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第30話 夕 立
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うなぎ屋のアルバイトが終わり、夏休みの旅行代を稼いだ海斗と松本蓮だった。写真部の仲間は日時を合わせ、久しぶりに夏休みの写真部に集まることにした。
海斗は十分前に入室すると。松本蓮と鎌倉美月は既に登校していた。
「や~相変わらず、二人は仲が良いなー」
松本蓮は照れて答えた。
「しばらくアルバイトで会えない時間があったから、会うと照れるな」
「私も何か恥ずかしいわ。でもね、とっても会いたかったんだよ、蓮」
鎌倉美月は松本蓮を見つめた。
すると、森幸乃が走って入ってきた。
「みんな久しぶり! あっ、鎌倉さんから聞いたよ! 今度はうなぎ屋に、あのクレーマーが出たんだって、上手くやれたって聞いたわ」
「うん、そうなんだ。俺と蓮と力を合わせて、あのクレーマーを懲らしめたよ。校長先生のアドバイスのお陰だよ。オヤジさんにも喜ばれたしね」
鎌倉美月は腹がたった。
「しかしあの男、懲りないわねー。最初に蓮から聞いた時、私とっても心配になったんだからね。でも無事で良かったよ」
松本蓮は思い出した。
「そうだ! 皆、話は変わるけど、学園祭用の写真撮っているかい? 夏休みは始まったばかりだけど夏休みが終われば、学園祭まであっと言う間だからね」
海斗は答えた。
「蓮、忘れていたよ。教えてくれて有り難う。森さんは良い写真撮った?」
「私は今の所、皆で行った動物園のキリンの写真にしようかなって思っているのよ」
「あっそれ、俺が一緒に撮った写真かな?」
「そうよ、伏見君に教えて貰った写真よ」
松本蓮は微笑んだ。
「美月よりも、上手に撮れていたよ」
「蓮、私より上手は、余計でしょ!」
海斗は鎌倉美月に尋ねた。
「美月は、何にするの?」
「私は、この夏休みに撮ろうと思っているんだ。毎日暑いでしょ。この強い日差しで出来る影で、夏らしい写真が撮れると思うの」
松本蓮は驚いた。
「美月、それ良い観察力だよ! よく気が付いたね。コントラストがはっきり出て、夏らしい写真が撮れるよ」
森幸乃は海斗達に自分で撮った写真を皆に見てもらい、学園祭に提出出来る他の写真を相談していた。二時間程すると松本蓮と鎌倉美月は映画を見るために先に上がった。
森幸乃は人差し指で机にのの字を書いた。
「ねえ、伏見君、私達も出かけようよ。港の見える丘公園なんて、どうかな?」
「うん、そうだね。ココにいても退屈だからね」
二人は歩いて公園に向かった。
この公園は小高い山の上に有り、見晴らしの良い展望台がある。高低差のある公園を下ると元町商店街に通じているのだ。
「ねえ、伏見君、二人で出かけるのは初めてだね!」
「そうだね、こう言う機会が無かったもんね」
「伏見君とお出かけしてみたかったの。いつも伏見君の周りには誰かがいるでしょ?」
「え~、何か照れるなあ。……そうそう、あの公園なら花も景色も撮れるよね」
「伏見君、天気が良いし、綺麗な海が見られると思うよ」
「そうだね、良い写真をいっぱい撮ろうよ」
二人は学校から尾根沿いに有る公園の展望台に到着した。公園は夏の日中らしく強い日差しと、とにかくうるさい蝉の音が聞こえた。
「ねえ、伏見君! 言った通りだよ。港が良く見える。ベイブリッジも良く見えるね」
「綺麗な景色だね。良い写真になりそうだ」
海斗は青い空と海に映える、白いベイブリッジを撮影した。照りつける日差しではあったが、海風が公園を吹き抜けていた。手すりに寄りかかり向かい風で、海風を浴びる森幸乃は髪もスカートも、なびいて輝いて見えた。とても絵になる一枚だったので、海斗は写真に納めた。
「森さん、この風、気持ち良いね」
「うん、暑さを忘れるわね。ねえ伏見君、私とツーショット写真を撮っても良い?」
「俺なんかと撮っても、面白くないよ」
「私は面白いの! ウフ、だから、い~よね」
森幸乃は海斗の隣に立って、港の景色をバックに肩を並べた。彼女はスマホを片手で持ちシャッターを切った。
「わ~、良い写真が撮れたよ。ほら」
海斗は彼女が隣に来た時に同級生には無い爽やかな色気を感じた。
二人は展望台から順に、写真を撮りながら元町まで下りていった。
「伏見くん、今日は有り難う。とっても楽しかったよ」
「こちらこそ、良い写真が撮れたね。可愛い森さんも撮れたしね。後で送るね」
「ねえ、ペトリコールの匂いがしない?」
「な~に森りさん、ペトリコールって?」
「雨の匂いよ! この土っぽい匂い、どこかで雨が降っている匂いよ!」
その時だった、急に大雨が降ってきた。「ザー!」二人は慌てて走り出した。
喫茶「純」まで、あと少しだったのに、ワイシャツはびしょ濡れになった。海斗と森幸乃は、走ってお店に入った。
マスターは驚いた。
「あらあら、びしょ濡れじゃないか、幸乃。……ん? 伏見君も一緒かい?」
「学園祭用の写真を伏見君と撮っていたら夕立が降ってきて、もう大変だよ! お母さんは?」
「美容院に行っているよ、きっと、この夕立に捕まったかな」
「もーこんな時に! ねえお父さん、服を乾かせたいの。伏見君を二階に上げるね」
マスターはうなずいた。
「伏見君、大変だったね。さあ、二階に上がって体を拭いておいで」
「マスター、お邪魔します」
森幸乃は海斗を連れて二階に上がった。この建物は一階が喫茶店で二、三階が自宅となっていた。
「お母さんは美容院に出掛けているから私だけなの、だから気を使わないでね。それとボーっと立っていないで、そこに座って!」
森幸乃は麦茶を入れ、海斗にタオルを渡した。
「伏見君、ほら、ワイシャツを脱いで」
森幸乃は子供の服を脱がせる様に、海斗のワイシャツを脱がせた。
「森さん、自分で出来るよ!」
海斗は上半身が裸となった。
「そうよね、子供じゃ無いのだからね、うふっ!」
森幸乃は微笑み、海斗は恥ずかしくて赤くなった。
彼女はエアコンを入れてた。海斗のワイシャツを椅子の背もたれに掛け、扇風機の風を直接当てた。
「私、シャワーを浴びてくるね。一人で待てる?」
「もー、大丈夫だよ」
「それとも、……一緒に入る?」
海斗は、ますます赤くなった。
「もー、入らないよ」
森幸乃は着替えを重ね、小脇に抱えた。海斗の前を横切る際に一部が崩れて落ちてしまった。海斗は条件反射で手を出した。
「もうー、伏見君のエッチ!」
森幸乃はそっぽを向いた。海斗は小さな布をつかみ取り、失礼な事をしたと思った。
「伏見君冗談よ、恥ずかしいから私の下着返して! 早く入って来るから、ちょっと待っていてね」
森幸乃はお風呂に向かった。
海斗は頭を拭きながら森幸乃について考えていた。あの爽やかな色気は何処からくるのだろう? サパサパと言いたい事や、やりたい事を進めるし、年下の俺たちにも気を回す事が出来る。一つ歳上なだけなのに。歳上の女性に憧れる男子はいるが……こう言う事なのかな。歳上だけで片付けていいのか? 性格なのか? または遠藤駿のように商売人の子供として立ち振る舞いが器用なのか、森幸乃はどれにも当てはまるのだ。
お風呂からドアを開ける音が聞こえた。すると森幸乃が現れた。海斗は彼女の私服姿に目を奪われた。キャミソールに短パン姿で実に色っぽかったのだ。制服の時には気が付かったが胸が大きくすらりと伸びた生足も色っぽかった。すっかり海斗は悩殺されてしまったのだ。
「伏見君、どうしたの? 目が泳いでいるわよ」
「森さん、目、目のやり場に困りますよ」
「あらどうして? このキャミ、下着じゃないのよ。伏見君、未だ髪を乾かしていないのね」
海斗の頭はシャンプーの香りに酔わされた。海斗の息子が反応してしまったのだ。やばい、五十パーセント充電完了。何とかしないと大変な事になる。夕立にあったからといって、夕方に立ったら洒落にならないのだ! マスターに怒られて喫茶店の出入り禁止になったらどうしよう。落ち着け俺、落ち着け俺。海斗はバレないように両手で息子を覆った。
「あら伏見君、どうしたの? おしっこしたいの?」
「いや、何でも無いです」
「それとも、お腹が冷えて痛いのかな?」
「いや、別に何でもないよ」
「うふっ、私が伏見君の髪の毛を乾かしてあげるね」
森幸乃は母性が強く、世話をやきたかったのだ。海斗の後ろに立ちドライヤーを当てた。
「伏見君の髪は柔らかいのね。……伏見君は綺麗な背中をしているのねー」
時より海斗の後頭部に柔らかい胸が当たった。すると森幸乃はドライヤーを切り、テーブルに置いた。
彼女は海斗の耳元でささやいた。
「いつも優しい伏見君は可愛いね。……ねえー、海斗君! ウフ」
森幸乃は背もたれ超しに優しくハグをした。すっかり森幸乃のペースである。遂に海斗の充電ゲージが振り切れた。
「ガチャ!」
玄関の鍵を開ける音がした。森幸乃は海斗からサッと離れた。
「ただいま幸乃。お友達が来ているのかい?」
森幸乃のお母さんが帰って来たのだ。海斗の息子は一気に消沈した。
「おばさん、お邪魔しています」
海斗はタオルで頭を拭いた。
「まあまあ、高校生の裸なんて刺激的だねー。お父さんから聞いたわ、あなたね、前にクレーマーをやっつけてくれた人は。その際は有り難う」
森幸乃は微笑んだ。
「お母さん、伏見君はお店の恩人だよね~」
海斗は困った顔をした。
「もう、調子に乗せないでよ。その節はご馳走して頂き、有り難う御座いました」
お母さんも麦茶を入れてゴクリと飲んだ。
「はあー、美味しい。さっきの雨、凄かったわね。私も動けなくて、しばらく美容室で待たせて貰ったのよ。それでようやく帰って来たところなの。伏見君も幸乃も大変だったわね」
「はい、大変でした」
森幸乃はワイシャツが乾いた事を確認して海斗に声を掛けた。
「海斗君、もう大丈夫だよ」
海斗はワイシャツを着て、森幸乃と一緒にお店に下りた。
マスターに挨拶をしてお店を出ると、二人は喫茶店前の歩道に立った。
「森さん、有り難う。またね」
「伏見君、今日は楽しかったわ、またね」
森幸乃は海斗を送り出し部屋に戻ると、二人で撮った写真を見返すのであった。良い写真が沢山撮れて楽しい夏の思い出を残した。
海斗は十分前に入室すると。松本蓮と鎌倉美月は既に登校していた。
「や~相変わらず、二人は仲が良いなー」
松本蓮は照れて答えた。
「しばらくアルバイトで会えない時間があったから、会うと照れるな」
「私も何か恥ずかしいわ。でもね、とっても会いたかったんだよ、蓮」
鎌倉美月は松本蓮を見つめた。
すると、森幸乃が走って入ってきた。
「みんな久しぶり! あっ、鎌倉さんから聞いたよ! 今度はうなぎ屋に、あのクレーマーが出たんだって、上手くやれたって聞いたわ」
「うん、そうなんだ。俺と蓮と力を合わせて、あのクレーマーを懲らしめたよ。校長先生のアドバイスのお陰だよ。オヤジさんにも喜ばれたしね」
鎌倉美月は腹がたった。
「しかしあの男、懲りないわねー。最初に蓮から聞いた時、私とっても心配になったんだからね。でも無事で良かったよ」
松本蓮は思い出した。
「そうだ! 皆、話は変わるけど、学園祭用の写真撮っているかい? 夏休みは始まったばかりだけど夏休みが終われば、学園祭まであっと言う間だからね」
海斗は答えた。
「蓮、忘れていたよ。教えてくれて有り難う。森さんは良い写真撮った?」
「私は今の所、皆で行った動物園のキリンの写真にしようかなって思っているのよ」
「あっそれ、俺が一緒に撮った写真かな?」
「そうよ、伏見君に教えて貰った写真よ」
松本蓮は微笑んだ。
「美月よりも、上手に撮れていたよ」
「蓮、私より上手は、余計でしょ!」
海斗は鎌倉美月に尋ねた。
「美月は、何にするの?」
「私は、この夏休みに撮ろうと思っているんだ。毎日暑いでしょ。この強い日差しで出来る影で、夏らしい写真が撮れると思うの」
松本蓮は驚いた。
「美月、それ良い観察力だよ! よく気が付いたね。コントラストがはっきり出て、夏らしい写真が撮れるよ」
森幸乃は海斗達に自分で撮った写真を皆に見てもらい、学園祭に提出出来る他の写真を相談していた。二時間程すると松本蓮と鎌倉美月は映画を見るために先に上がった。
森幸乃は人差し指で机にのの字を書いた。
「ねえ、伏見君、私達も出かけようよ。港の見える丘公園なんて、どうかな?」
「うん、そうだね。ココにいても退屈だからね」
二人は歩いて公園に向かった。
この公園は小高い山の上に有り、見晴らしの良い展望台がある。高低差のある公園を下ると元町商店街に通じているのだ。
「ねえ、伏見君、二人で出かけるのは初めてだね!」
「そうだね、こう言う機会が無かったもんね」
「伏見君とお出かけしてみたかったの。いつも伏見君の周りには誰かがいるでしょ?」
「え~、何か照れるなあ。……そうそう、あの公園なら花も景色も撮れるよね」
「伏見君、天気が良いし、綺麗な海が見られると思うよ」
「そうだね、良い写真をいっぱい撮ろうよ」
二人は学校から尾根沿いに有る公園の展望台に到着した。公園は夏の日中らしく強い日差しと、とにかくうるさい蝉の音が聞こえた。
「ねえ、伏見君! 言った通りだよ。港が良く見える。ベイブリッジも良く見えるね」
「綺麗な景色だね。良い写真になりそうだ」
海斗は青い空と海に映える、白いベイブリッジを撮影した。照りつける日差しではあったが、海風が公園を吹き抜けていた。手すりに寄りかかり向かい風で、海風を浴びる森幸乃は髪もスカートも、なびいて輝いて見えた。とても絵になる一枚だったので、海斗は写真に納めた。
「森さん、この風、気持ち良いね」
「うん、暑さを忘れるわね。ねえ伏見君、私とツーショット写真を撮っても良い?」
「俺なんかと撮っても、面白くないよ」
「私は面白いの! ウフ、だから、い~よね」
森幸乃は海斗の隣に立って、港の景色をバックに肩を並べた。彼女はスマホを片手で持ちシャッターを切った。
「わ~、良い写真が撮れたよ。ほら」
海斗は彼女が隣に来た時に同級生には無い爽やかな色気を感じた。
二人は展望台から順に、写真を撮りながら元町まで下りていった。
「伏見くん、今日は有り難う。とっても楽しかったよ」
「こちらこそ、良い写真が撮れたね。可愛い森さんも撮れたしね。後で送るね」
「ねえ、ペトリコールの匂いがしない?」
「な~に森りさん、ペトリコールって?」
「雨の匂いよ! この土っぽい匂い、どこかで雨が降っている匂いよ!」
その時だった、急に大雨が降ってきた。「ザー!」二人は慌てて走り出した。
喫茶「純」まで、あと少しだったのに、ワイシャツはびしょ濡れになった。海斗と森幸乃は、走ってお店に入った。
マスターは驚いた。
「あらあら、びしょ濡れじゃないか、幸乃。……ん? 伏見君も一緒かい?」
「学園祭用の写真を伏見君と撮っていたら夕立が降ってきて、もう大変だよ! お母さんは?」
「美容院に行っているよ、きっと、この夕立に捕まったかな」
「もーこんな時に! ねえお父さん、服を乾かせたいの。伏見君を二階に上げるね」
マスターはうなずいた。
「伏見君、大変だったね。さあ、二階に上がって体を拭いておいで」
「マスター、お邪魔します」
森幸乃は海斗を連れて二階に上がった。この建物は一階が喫茶店で二、三階が自宅となっていた。
「お母さんは美容院に出掛けているから私だけなの、だから気を使わないでね。それとボーっと立っていないで、そこに座って!」
森幸乃は麦茶を入れ、海斗にタオルを渡した。
「伏見君、ほら、ワイシャツを脱いで」
森幸乃は子供の服を脱がせる様に、海斗のワイシャツを脱がせた。
「森さん、自分で出来るよ!」
海斗は上半身が裸となった。
「そうよね、子供じゃ無いのだからね、うふっ!」
森幸乃は微笑み、海斗は恥ずかしくて赤くなった。
彼女はエアコンを入れてた。海斗のワイシャツを椅子の背もたれに掛け、扇風機の風を直接当てた。
「私、シャワーを浴びてくるね。一人で待てる?」
「もー、大丈夫だよ」
「それとも、……一緒に入る?」
海斗は、ますます赤くなった。
「もー、入らないよ」
森幸乃は着替えを重ね、小脇に抱えた。海斗の前を横切る際に一部が崩れて落ちてしまった。海斗は条件反射で手を出した。
「もうー、伏見君のエッチ!」
森幸乃はそっぽを向いた。海斗は小さな布をつかみ取り、失礼な事をしたと思った。
「伏見君冗談よ、恥ずかしいから私の下着返して! 早く入って来るから、ちょっと待っていてね」
森幸乃はお風呂に向かった。
海斗は頭を拭きながら森幸乃について考えていた。あの爽やかな色気は何処からくるのだろう? サパサパと言いたい事や、やりたい事を進めるし、年下の俺たちにも気を回す事が出来る。一つ歳上なだけなのに。歳上の女性に憧れる男子はいるが……こう言う事なのかな。歳上だけで片付けていいのか? 性格なのか? または遠藤駿のように商売人の子供として立ち振る舞いが器用なのか、森幸乃はどれにも当てはまるのだ。
お風呂からドアを開ける音が聞こえた。すると森幸乃が現れた。海斗は彼女の私服姿に目を奪われた。キャミソールに短パン姿で実に色っぽかったのだ。制服の時には気が付かったが胸が大きくすらりと伸びた生足も色っぽかった。すっかり海斗は悩殺されてしまったのだ。
「伏見君、どうしたの? 目が泳いでいるわよ」
「森さん、目、目のやり場に困りますよ」
「あらどうして? このキャミ、下着じゃないのよ。伏見君、未だ髪を乾かしていないのね」
海斗の頭はシャンプーの香りに酔わされた。海斗の息子が反応してしまったのだ。やばい、五十パーセント充電完了。何とかしないと大変な事になる。夕立にあったからといって、夕方に立ったら洒落にならないのだ! マスターに怒られて喫茶店の出入り禁止になったらどうしよう。落ち着け俺、落ち着け俺。海斗はバレないように両手で息子を覆った。
「あら伏見君、どうしたの? おしっこしたいの?」
「いや、何でも無いです」
「それとも、お腹が冷えて痛いのかな?」
「いや、別に何でもないよ」
「うふっ、私が伏見君の髪の毛を乾かしてあげるね」
森幸乃は母性が強く、世話をやきたかったのだ。海斗の後ろに立ちドライヤーを当てた。
「伏見君の髪は柔らかいのね。……伏見君は綺麗な背中をしているのねー」
時より海斗の後頭部に柔らかい胸が当たった。すると森幸乃はドライヤーを切り、テーブルに置いた。
彼女は海斗の耳元でささやいた。
「いつも優しい伏見君は可愛いね。……ねえー、海斗君! ウフ」
森幸乃は背もたれ超しに優しくハグをした。すっかり森幸乃のペースである。遂に海斗の充電ゲージが振り切れた。
「ガチャ!」
玄関の鍵を開ける音がした。森幸乃は海斗からサッと離れた。
「ただいま幸乃。お友達が来ているのかい?」
森幸乃のお母さんが帰って来たのだ。海斗の息子は一気に消沈した。
「おばさん、お邪魔しています」
海斗はタオルで頭を拭いた。
「まあまあ、高校生の裸なんて刺激的だねー。お父さんから聞いたわ、あなたね、前にクレーマーをやっつけてくれた人は。その際は有り難う」
森幸乃は微笑んだ。
「お母さん、伏見君はお店の恩人だよね~」
海斗は困った顔をした。
「もう、調子に乗せないでよ。その節はご馳走して頂き、有り難う御座いました」
お母さんも麦茶を入れてゴクリと飲んだ。
「はあー、美味しい。さっきの雨、凄かったわね。私も動けなくて、しばらく美容室で待たせて貰ったのよ。それでようやく帰って来たところなの。伏見君も幸乃も大変だったわね」
「はい、大変でした」
森幸乃はワイシャツが乾いた事を確認して海斗に声を掛けた。
「海斗君、もう大丈夫だよ」
海斗はワイシャツを着て、森幸乃と一緒にお店に下りた。
マスターに挨拶をしてお店を出ると、二人は喫茶店前の歩道に立った。
「森さん、有り難う。またね」
「伏見君、今日は楽しかったわ、またね」
森幸乃は海斗を送り出し部屋に戻ると、二人で撮った写真を見返すのであった。良い写真が沢山撮れて楽しい夏の思い出を残した。
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