが、それもノエルがジノを子どもとして扱っているからできることなのでした。
大きくなったジノはそれを複雑に思いながらも、ノエルに甘え、またノエルに尽くしました。そうしているうちにノエルもすっかり絆されてしまったのです。自分とは違って素直で懐っこいジノのことがかわいいと感じてしまうようになりました。
それからジノはすくすくと育ち、すっかりノエルの背も追い越すまで大きくなりました。オオカミ種の獣人の成長はとてもゆっくりです。人間でいう青年期に入り大人の仲間入りをしたジノは、ノエルに改めて想いを伝えて今の関係に至ります。
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