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第38話 史上最高気温1 夜の学校
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横浜の天気予報では連日続く酷暑が、今日ピークを迎えるそうだ。日中に三十七度五分まで上がると、観測史上の最高気温を記録するのだ。
松本蓮は写真部の顧問に許可を取り、学校で星空を撮る事にした。写真部の四人は、夜八時に集合し屋上に上がった。
海斗は額の汗を腕で拭いた。
「しかし夜なのに、何でこんなに暑いんだ、なあ蓮」
「ホントに暑いよな。今日の昼間なんか、史上最高気温が出たもんな!」
鎌倉美月も続いた。
「やっぱりね~、私、家から一歩も出られなかったわ。森さんは?」
「私は、ずーっとお店に居たけど、暑すぎてクーラーが効かなくて嫌になっちゃった。業務用のクーラーなのにね。でもね、伏見君が誘ってくれたから、私、嬉しかったんだ!」
「やあ、嬉しいだなんて、森さんも写真部の仲間だから、当たり前だよ!」
「伏見君、所であなたに惚れている女の子は誘わなかったの?」
松本蓮と鎌倉美月が眉間にシワを寄せて、海斗に視線を向けた。
「やだな~、中山さんだよ。映画を見に行った事を言ったじゃん。その後に喫茶「純」に寄ったら、森さんと会ったんだよ。あの子はクラスメイトだし写真部の集まりには興味ないよ」
「ふーん、そーなんだー」
森幸乃は疑わしい目で海斗を見つめた。
松本蓮はカメラをセットしながら、星空の撮り方を説明した。
「星を撮るって、とっても難しいんだよ。なんと言っても暗闇の光源を撮るんだからね。最近のカメラやスマホは性能が良くなって、比較的撮りやすくなったけどね。まずはカメラを三脚に固定して、絞りは解放に会わせピントは無限大にする。シャッタースピードはバルブに設定して準備は完了。後はリモコンでシャッターを押すだけ。見ててね」
松本蓮は一枚撮ってカメラのモニターを見せると、三人は星空の写真を見て声かんしんをした。
森幸乃は見終えると首を傾げた。
「私達はスマホだし、三脚も無いし、どうやって撮ればいいの?」
松本蓮は微笑んだ。
「スマホユーザーも心配めさるな! 簡単なのは夜景モードにして、セルフタイマーを使うんだ。フラッシュは切ってね」
「でも、三脚はどうするの?」
「これだよ、これ!」
松本蓮は右足でトントンと床を示した。
「スマホならではの使い方でしょ」
自分のスマホを設定し、床に置いて離れてた。
スマホは自動でシャッターが切れると、皆はスマホに駆け寄り画面を覗いた。
「わー、凄い、松本君!」
見事に星空が写っていたのだ。スマホ組の三人は、同じようにして撮影した。上手く撮れたり撮れなかったり、覗きに行って自分が写ったり、工夫をしながら星空の写真を撮った。
鎌倉美月は両手を合わせておねだりをした。
「ねえ海斗、星座の説明をしてー!」
海斗はうなすくと、スマホの画面と実際の夜空を併せて説明を始めた。
「まずは北を探すの、Wの形のカシオペア座は有名だから分かるよね。そこから南に向けて空の真上、やや右側に十時の形に並ぶ星が見えるよね。この星座がはくちょう座。この星座の中で明るい星がデネブ。その近くに明るい星が二つあるの解るかな? スマホの画面だとこれ」
皆は海斗のスマホを覗いた。
「じゃあ、もう一度、空を見て。空の中心側にあるのがこと座のベガ、七夕の織り姫だよ。右側の明るい星が、わし座のアルタイルこれが彦星。この三つの明るい星を結ぶと夏の大三角形になるんだ。横浜では見えないけど、この間には北から南まで星が帯状に光る天の川があるんだ。」
森幸乃はうっとりと聞いて驚いた。
「伏見君、すごーい! 星の先生なのね~」
松本蓮は鎌倉美月に耳打ちをした。
「なあ美月、森さんの瞳がハートになっていないか? 大丈夫かな?」
「………」
「なあ美月、聞いているの?!」
鎌倉美月の瞳もハートになっていた。松本蓮は鎌倉美月の肩を揺らした。
「蓮、女の子はロマンチックなムードに弱いのよ! もう、解っているわよ! そうよね、森さんのハート印を消さなくちゃね」
鎌倉美月は拍手をして、海斗をおだてて止めさせた。
すると森幸乃は怪しい顔で微笑んだ。
「ねえ星も撮ったし、楽しい事してみない?」
三人は首を傾げると、彼女は唐突な誘いを掛けた。
「ねえ、暑いから……、皆でプールに入ろうよ!」
三人は大きな声で驚いた。顔を見合わせて、しばらく考えてた。少し間を置いて海斗も微笑んだ。
「うん! 面白いね! 蓮、入っちゃおうか?!」
松本蓮は鎌倉美月の顔を見つめた。
「もー、分かったわ、付き合ってあげる!」
皆は自分たちの教室から着替えのジャージを持って、プールに向かった。
プールの入り口には、ダイヤル式南京錠で施錠されていた。
「蓮、何か悪い事しているって感じがして、俺、ドキドキするよ」
「俺だってドキドキするよ! それにしても番号が分からないと、やっぱり開かないよ」
松本蓮は適当な番号を入れて回した。
「やっぱり無謀すぎたかな。海斗の思いつく番号を言ってよ?」
森幸乃は再び微笑んだ。
「私、たぶん解るよ! この間、水泳部の友達の忘れ物を取りに付き合ったの。それで扉を開ける時、聞いちゃったの。その子ね、ヨロシクって言って回していたの。こんなに覚えやすい番号にしているんだもの」
松本蓮は森幸乃から聞いた番号に合わせた。
「四・六・四・九……ガチャ! あっ、開いた! ホント簡単だね」
海斗達はプールサイドに忍び込んだ。真っ黒な水面は海斗達を高揚させた。
森雪乃が最初に飛び込むと、海斗達も続いた。皆は制服のまま飛び込んだのだ。
「ジャブーン! わー、気持ち良いー!」
四人は子供のように、夜のプールを楽しんだ。
三十分ほど経ってから海斗は言った。
「あー、楽しかった。そろそろ上がろうか?」
松本連は先にプールサイドに上がり、鎌倉美月の手を取り引き上げた。
「蓮、有り難う。恥ずかしいからこっち見るな!」
それを見ていた海斗もプールサイドに上がり、森幸乃に手を伸ばした。
「海斗君、有り難う」
森幸乃は可愛い小悪魔のように微笑み、海斗の手を引っ張った。
「あっ? えー!」
「ジャブーン!」
彼女は海斗を水中に引っぱり込んだ。今日の森幸乃は大胆だった。水中に沈んだ海斗を正面に抱き寄せ水面に顔を出した。
「海斗くん、ま・だ・だ・よ!」
「森さん、ひどいよー」
「ウフ、じゃあ今日はコレで終わりね」
森幸乃は海斗を抱きしめ、海斗の唇に長めのキスをした。
時が止まった。
海斗は驚き体が動かなかった。口を離すと彼女は優しく話し掛けた。
「海斗君、私のファーストキッス、特別にあげるね」
松本蓮も鎌倉美月も見てしまった。海斗はプールの真ん中で立ち尽くした。そして森幸乃は何事もない様子でプールサイドまで泳いだ。
「ねえ海斗君! ほら、ボーッとしてないで上がって来なよー!」
森幸乃のかけ声で、時が再び動き出した。海斗もプールサイドまで泳いだ。
彼女達の濡れた制服は色っぽかった。鎌倉美月は松本蓮を恥ずかしそうに見つめた。
「ねえ蓮、キョロキョロ見るな! ブラが透けて恥ずかしいよ」
松本蓮は首をそらした。
「見てないよ!」
森幸乃は充実した顔をして話しかけた。
「いいわね~、青春していて。私は今年で終わり、来年は社会人だからね。今晩はとっても良い思い出になったよ。秘密を共有したみたいで、何だか嬉しい!」
松本蓮は森幸乃の視線を向けた。
「森さんは、どうして港湾課に入ったの?」
「そうね、折角、横浜に居るんだもの。つまらないOLをするより、港に関係する仕事がしたいなって思ったのよ。この学校なら就職し易いと思ってね」
海斗も続いた。
「森さんは凄いね。高校受験、つまり中三の時に将来の事を考えていたんだね」
「でもね私、中学生の時はカントリークレーンの運転手になりたかったの。あの大きなキリンを、動かして見たかったんだ。仕事を知ると私には無理って解ったわ。女性だからとかじゃなくて、集中力が続かないもの」
「カントリークレーンって、貨物船からトラックにコンテナを下ろすやつ? 埠頭に並んでいる大きなクレーンの事?」
「そうよ、あの大きなクレーンよ!」
三人は驚いた。
「えー!」
驚く顔を見て森雪乃は微笑んだ。
海斗は森幸乃の顔を見て、真剣に話を聞いていた。将来、自分が何をしたいのか、未だ決まっていないからだ。森幸乃の比べ、自分は何て子供なのかと思った。海斗は肩を落とし、森幸乃の顔から視線を下げた。
森幸乃は腕で胸を隠した。
「もう、海斗君たら、今、私のブラ見たでしょ」
森幸乃は胸元のボタンを一つ外した。
「海斗君、びしょびしょに濡れたのは、二回目だね……二人で続きする?」
森幸乃は歳上の色気で海斗に迫った。
「ち、違うよ。ちゃんと顔を見て話を聞いていたよ。なんか自分が小さく思えてさ。それで視線を下げた、だけだよ。なあ蓮、京野の会社に行った時に感じたけど、将来と早めに向き合わないと、社会に出遅れる感じがしないか?!」
「海斗、俺もそう思うよ。ビジネスマンの京野は格好良くてさあ、学生の俺たちと差が有りすぎて何だか気が引けたもんな」
森幸乃は続けた。
「伏見君も松本君も、自分を見つめ直す事は、学生としても社会人としても必要な事よ。この夏に良いきっかけが出来て良かったじゃない!」
「森さん有り難う。俺達も見つめ直して見るよ」
松本蓮は言った。
「そうだね、良い機会かもね。そろそろ体も乾いて来たし、見つからない内に帰ろうぜ!」
皆はジャージに着替えて家路に着いた。
海斗は家に着くと、葵が玄関まで出迎えた。
「お兄ちゃんお帰り! ん? なんでジャージなの、今晩も一緒にゲームしようよ!」
「ごめん葵、何か疲れちゃって。また明日、遊んであげるからね」
海斗は風呂に入り、食事も食べずに眠りについた。
翌朝、いつもの様に海斗はリビングに下りて来なかった。葵は心配になり海斗の様子を見に行った。ノックをしても反応が無かったのだ。葵は廊下から声をかけた。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん、入るよ!」
ドアを開けると海斗が赤い顔をして寝ていた。
「ねえ、お兄ちゃん、お兄ちゃん、大丈夫?」
海斗は、ゆっくりと目を開けた。
「ああ、葵、ちょっと寒気がするんだ」
葵は海斗のおでこに手を当てた。
「あっ熱いよ! 大変だよ、ちょっと待っていて」
葵は解熱剤を飲ませ、氷枕を用意した。
「葵ごめんね。今日、小野さんと会う事になっていたんだよ。小野さんのメール知っているよね、中止の連絡入れてくれるかな」
「うん、分かった。ちゃんと寝ておかなきゃ、ダメだよ」
史上最高気温を記録したこの日に、海斗は高熱を出して倒れた。ついに心配している事が起きたのだった。
松本蓮は写真部の顧問に許可を取り、学校で星空を撮る事にした。写真部の四人は、夜八時に集合し屋上に上がった。
海斗は額の汗を腕で拭いた。
「しかし夜なのに、何でこんなに暑いんだ、なあ蓮」
「ホントに暑いよな。今日の昼間なんか、史上最高気温が出たもんな!」
鎌倉美月も続いた。
「やっぱりね~、私、家から一歩も出られなかったわ。森さんは?」
「私は、ずーっとお店に居たけど、暑すぎてクーラーが効かなくて嫌になっちゃった。業務用のクーラーなのにね。でもね、伏見君が誘ってくれたから、私、嬉しかったんだ!」
「やあ、嬉しいだなんて、森さんも写真部の仲間だから、当たり前だよ!」
「伏見君、所であなたに惚れている女の子は誘わなかったの?」
松本蓮と鎌倉美月が眉間にシワを寄せて、海斗に視線を向けた。
「やだな~、中山さんだよ。映画を見に行った事を言ったじゃん。その後に喫茶「純」に寄ったら、森さんと会ったんだよ。あの子はクラスメイトだし写真部の集まりには興味ないよ」
「ふーん、そーなんだー」
森幸乃は疑わしい目で海斗を見つめた。
松本蓮はカメラをセットしながら、星空の撮り方を説明した。
「星を撮るって、とっても難しいんだよ。なんと言っても暗闇の光源を撮るんだからね。最近のカメラやスマホは性能が良くなって、比較的撮りやすくなったけどね。まずはカメラを三脚に固定して、絞りは解放に会わせピントは無限大にする。シャッタースピードはバルブに設定して準備は完了。後はリモコンでシャッターを押すだけ。見ててね」
松本蓮は一枚撮ってカメラのモニターを見せると、三人は星空の写真を見て声かんしんをした。
森幸乃は見終えると首を傾げた。
「私達はスマホだし、三脚も無いし、どうやって撮ればいいの?」
松本蓮は微笑んだ。
「スマホユーザーも心配めさるな! 簡単なのは夜景モードにして、セルフタイマーを使うんだ。フラッシュは切ってね」
「でも、三脚はどうするの?」
「これだよ、これ!」
松本蓮は右足でトントンと床を示した。
「スマホならではの使い方でしょ」
自分のスマホを設定し、床に置いて離れてた。
スマホは自動でシャッターが切れると、皆はスマホに駆け寄り画面を覗いた。
「わー、凄い、松本君!」
見事に星空が写っていたのだ。スマホ組の三人は、同じようにして撮影した。上手く撮れたり撮れなかったり、覗きに行って自分が写ったり、工夫をしながら星空の写真を撮った。
鎌倉美月は両手を合わせておねだりをした。
「ねえ海斗、星座の説明をしてー!」
海斗はうなすくと、スマホの画面と実際の夜空を併せて説明を始めた。
「まずは北を探すの、Wの形のカシオペア座は有名だから分かるよね。そこから南に向けて空の真上、やや右側に十時の形に並ぶ星が見えるよね。この星座がはくちょう座。この星座の中で明るい星がデネブ。その近くに明るい星が二つあるの解るかな? スマホの画面だとこれ」
皆は海斗のスマホを覗いた。
「じゃあ、もう一度、空を見て。空の中心側にあるのがこと座のベガ、七夕の織り姫だよ。右側の明るい星が、わし座のアルタイルこれが彦星。この三つの明るい星を結ぶと夏の大三角形になるんだ。横浜では見えないけど、この間には北から南まで星が帯状に光る天の川があるんだ。」
森幸乃はうっとりと聞いて驚いた。
「伏見君、すごーい! 星の先生なのね~」
松本蓮は鎌倉美月に耳打ちをした。
「なあ美月、森さんの瞳がハートになっていないか? 大丈夫かな?」
「………」
「なあ美月、聞いているの?!」
鎌倉美月の瞳もハートになっていた。松本蓮は鎌倉美月の肩を揺らした。
「蓮、女の子はロマンチックなムードに弱いのよ! もう、解っているわよ! そうよね、森さんのハート印を消さなくちゃね」
鎌倉美月は拍手をして、海斗をおだてて止めさせた。
すると森幸乃は怪しい顔で微笑んだ。
「ねえ星も撮ったし、楽しい事してみない?」
三人は首を傾げると、彼女は唐突な誘いを掛けた。
「ねえ、暑いから……、皆でプールに入ろうよ!」
三人は大きな声で驚いた。顔を見合わせて、しばらく考えてた。少し間を置いて海斗も微笑んだ。
「うん! 面白いね! 蓮、入っちゃおうか?!」
松本蓮は鎌倉美月の顔を見つめた。
「もー、分かったわ、付き合ってあげる!」
皆は自分たちの教室から着替えのジャージを持って、プールに向かった。
プールの入り口には、ダイヤル式南京錠で施錠されていた。
「蓮、何か悪い事しているって感じがして、俺、ドキドキするよ」
「俺だってドキドキするよ! それにしても番号が分からないと、やっぱり開かないよ」
松本蓮は適当な番号を入れて回した。
「やっぱり無謀すぎたかな。海斗の思いつく番号を言ってよ?」
森幸乃は再び微笑んだ。
「私、たぶん解るよ! この間、水泳部の友達の忘れ物を取りに付き合ったの。それで扉を開ける時、聞いちゃったの。その子ね、ヨロシクって言って回していたの。こんなに覚えやすい番号にしているんだもの」
松本蓮は森幸乃から聞いた番号に合わせた。
「四・六・四・九……ガチャ! あっ、開いた! ホント簡単だね」
海斗達はプールサイドに忍び込んだ。真っ黒な水面は海斗達を高揚させた。
森雪乃が最初に飛び込むと、海斗達も続いた。皆は制服のまま飛び込んだのだ。
「ジャブーン! わー、気持ち良いー!」
四人は子供のように、夜のプールを楽しんだ。
三十分ほど経ってから海斗は言った。
「あー、楽しかった。そろそろ上がろうか?」
松本連は先にプールサイドに上がり、鎌倉美月の手を取り引き上げた。
「蓮、有り難う。恥ずかしいからこっち見るな!」
それを見ていた海斗もプールサイドに上がり、森幸乃に手を伸ばした。
「海斗君、有り難う」
森幸乃は可愛い小悪魔のように微笑み、海斗の手を引っ張った。
「あっ? えー!」
「ジャブーン!」
彼女は海斗を水中に引っぱり込んだ。今日の森幸乃は大胆だった。水中に沈んだ海斗を正面に抱き寄せ水面に顔を出した。
「海斗くん、ま・だ・だ・よ!」
「森さん、ひどいよー」
「ウフ、じゃあ今日はコレで終わりね」
森幸乃は海斗を抱きしめ、海斗の唇に長めのキスをした。
時が止まった。
海斗は驚き体が動かなかった。口を離すと彼女は優しく話し掛けた。
「海斗君、私のファーストキッス、特別にあげるね」
松本蓮も鎌倉美月も見てしまった。海斗はプールの真ん中で立ち尽くした。そして森幸乃は何事もない様子でプールサイドまで泳いだ。
「ねえ海斗君! ほら、ボーッとしてないで上がって来なよー!」
森幸乃のかけ声で、時が再び動き出した。海斗もプールサイドまで泳いだ。
彼女達の濡れた制服は色っぽかった。鎌倉美月は松本蓮を恥ずかしそうに見つめた。
「ねえ蓮、キョロキョロ見るな! ブラが透けて恥ずかしいよ」
松本蓮は首をそらした。
「見てないよ!」
森幸乃は充実した顔をして話しかけた。
「いいわね~、青春していて。私は今年で終わり、来年は社会人だからね。今晩はとっても良い思い出になったよ。秘密を共有したみたいで、何だか嬉しい!」
松本蓮は森幸乃の視線を向けた。
「森さんは、どうして港湾課に入ったの?」
「そうね、折角、横浜に居るんだもの。つまらないOLをするより、港に関係する仕事がしたいなって思ったのよ。この学校なら就職し易いと思ってね」
海斗も続いた。
「森さんは凄いね。高校受験、つまり中三の時に将来の事を考えていたんだね」
「でもね私、中学生の時はカントリークレーンの運転手になりたかったの。あの大きなキリンを、動かして見たかったんだ。仕事を知ると私には無理って解ったわ。女性だからとかじゃなくて、集中力が続かないもの」
「カントリークレーンって、貨物船からトラックにコンテナを下ろすやつ? 埠頭に並んでいる大きなクレーンの事?」
「そうよ、あの大きなクレーンよ!」
三人は驚いた。
「えー!」
驚く顔を見て森雪乃は微笑んだ。
海斗は森幸乃の顔を見て、真剣に話を聞いていた。将来、自分が何をしたいのか、未だ決まっていないからだ。森幸乃の比べ、自分は何て子供なのかと思った。海斗は肩を落とし、森幸乃の顔から視線を下げた。
森幸乃は腕で胸を隠した。
「もう、海斗君たら、今、私のブラ見たでしょ」
森幸乃は胸元のボタンを一つ外した。
「海斗君、びしょびしょに濡れたのは、二回目だね……二人で続きする?」
森幸乃は歳上の色気で海斗に迫った。
「ち、違うよ。ちゃんと顔を見て話を聞いていたよ。なんか自分が小さく思えてさ。それで視線を下げた、だけだよ。なあ蓮、京野の会社に行った時に感じたけど、将来と早めに向き合わないと、社会に出遅れる感じがしないか?!」
「海斗、俺もそう思うよ。ビジネスマンの京野は格好良くてさあ、学生の俺たちと差が有りすぎて何だか気が引けたもんな」
森幸乃は続けた。
「伏見君も松本君も、自分を見つめ直す事は、学生としても社会人としても必要な事よ。この夏に良いきっかけが出来て良かったじゃない!」
「森さん有り難う。俺達も見つめ直して見るよ」
松本蓮は言った。
「そうだね、良い機会かもね。そろそろ体も乾いて来たし、見つからない内に帰ろうぜ!」
皆はジャージに着替えて家路に着いた。
海斗は家に着くと、葵が玄関まで出迎えた。
「お兄ちゃんお帰り! ん? なんでジャージなの、今晩も一緒にゲームしようよ!」
「ごめん葵、何か疲れちゃって。また明日、遊んであげるからね」
海斗は風呂に入り、食事も食べずに眠りについた。
翌朝、いつもの様に海斗はリビングに下りて来なかった。葵は心配になり海斗の様子を見に行った。ノックをしても反応が無かったのだ。葵は廊下から声をかけた。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん、入るよ!」
ドアを開けると海斗が赤い顔をして寝ていた。
「ねえ、お兄ちゃん、お兄ちゃん、大丈夫?」
海斗は、ゆっくりと目を開けた。
「ああ、葵、ちょっと寒気がするんだ」
葵は海斗のおでこに手を当てた。
「あっ熱いよ! 大変だよ、ちょっと待っていて」
葵は解熱剤を飲ませ、氷枕を用意した。
「葵ごめんね。今日、小野さんと会う事になっていたんだよ。小野さんのメール知っているよね、中止の連絡入れてくれるかな」
「うん、分かった。ちゃんと寝ておかなきゃ、ダメだよ」
史上最高気温を記録したこの日に、海斗は高熱を出して倒れた。ついに心配している事が起きたのだった。
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