召喚勇者の誤算~身の危険を感じたので演技で男に告白したら、成就してしまったんだが!?~

カヅキハルカ

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異世界の常識

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 明確な殺意を持って襲いかかってくるモンスター達に、健太は為す術がなかった。
 当たり前だ。
 平和な日本で平凡に生きてきた健太にとって、生きるか死ぬかの命のやり取りなど、今まで経験した事があるはずもない。

 健太の振り下ろす剣も、指先から飛び出る炎も、全てモンスターを殺す為の手段である。
 それを知った途端、全身が震えて何も出来なくなった。
 どんなチート能力を身につけていても、使う健太に相手を倒す勇気がなければ、何の役にも立たない。

 この世界では最弱と呼ばれるスライムでさえ、ゲームみたいに可愛いらしい外見をしてもいなければ、木の棒で倒せる程に弱くもなかった。
 集団で飛びかかられ、身動きできなくなった時の恐怖は、半端ない。
 逃げ惑い、「どこが最弱なんだ!」と泣き叫ばなかったのを、褒めて欲しい位である。

 それでもまだ、スライムの様な無機質な生物であるというだけで、マシだったのだ。
 「勇者様なら出来る」と持ち上げられ、仲間達に鼓舞されながら、何とか無理矢理勇気を振り絞って、殴り倒す事が出来たのだから。

 だが旅を進めるに従って、昆虫や小動物、鳥などに姿形が似たモンスターと相対する機会が増えてくる。
 相手はどんどん強くなり、ゴブリンやリザードマン、ハーピー等と呼ばれるモンスターともなると、もう動物とさえ呼べない。

 モンスターと分類はされていても、完全に意思の疎通が出来る相手である。
 そんな相手と、何度も何度も殺し合いをしなければならないのだ。
 対人ではなくても、限りなくそれに近いモンスターと戦うには、剣技や魔法の能力以上に、「殺す覚悟」という勇気が必要だった。

 更に旅を続ける中で、健太には一つの疑問が生まれていた。
 モンスター達が勇者一行を襲ってくるのは、決まって人里近くばかりだったのだ。

 見渡す限りの平野や荒野、険しい山地や足場の悪い沼地など、モンスター達にとって戦いやすい場は少なくないにも関わらず、である。
 逆に、どう考えても健太達に不利でモンスター達に有利であるはずの人里離れた場所では、ほとんど襲われる事がなかった。

 モンスター達が襲ってくる動機が、「勇者」という存在を排除したいというものならば、むしろ誰の助けも呼べない場所で狙うべきである。
 戦いというものに慣れていない健太でも、絶対そうする。

 もちろん、知能が低くて考えが及ばないという個体もいるだろう。
 けれど、ある程度人型を持つモンスター達は、仲間同士での意思疎通や連携も取れていて、驚かされる戦法を使ってくる事もしばしばだった。

 そんなモンスター達が、有利不利という状況を理解できないはずがない。
 それなのに、襲ってくる場所が決まって人里の近くに限定されているのには、何か理由があるはずだ。

 人間の住む場所が近くにあれば被害を抑える為、守りに意識を割かざるを得ず、全力を出し切れない事は確かにある。
 だがそれ以上に、町に居る冒険者達に応援を頼むなど、戦える味方が増えるという側面も、大いにあるのだ。

 そして何より、立ち寄った町や村の人々から、モンスターの討伐を依頼される件数がとても多い事に、健太は常々違和感を感じていた。
 もちろん、人間とモンスターが敵対している世界である様だから、それ自体に不思議はない。
 だが、やけに勇者を頼りにするには、人間本意な依頼が多い気がするのだ。

 曰く、田畑を広げようとしている先に、凶悪なモンスターが棲み着いている。
 曰く、ドラゴンが棲み着いている山に、流通経路を広げたい。
 曰く、子供達が安心して川で遊べる様に、森のモンスターを一掃して欲しい。

 そんな理由から、モンスターの討伐や一掃を依頼される。
 自分たちではどうしようもないから、「勇者に望みを託すしかない」という切羽詰まった状況とは少し違う気がして、疑問が湧く。

 健太には、別の場所や道を探したり、不可侵の場所には立ち入らないようにする等、いくらでも解決方法がある様に思えた。
 殲滅という、そこでなければならないという理由は、いつも無かったから。

 珍しいモンスターの子供を、見世物にしている町さえあり、レアモンスターを見つけたら捕らえてきて欲しいと頼まれた事もあったが、流石に断った。
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