召喚勇者の誤算~身の危険を感じたので演技で男に告白したら、成就してしまったんだが!?~

カヅキハルカ

文字の大きさ
上 下
3 / 22

異世界の常識

しおりを挟む
 明確な殺意を持って襲いかかってくるモンスター達に、健太は為す術がなかった。
 当たり前だ。
 平和な日本で平凡に生きてきた健太にとって、生きるか死ぬかの命のやり取りなど、今まで経験した事があるはずもない。

 健太の振り下ろす剣も、指先から飛び出る炎も、全てモンスターを殺す為の手段である。
 それを知った途端、全身が震えて何も出来なくなった。
 どんなチート能力を身につけていても、使う健太に相手を倒す勇気がなければ、何の役にも立たない。

 この世界では最弱と呼ばれるスライムでさえ、ゲームみたいに可愛いらしい外見をしてもいなければ、木の棒で倒せる程に弱くもなかった。
 集団で飛びかかられ、身動きできなくなった時の恐怖は、半端ない。
 逃げ惑い、「どこが最弱なんだ!」と泣き叫ばなかったのを、褒めて欲しい位である。

 それでもまだ、スライムの様な無機質な生物であるというだけで、マシだったのだ。
 「勇者様なら出来る」と持ち上げられ、仲間達に鼓舞されながら、何とか無理矢理勇気を振り絞って、殴り倒す事が出来たのだから。

 だが旅を進めるに従って、昆虫や小動物、鳥などに姿形が似たモンスターと相対する機会が増えてくる。
 相手はどんどん強くなり、ゴブリンやリザードマン、ハーピー等と呼ばれるモンスターともなると、もう動物とさえ呼べない。

 モンスターと分類はされていても、完全に意思の疎通が出来る相手である。
 そんな相手と、何度も何度も殺し合いをしなければならないのだ。
 対人ではなくても、限りなくそれに近いモンスターと戦うには、剣技や魔法の能力以上に、「殺す覚悟」という勇気が必要だった。

 更に旅を続ける中で、健太には一つの疑問が生まれていた。
 モンスター達が勇者一行を襲ってくるのは、決まって人里近くばかりだったのだ。

 見渡す限りの平野や荒野、険しい山地や足場の悪い沼地など、モンスター達にとって戦いやすい場は少なくないにも関わらず、である。
 逆に、どう考えても健太達に不利でモンスター達に有利であるはずの人里離れた場所では、ほとんど襲われる事がなかった。

 モンスター達が襲ってくる動機が、「勇者」という存在を排除したいというものならば、むしろ誰の助けも呼べない場所で狙うべきである。
 戦いというものに慣れていない健太でも、絶対そうする。

 もちろん、知能が低くて考えが及ばないという個体もいるだろう。
 けれど、ある程度人型を持つモンスター達は、仲間同士での意思疎通や連携も取れていて、驚かされる戦法を使ってくる事もしばしばだった。

 そんなモンスター達が、有利不利という状況を理解できないはずがない。
 それなのに、襲ってくる場所が決まって人里の近くに限定されているのには、何か理由があるはずだ。

 人間の住む場所が近くにあれば被害を抑える為、守りに意識を割かざるを得ず、全力を出し切れない事は確かにある。
 だがそれ以上に、町に居る冒険者達に応援を頼むなど、戦える味方が増えるという側面も、大いにあるのだ。

 そして何より、立ち寄った町や村の人々から、モンスターの討伐を依頼される件数がとても多い事に、健太は常々違和感を感じていた。
 もちろん、人間とモンスターが敵対している世界である様だから、それ自体に不思議はない。
 だが、やけに勇者を頼りにするには、人間本意な依頼が多い気がするのだ。

 曰く、田畑を広げようとしている先に、凶悪なモンスターが棲み着いている。
 曰く、ドラゴンが棲み着いている山に、流通経路を広げたい。
 曰く、子供達が安心して川で遊べる様に、森のモンスターを一掃して欲しい。

 そんな理由から、モンスターの討伐や一掃を依頼される。
 自分たちではどうしようもないから、「勇者に望みを託すしかない」という切羽詰まった状況とは少し違う気がして、疑問が湧く。

 健太には、別の場所や道を探したり、不可侵の場所には立ち入らないようにする等、いくらでも解決方法がある様に思えた。
 殲滅という、そこでなければならないという理由は、いつも無かったから。

 珍しいモンスターの子供を、見世物にしている町さえあり、レアモンスターを見つけたら捕らえてきて欲しいと頼まれた事もあったが、流石に断った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺がイケメン皇子に溺愛されるまでの物語 ~ただし勘違い中~

空兎
BL
大国の第一皇子と結婚する予定だった姉ちゃんが失踪したせいで俺が身代わりに嫁ぐ羽目になった。ええええっ、俺自国でハーレム作るつもりだったのに何でこんな目に!?しかもなんかよくわからんが皇子にめっちゃ嫌われているんですけど!?このままだと自国の存続が危なそうなので仕方なしにチートスキル使いながらラザール帝国で自分の有用性アピールして人間関係を築いているんだけどその度に皇子が不機嫌になります。なにこれめんどい。

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた! どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。 そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?! いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?! 会社員男性と、異世界獣人のお話。 ※6話で完結します。さくっと読めます。

異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。

やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。 昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと? 前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。 *ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。 *フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。 *男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。

失恋して崖から落ちたら、山の主の熊さんの嫁になった

無月陸兎
BL
ホタル祭で夜にホタルを見ながら友達に告白しようと企んでいた俺は、浮かれてムードの欠片もない山道で告白してフラれた。更には足を踏み外して崖から落ちてしまった。 そこで出会った山の主の熊さんと会い俺は熊さんの嫁になった──。 チョロくてちょっぴりおつむが弱い主人公が、ひたすら自分の旦那になった熊さん好き好きしてます。

とある美醜逆転世界の王子様

狼蝶
BL
とある美醜逆転世界には一風変わった王子がいた。容姿が悪くとも誰でも可愛がる様子にB専だという認識を持たれていた彼だが、実際のところは――??

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)

九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。 半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。 そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。 これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。 注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。 *ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)

拝啓お父様。私は野良魔王を拾いました。ちゃんとお世話するので飼ってよいでしょうか?

ミクリ21
BL
ある日、ルーゼンは野良魔王を拾った。 ルーゼンはある理由から、領地で家族とは離れて暮らしているのだ。 そして、父親に手紙で野良魔王を飼っていいかを伺うのだった。

処理中です...