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第23話 修学旅行6 美月の気持ち
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遠藤駿と松本蓮は京野颯太を布団に寝かした。布団を挟んで奥側に遠藤駿、手前側には橋本七海と佐藤美優、田中拓海が付き添っていた。畳敷きの部屋の奥には板の間が有り、海斗と松本蓮は籐製の椅子に座って様子を眺めていた。
松本蓮は呟いた。
「なあ海斗、京野死ぬのかな?」
「蓮、縁起でもない事言うなよ。顔色は良いよ」
「京野の枕を囲んで正座して……。ほら見ろよ、ミスグランプリが泣いているぞ」
「橋本さんは心配しているんだろ、まったくけなげだよな」
「畳に布団でこの状況、時代劇で見たことないか? お父さん逝かないで……」
「ププ、そこか、確かに見たこと有るかもね」
すると京野颯太が、かすかに動いた。橋本七海は呼び掛けた。
「京野君、起きて、ねえ京野君!」
橋本七海は腰を上げ京野颯太の両肩を優しく揺すると、遠藤駿も心配そうに京野颯太の顔を見つた。
松本蓮は遠藤駿の後ろに座り耳打ちをした。
「遠藤、向かいの橋本さんを見てご覧よ!」
彼は何気なく目線を動かした。橋本七海は膝立ちの姿勢で前屈みになり京野颯太を見ていた。浴衣の胸元からプルンプルンの谷間が見えていたのだ。間も無く遠藤駿は、悩殺された。
佐藤美優は気が付いた。
「遠藤! 鼻血が出ているよ。心配しすぎなんだよ。あっちで休んでいなよ」
遠藤駿も同じく長時間風呂に付き合っていた。ラガーマンだから倒れなかっただけなのだ。血の巡りが良い時に、あこがれの胸元を至近距離で見れば誰だって鼻血の一つや二つ、出てもおかしくないのだ。遠藤駿はココに居たいのに惜しくも前席から後退しなくてはならないのだ。その最前席には松本蓮と海斗が交代をしたのであった。
すると京野颯太の身内の様に振る舞う橋本七海は、二人に気遣った。
「松本君も伏見君も、心配してくれて有り難う」
佐藤美優は又しても思った。七海おまえは女房か、まあいい、京野を見舞う遠藤も良かったけれど、伏見と松本が並ぶのも悪くない。
すると京野颯太は目を覚ました。
「あれ、ココは?……」
遠藤駿はティッシューで、鼻を押さえて枕元に歩み寄った。
「京野君さあ、露天風呂で、のぼせて転倒したんだよ。それで頭を打ってさ、松本と俺で先生に見つからないように部屋まで運んで来たんだよ」
京野颯太は体を起こすと、頭に激痛が走り後頭部を押さえた。
「イテテテテ、あったま、痛た!」
橋本七海は、バランスを崩し痛がる京野颯太の上半身を自分の胸に抱き寄せた。
「もう、いっぱい、いっぱい、心配したんだからね-!」
橋本七海は涙ぐんだ。
京野颯太は、柔らかい胸が頬に触れているのが解かり赤面した。松本蓮はその間の抜けた顔を写真に納めた。しばらくすると体を動かせるようになり京野颯太の失態は収拾し、女子は部屋を後にした。
そんな事態も知らずに、先に部屋に戻っていた女子は丹念に乙女のケアをしていた。林莉子は話しかけた。
「お肌が突っ張る前にローションよね」
「莉子は肌が綺麗ね。そのローション見せて」
中山美咲はボトルの説明書きを読んでいた。小野梨紗は首を傾げた。
「橋本さんと佐藤さん、遅くない?」
林莉子が答えた。
「もしや、抜け駆けをして京野君の部屋に行ったんじゃないかしら?」
「まさか、そんな事、しないと思うよ」
林莉子は続けた。
「美咲はあまい! あの女は、そういう事をする女よ。あのミスグランプリなら男は秒殺でしょう」
「でも、京野君は中山さんの事が好きなんでしょ。それじゃあ上手く行かないよ」
「……ああ、それもそうよね」
林莉子は安心すると皆は笑らった。
暫くすると、橋本七海と佐藤美優が帰ってきた。今までの話が無かったかのように雑談を続けた。一段落すると明かりを消した。橋本奈七海は寝際に思い返した。京野君をこの胸で抱き寄せた事が嬉しかった。思い出し笑みを浮かべた。
(修学旅行三日目)
最終日の朝を迎えた。生徒達は朝食の並んだ座卓に着いた。海斗は小野梨沙の明るい表情に気が付いた。
「小野さん、今日も美味しそうだね」
「やだ~海斗ったら、私の事を美味しそうだなんて。朝から飛ばすわね!」
周りの友達は聞き漏らさずに、目が点となった。そう、朝から飛ばすのは小野梨紗だった。皆と過ごす時間が楽しくて朝からテンションが高かったのだ。
海斗は中山美咲の手前、正確に言い直した。
「小野さん、今日もおいしそうなだね、このメニュー」
「海斗の意地悪! ねえ、このお魚はなーに?」
「アジだよ。アジの干物だよ。ちょこっと醤油を垂らして召し上がれ!」
中山美咲は、海斗に優しくにらみつけた。
「伏見君は小野さんに随分、優しいのね!」
「まあ、そう言わないで、ね。外国生活が長かったから、和食に慣れて無いんだよ」
林莉子は自分のアジの干物を指した。
「伏見君これ、な~にー!」
「も~、からかわないでよ」
林莉子の頬がふくれた。
「伏見君、私にも優しくしてよー!」
興味本位に鎌倉美月はアジを指した。
「松本君これ、な~に?」
「はいはい、アジだよ、アジ!」
「知っているわよー! 何か面白いことを言いなさいよ!」
「もう、いつもこれだよ」
皆は笑った。
朝食が終わると各部屋に戻り、準備が終わった者からバスに向かった。松本蓮はトイレの都合で先に退室し、ロビーで海斗を待った。
すると佐藤美優が歩み寄った。
「松本君、隣に座ってもいいかな?」
松本蓮は照れ臭そうに、うなずいた。
「昨日、松本君のカメラ見たよ。あのカメラ高いの? とっても使い易そうだったね」
松本蓮は鼻高々にカメラの機能とスペックを語りは始めた。佐藤美優はBL用に良い写真が撮りたかったのだ。カメラの事は知らない事ばかりで、聞くこと全てが知識となった。
「松本君が写真を撮っているところを見たけど、とってもプロっぽかったよね」
「えへ、そうかなあ。女の子に褒められる事が無いから照れるなー」
「松本先生! どうか私に写真の撮り方を教えて下さい!」
松本は顔がゆるんだ。
「いいよ、俺で良かったら何でも教えてあげるよ! 写真の事、何でも聞いてね!」
松本蓮は快諾をした。仲良く話す二人の前を女子の列が通った。
林莉子は中山美咲に話しかけた。
「もう、松本君も隅に置けないよね。佐藤さんBL好きなのにね。単独男子に目覚めたのかしら?」
中山美咲は林莉子を見て、慌てて片目をつぶり自分の口の前に人差し指を立てた。鎌倉美月は小野梨紗としゃべりながらロビーの前を歩いていた。鎌倉美月は松本蓮が佐藤美優と二人だけで楽しそうに話していた所を、見て見ぬ振りをしてバスに向かったのだ。バスの席に付くと鎌倉美月は、見て見ぬ振りをした自分に驚いた。
生徒達はバスに乗り旅館を出発し、長谷川先生は生徒達に連絡を始めた。
「はい、今日は最終日です。楽しい思い出が出来ましたか? これから余市に行って余市蒸留所を見学します。その後は新千歳空港に行って帰路に着きます。お土産を買う人は、この余市か飛行場で買って下さい」
鎌倉美月は、いつもと様子が違っていた。松本蓮は心配をして声を掛けた。
「おい美月、何か調子悪いのか? 朝食、食べ過ぎたんだろ?」
鎌倉美月は考えていた。たまたま他の女子と話しているのを見かけただけなのに、何で、こんなに不安な気持ちになるのか、今までには無い感覚だった。いつも蓮はそばにいて、これから先もそばに居るものだと思っていた。あんなに楽しく女の子と話をしている姿を見ると、心がザワザワする。蓮が誰かと話をしたって自由なのに……。気になるなら直接聞けばいいのに、怖くて聞くことが出来ない。私はどうかしているみたい。
松本蓮は改めて話しかけた。
「おい美月、聞いているの?! 気分悪い?」
「もう、うるさいなー、蓮! 大丈夫だよ! 今度はどこ行くの?!」
「……美月、やっぱり可笑しいよ? 今、余市に行くって聞いたばっかじゃん」
二人を見ていた海斗は中山美咲に小声で話しかけた。
「美月、どうかしたの? 部屋で何か有ったの?」
「何も無いよ。さっきね、ロビーで松本君を見なかった?」
「ああ見たよ、佐藤さんと話をしていたね」
「多分それよ! ……解らないの? もう、鈍感なんだから」
「……だって話をしていただけじゃん?」
「私、鎌倉さんの気持ち分かるなあ。好きな人が他の女の子と、楽しく話していたらショックだよ。だって鎌倉さんは松本君を見たのに、見て見ない振りをしたんだよ。つまり無かった事にしたんだから」
「えー、美月が……そんな乙女な事をするの?」
「もう、カニのついた手で怒った時も。……だから男の子は鈍感なのよ!」
「えー、お、俺が悪いのー?」
「松本君の話! 伏見君も似ているけどね!」
また鎌倉美月を見ると一変していた。鎌倉美月は松本蓮の頬をつねって騒いでいた。
「あ、ほら、いつもの二人に戻ったよ。考え過ぎかな」
中山美咲は海斗に苦笑で返した。
バスは余市蒸留所に到着した。林莉子は話しかけた。
「ここはね、ウイスキーの父と呼ばれた梅鶴政孝さんの作った蒸留所。併設してウイスキー造りの歴史を学べる所なの」
小野梨紗も続いた。
「お父さんに余市の話をしたら、知っていたわ」
松本蓮も加わった。
「ビール工場に、ウヰスキー蒸留所、北海道の人は、お酒が好きなんだね」
鎌倉美月は首を傾げた。
「それは本当に、そうなの?」
生徒達はガイドさんに連れられ、ウイスキーの製造工程の説明を受けた。初めて目にするものばかりだった。海斗は小野梨紗に話聞けた。
「ここも独特な雰囲気がある建物だね」
「そうね、雰囲気があるわね。それにビールの様に機械的に作られる物と思っていたけど、ウイスキーは人の温度が感じられるお酒なのね」
松本蓮も続いた。
「創業者、梅鶴さんの思いを今も継承しているなんてロマンがあるよな」
鎌倉美月も続いた。
「飲みたくなっちゃうね」
林莉子は思った。
「そうよね、影響された生徒が連んで飲酒しないように、最終日に予定したのかもね」
中山美咲も続いた。
「でも飲酒出来るのは、未だ三年も先よ」
鎌倉美月は微笑んだ。
「ねえ、このメーカーだけという石炭を使った蒸留釜のお酒を飲んでみたいよね。今度、親が出かけている時に蓮の家で内緒で飲んじゃおうよ。ねえ海斗!」
「だからダメだめなの! そうだ、成人式の後、皆で飲もうよ」
林莉子は微笑んだ。
「それ、いい案だね」
皆も微笑み賛同した。
生徒達は見学を終えると、新千歳空港に向かった。帰りの飛行機で幸運な窓側に座ったのは京野颯太だった。その隣は橋本七海が座ったのだ。橋本七海は窓を見る振りをして京野颯太の横顔を見つめた。時より寝たフリをして彼の肩に寄りかかり、彼女は京野颯太の隣をフルに満喫したのだ。どうやら彼女も男脳の持ち主らしい。
生徒達は沢山の思い出を作り修学良好を終えた。
松本蓮は呟いた。
「なあ海斗、京野死ぬのかな?」
「蓮、縁起でもない事言うなよ。顔色は良いよ」
「京野の枕を囲んで正座して……。ほら見ろよ、ミスグランプリが泣いているぞ」
「橋本さんは心配しているんだろ、まったくけなげだよな」
「畳に布団でこの状況、時代劇で見たことないか? お父さん逝かないで……」
「ププ、そこか、確かに見たこと有るかもね」
すると京野颯太が、かすかに動いた。橋本七海は呼び掛けた。
「京野君、起きて、ねえ京野君!」
橋本七海は腰を上げ京野颯太の両肩を優しく揺すると、遠藤駿も心配そうに京野颯太の顔を見つた。
松本蓮は遠藤駿の後ろに座り耳打ちをした。
「遠藤、向かいの橋本さんを見てご覧よ!」
彼は何気なく目線を動かした。橋本七海は膝立ちの姿勢で前屈みになり京野颯太を見ていた。浴衣の胸元からプルンプルンの谷間が見えていたのだ。間も無く遠藤駿は、悩殺された。
佐藤美優は気が付いた。
「遠藤! 鼻血が出ているよ。心配しすぎなんだよ。あっちで休んでいなよ」
遠藤駿も同じく長時間風呂に付き合っていた。ラガーマンだから倒れなかっただけなのだ。血の巡りが良い時に、あこがれの胸元を至近距離で見れば誰だって鼻血の一つや二つ、出てもおかしくないのだ。遠藤駿はココに居たいのに惜しくも前席から後退しなくてはならないのだ。その最前席には松本蓮と海斗が交代をしたのであった。
すると京野颯太の身内の様に振る舞う橋本七海は、二人に気遣った。
「松本君も伏見君も、心配してくれて有り難う」
佐藤美優は又しても思った。七海おまえは女房か、まあいい、京野を見舞う遠藤も良かったけれど、伏見と松本が並ぶのも悪くない。
すると京野颯太は目を覚ました。
「あれ、ココは?……」
遠藤駿はティッシューで、鼻を押さえて枕元に歩み寄った。
「京野君さあ、露天風呂で、のぼせて転倒したんだよ。それで頭を打ってさ、松本と俺で先生に見つからないように部屋まで運んで来たんだよ」
京野颯太は体を起こすと、頭に激痛が走り後頭部を押さえた。
「イテテテテ、あったま、痛た!」
橋本七海は、バランスを崩し痛がる京野颯太の上半身を自分の胸に抱き寄せた。
「もう、いっぱい、いっぱい、心配したんだからね-!」
橋本七海は涙ぐんだ。
京野颯太は、柔らかい胸が頬に触れているのが解かり赤面した。松本蓮はその間の抜けた顔を写真に納めた。しばらくすると体を動かせるようになり京野颯太の失態は収拾し、女子は部屋を後にした。
そんな事態も知らずに、先に部屋に戻っていた女子は丹念に乙女のケアをしていた。林莉子は話しかけた。
「お肌が突っ張る前にローションよね」
「莉子は肌が綺麗ね。そのローション見せて」
中山美咲はボトルの説明書きを読んでいた。小野梨紗は首を傾げた。
「橋本さんと佐藤さん、遅くない?」
林莉子が答えた。
「もしや、抜け駆けをして京野君の部屋に行ったんじゃないかしら?」
「まさか、そんな事、しないと思うよ」
林莉子は続けた。
「美咲はあまい! あの女は、そういう事をする女よ。あのミスグランプリなら男は秒殺でしょう」
「でも、京野君は中山さんの事が好きなんでしょ。それじゃあ上手く行かないよ」
「……ああ、それもそうよね」
林莉子は安心すると皆は笑らった。
暫くすると、橋本七海と佐藤美優が帰ってきた。今までの話が無かったかのように雑談を続けた。一段落すると明かりを消した。橋本奈七海は寝際に思い返した。京野君をこの胸で抱き寄せた事が嬉しかった。思い出し笑みを浮かべた。
(修学旅行三日目)
最終日の朝を迎えた。生徒達は朝食の並んだ座卓に着いた。海斗は小野梨沙の明るい表情に気が付いた。
「小野さん、今日も美味しそうだね」
「やだ~海斗ったら、私の事を美味しそうだなんて。朝から飛ばすわね!」
周りの友達は聞き漏らさずに、目が点となった。そう、朝から飛ばすのは小野梨紗だった。皆と過ごす時間が楽しくて朝からテンションが高かったのだ。
海斗は中山美咲の手前、正確に言い直した。
「小野さん、今日もおいしそうなだね、このメニュー」
「海斗の意地悪! ねえ、このお魚はなーに?」
「アジだよ。アジの干物だよ。ちょこっと醤油を垂らして召し上がれ!」
中山美咲は、海斗に優しくにらみつけた。
「伏見君は小野さんに随分、優しいのね!」
「まあ、そう言わないで、ね。外国生活が長かったから、和食に慣れて無いんだよ」
林莉子は自分のアジの干物を指した。
「伏見君これ、な~にー!」
「も~、からかわないでよ」
林莉子の頬がふくれた。
「伏見君、私にも優しくしてよー!」
興味本位に鎌倉美月はアジを指した。
「松本君これ、な~に?」
「はいはい、アジだよ、アジ!」
「知っているわよー! 何か面白いことを言いなさいよ!」
「もう、いつもこれだよ」
皆は笑った。
朝食が終わると各部屋に戻り、準備が終わった者からバスに向かった。松本蓮はトイレの都合で先に退室し、ロビーで海斗を待った。
すると佐藤美優が歩み寄った。
「松本君、隣に座ってもいいかな?」
松本蓮は照れ臭そうに、うなずいた。
「昨日、松本君のカメラ見たよ。あのカメラ高いの? とっても使い易そうだったね」
松本蓮は鼻高々にカメラの機能とスペックを語りは始めた。佐藤美優はBL用に良い写真が撮りたかったのだ。カメラの事は知らない事ばかりで、聞くこと全てが知識となった。
「松本君が写真を撮っているところを見たけど、とってもプロっぽかったよね」
「えへ、そうかなあ。女の子に褒められる事が無いから照れるなー」
「松本先生! どうか私に写真の撮り方を教えて下さい!」
松本は顔がゆるんだ。
「いいよ、俺で良かったら何でも教えてあげるよ! 写真の事、何でも聞いてね!」
松本蓮は快諾をした。仲良く話す二人の前を女子の列が通った。
林莉子は中山美咲に話しかけた。
「もう、松本君も隅に置けないよね。佐藤さんBL好きなのにね。単独男子に目覚めたのかしら?」
中山美咲は林莉子を見て、慌てて片目をつぶり自分の口の前に人差し指を立てた。鎌倉美月は小野梨紗としゃべりながらロビーの前を歩いていた。鎌倉美月は松本蓮が佐藤美優と二人だけで楽しそうに話していた所を、見て見ぬ振りをしてバスに向かったのだ。バスの席に付くと鎌倉美月は、見て見ぬ振りをした自分に驚いた。
生徒達はバスに乗り旅館を出発し、長谷川先生は生徒達に連絡を始めた。
「はい、今日は最終日です。楽しい思い出が出来ましたか? これから余市に行って余市蒸留所を見学します。その後は新千歳空港に行って帰路に着きます。お土産を買う人は、この余市か飛行場で買って下さい」
鎌倉美月は、いつもと様子が違っていた。松本蓮は心配をして声を掛けた。
「おい美月、何か調子悪いのか? 朝食、食べ過ぎたんだろ?」
鎌倉美月は考えていた。たまたま他の女子と話しているのを見かけただけなのに、何で、こんなに不安な気持ちになるのか、今までには無い感覚だった。いつも蓮はそばにいて、これから先もそばに居るものだと思っていた。あんなに楽しく女の子と話をしている姿を見ると、心がザワザワする。蓮が誰かと話をしたって自由なのに……。気になるなら直接聞けばいいのに、怖くて聞くことが出来ない。私はどうかしているみたい。
松本蓮は改めて話しかけた。
「おい美月、聞いているの?! 気分悪い?」
「もう、うるさいなー、蓮! 大丈夫だよ! 今度はどこ行くの?!」
「……美月、やっぱり可笑しいよ? 今、余市に行くって聞いたばっかじゃん」
二人を見ていた海斗は中山美咲に小声で話しかけた。
「美月、どうかしたの? 部屋で何か有ったの?」
「何も無いよ。さっきね、ロビーで松本君を見なかった?」
「ああ見たよ、佐藤さんと話をしていたね」
「多分それよ! ……解らないの? もう、鈍感なんだから」
「……だって話をしていただけじゃん?」
「私、鎌倉さんの気持ち分かるなあ。好きな人が他の女の子と、楽しく話していたらショックだよ。だって鎌倉さんは松本君を見たのに、見て見ない振りをしたんだよ。つまり無かった事にしたんだから」
「えー、美月が……そんな乙女な事をするの?」
「もう、カニのついた手で怒った時も。……だから男の子は鈍感なのよ!」
「えー、お、俺が悪いのー?」
「松本君の話! 伏見君も似ているけどね!」
また鎌倉美月を見ると一変していた。鎌倉美月は松本蓮の頬をつねって騒いでいた。
「あ、ほら、いつもの二人に戻ったよ。考え過ぎかな」
中山美咲は海斗に苦笑で返した。
バスは余市蒸留所に到着した。林莉子は話しかけた。
「ここはね、ウイスキーの父と呼ばれた梅鶴政孝さんの作った蒸留所。併設してウイスキー造りの歴史を学べる所なの」
小野梨紗も続いた。
「お父さんに余市の話をしたら、知っていたわ」
松本蓮も加わった。
「ビール工場に、ウヰスキー蒸留所、北海道の人は、お酒が好きなんだね」
鎌倉美月は首を傾げた。
「それは本当に、そうなの?」
生徒達はガイドさんに連れられ、ウイスキーの製造工程の説明を受けた。初めて目にするものばかりだった。海斗は小野梨紗に話聞けた。
「ここも独特な雰囲気がある建物だね」
「そうね、雰囲気があるわね。それにビールの様に機械的に作られる物と思っていたけど、ウイスキーは人の温度が感じられるお酒なのね」
松本蓮も続いた。
「創業者、梅鶴さんの思いを今も継承しているなんてロマンがあるよな」
鎌倉美月も続いた。
「飲みたくなっちゃうね」
林莉子は思った。
「そうよね、影響された生徒が連んで飲酒しないように、最終日に予定したのかもね」
中山美咲も続いた。
「でも飲酒出来るのは、未だ三年も先よ」
鎌倉美月は微笑んだ。
「ねえ、このメーカーだけという石炭を使った蒸留釜のお酒を飲んでみたいよね。今度、親が出かけている時に蓮の家で内緒で飲んじゃおうよ。ねえ海斗!」
「だからダメだめなの! そうだ、成人式の後、皆で飲もうよ」
林莉子は微笑んだ。
「それ、いい案だね」
皆も微笑み賛同した。
生徒達は見学を終えると、新千歳空港に向かった。帰りの飛行機で幸運な窓側に座ったのは京野颯太だった。その隣は橋本七海が座ったのだ。橋本七海は窓を見る振りをして京野颯太の横顔を見つめた。時より寝たフリをして彼の肩に寄りかかり、彼女は京野颯太の隣をフルに満喫したのだ。どうやら彼女も男脳の持ち主らしい。
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