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計画の裏側

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 女性達に襲われるかもしれないという不安が吹き飛んだ上に、リロイを傍に感じながら安心して熟睡出来たので、朝の目覚めが気持ちが良い。
 久しぶりに、溜まっていたものを排出できたという事もあるのか、身体のスッキリ感も半端なかった。

 目を開けた時に、傍にリロイが居なかった事には一抹の寂しさを感じたが、リロイが早起きなのはいつもの事なので、心配はない。
 例え町の外で野宿した日であっても、毎朝早くに一人で散歩に出掛けるのが、リロイの習慣である。

 何処で何をしているか定かではないが、ルーティンの様なものなのか、健太の知る限り、リロイがそれを欠かした事はない。
 恐らく既に、身支度を調えて行動を始めているのだろう。

 暫くはこの宿に滞在する事になっているので、慌てて旅の支度を調える必要もなかった。
 昨夜は裸のまま眠ってしまったはずなのだが、脱ぎ捨てられた服は床に落ちていなかったので、リロイが片付けてくれたに違いない。
 もしかしたら、洗濯まで済ませてくれている可能性もあった。

 献身的なリロイに感謝しながら、身軽な服装に着替えて、部屋を出る。
 一階の食堂に顔を出そうとして廊下を歩き始めてすぐ、階段付近の踊り場からリロイの声が聞こえて来た。

 健太が、表情を緩めて駆け寄ろうと、一歩踏み出した瞬間。
 リロイの向こう側に女性達三人の姿が見えて、思わず身を翻し階段から見えない位置に隠れた。
 隠れる必要はなかったのかもしれないが、昨日の事があったので、顔を合わせるのが何となく気まずい。

 一方的に恐ろしい計画を立てられていたとはいえ、彼女達はそれを健太に知られているとは、思ってもいないはずだ。
 とすると、昨日の健太の行動は彼女達にとって、青天の霹靂だったに違いない。
 彼女達は、健太の事を諦めてくれただろうか。

(何を、話しているんだろう)

 健太が何も言わない限り、魔王討伐パーティとして今後も旅を共にする仲間である事には違いないのだ、わざわざ事を荒立てる必要もない。
 息を潜めて、四人のやり取りに聞き耳を立てる。

「健太を誑かすなんて、一体どういうつもり?」
「心外ですね。私は、健太の気持ちに応えたまで。貴方達の方こそ、人道に反する行為を、計画していたでしょう?」
「なっ、どうしてそれを?」
「国の為には、必要な事なのよ!」

 問い詰めようとしていたリロイに反論され、更に計画を知られていたのだと気付いた女性達が、サッと顔を青くさせた。
 だが次の瞬間には、開き直ってヒステリックに声を張った魔法使いの言葉に、リロイは何かを悟った様子で大きな溜息をつく。

「やはり、健太を帰す算段など、最初からなかったのですね」
「それは……」
「人間の力では、長い年月をかけても人ひとりを召喚するのが、精一杯でしょう。呼び出した者を帰す技術が開発されたという噂も聞きませんし、あの私利私欲にまみれた国王の事です、恐らくはその必要性さえ感じていない」
「失礼な事を言うな!」
「ですが、それが真実でしょう?」
「……っ」

 王に対する不敬に対して声を荒げた剣士が、リロイが重ねた問いに言葉を詰まらせたのは、事実だと認めた証拠の様だ。
 四人の会話を何気なく聞き始めたが、恐らく次に明かされるであろう、信じられない現実への予想が付いて、健太の身体が震え始める。

(聞きたくない)

 ズルズルと、力なくその場に座り込む。
 正直、耳を塞いでしまいたい気持ちで一杯だった。

 だが、リロイはきっと健太の為に、女性達と戦ってくれている。
 当事者である健太が、目を逸らすことは出来ない。

「魔王を倒した後、元の世界に帰る事が出来ないと知った健太に、反旗を翻されては困るのですね」
「ち、違……」
「貴方達三人は全員、かの王国の息がかかっている。魔王を打ち倒す程の強大な力を持つ勇者が、別の次なる脅威となる前に、色事でも何でも使って「上手く飼い慣らしておけ」とでも命じられた……という所ですか」

 手段を選ばないその方法と暴論に、心底「呆れた」とでも言いたげな顔をして、リロイが大きく溜息をつく。
 ただその後に、女性達からは的確な反論が出てこない。その時点で、リロイの仮説を肯定したのも同じだった。
 息を殺して聞いている健太の背中に、一筋の冷や汗が流れ落ちる。

(早く、「違う」って言ってくれ)

「私達は、民の為に……」
「民の為に、別の世界から無理矢理呼び出した勇者を騙して、犠牲に?」
「健太には申し訳ないと思っています。ですが、このままでは我が国は……」
「へぇ。国のためなら、健太には何も説明せず、なし崩しに身体から籠絡させても構わない、と?」
「…………」

 健太を呼び出した王国の王女でもある聖女が、必死に正当性を訴えようとする。
 だが、民の為という大義名分の為に、健太という一人の人間を召喚し、その身を犠牲にした事実は変わらない。
 更には、健太の想いさえも、操ろうとしていたというのなら。

 言い訳を紡ごうとする度に、即座にリロイに切り捨てられて、聖女はとうとう言葉を失ってしまった。
 俯いてしまったという事は、少しは罪悪感を抱いてくれているのだろうか。
 それとも、他に論破出来る理由を探しているだけなのだろうか。

 どちらにしろ、もうこの先女性達から何を訴えかけられても、健太はどんな言葉も信じる事は出来なくなってしまった。
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