Close to you 可愛い女の子達は海斗を求めた

小鳥遊 正

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第18話 修学旅行1 妄想

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 生徒達が待ちに待った修学旅行がやって来た。羽田空港の国内線出発ロビーが集合場所となった。流石に遅刻する者はいないと思われたが、京野颯太の姿が見えなかった。
 担任の長谷川先生によると、米証券取引所で急落した株価の動向を東京証券所の取引が始まる前に方針を決める為、急遽、早朝に会議が行われたのだ。

 京野颯太と行動するメンバーは心配をしたが、三十分遅れで現れた。既に生徒達は保安検査所の入場を初めていた。
 京野颯太は呼吸を整えてた。
「やあ、遅れてゴメン、心配かけたね」
 橋本七海は旨を撫で下ろした。
「もう、こんな時まで、仕事優先なんだから!」
「お前は女房か!」
 佐藤美優はツッコミを入れると、遠藤駿はそのツッコミにうなずいた。京野颯太のグループも揃い、保安検査所に向かった。

 いよいよ生徒達は搭乗した。幸運にも窓側の座れたのは鎌倉美月だった。鎌倉美月の隣に松本蓮が座った。彼は航空写真を撮りたかったのだ。
「ねえ美月、たまに写真撮らせてくれよー」
「蓮が良い子にしていたら、撮らせてあげるね」
すると松本蓮は行儀良く待った。

 海斗は真ん中に配置された座席だった。しかし窓が無くとも気分はウキウキだった。右隣には小野梨沙、左隣には中山美咲が座ったのだ。彼女達にも事情が有った。
 海斗は思った。こんなハッピーな席は無いよ。肘掛に腕を延ばす時に手を握ったり、眠たい振りをして肩を寄せたり、寝た振りをして肩に頬を乗せちゃったり、それを左の中山さんと右の小野さんに交互にやっちゃたりして、たまに頭がゴツンコなんて、うわー、これぞハーレムだ! ……ん、待てよ? この両手に華のハーレム状態って、お化け屋敷で痛い思いをした時と同じではないのか、大夫か俺?」

 飛行機は離陸準備に入った。エンジン音が大きく鳴り走り始めた。背中にGがかかると飛び上がった。
「わっ! 飛んだ! 飛行機は久しぶりだよ。ワクワクするね、ね、中山さん?」
「伏見君、私は苦手だな、この高い所へ飛んで行く感じがね」
 海斗は小野梨紗を見た。
「小野さんは大丈夫?」
「私は大丈夫よ。親の都合で乗る機会が少なくないから、もう慣れたかな」

 海斗は、いよいよハーレム作戦を実行に移した。まずは環境をチェック。本など興味は無かったのだが、座席に備え付けてある本をゆっくり取った。左右の肘掛を見ると、どちらも使っていなかったのだ。
「あれれ~、中山さんも小野さんも、肘掛を使わないのかな~、使っていいよ! レディーファーストだもんね」
 ところが二人とも手を膝に置き、お行儀良く座っていた。二人は競い合うように、美しく座っていたのだ。

 海斗は次の作戦に移った。
「あ~、眠くなっちゃったな~」
 海斗は目を閉じた。寝た振りをして肩に寄りかかる作戦だ。どうしたら自然に寄りかかれるのか。こんなに早々に寝て、肩に寄りかかったら不自然だと思われる。海斗は目を閉じて考えた。しかし本当に寝てしまった。
 中山美咲は小さな声で話し掛けた。
「ねえ小野さん、伏見君、疲れているのね。寝ているよ」
「本当だー、寝顔が可愛いねー」
 小野梨沙と中山美咲は寝ている海斗と写真を撮った。
「ねえ小野さん、ドリンクのサービスが来ているけど伏見君の、どおする?」
「寝ている顔が可愛いから、寝かせてあげようよ」
小野梨紗は寝顔を、もう少し見たかったのだ。

 海斗は二十分ほど経ってから目が覚めた。
「あれ! 熟睡しちゃったよ! えー!、二人には飲み物が来ているの? 起こして欲しかったのー、これも飛行機の楽しみなのにー!」
 小野梨紗は答えた。
「だって海斗、寝てたじゃん!」
 海斗は中山美咲を見た。
「中山さんは、起こしてくれなかったの?」
「伏見君が寝ていたから悪いと思って、私のオレンジジュースを残してあるから飲んでいいよ」

 海斗は思った。えっ、それ間接キッスじゃん! 公衆の面前で本当にいいのですか? いいのでしょうか?! 海斗は赤面した。

「ホント? 本当に貰っていいの! 妹のいる中山さんらしいね、気遣いが違うねー!」
「その代りに、私の口を付けた反対側で飲んでね」
 海斗の顔は緩んだ。
「うん、わかった。頂戴、頂戴、ハーハー、ハーハー!」

 小野梨沙は思った。これは餌を「待て」している犬じゃないのか? 「ハー、ハー!」待っているやつじゃん。見ているこっちが恥ずかしいよ。

 小野梨沙は片手を上げて、キャビンアテンダントを呼んだ。
「済ませーん、さっき寝ていた子の、ドリンクを注文してもいいですかー!」
 キャビンアテンダントは手を挙げた。しばらくするとカートを押してやって来た。

「小野さん、有難う!」
 海斗は、小野梨紗の手を両手で握った。
「言えば、おかわりだってくれるのよ。時間の短い国内線は常識的に一杯だけどね」
「やっぱ、小野さんは慣れているねー」
 小野梨沙は最初から目を覚ました所で注文するつもりだった。

 海斗は気付いてしまった。中山美咲と間接キッスを逃がしてしまったのだ。現実を知り、肩を落とすのであった。二兎を追う者は一兎をも得ず。まあ、やむを得ないのだ。

 間もなく海斗は、コンソメスープを手にした。海斗はスープを鼻の近くに持って来た。
「う~ん、この芳醇な香り。上空で飲むコンソメスープは格別なんだよねー。危なく楽しみが一つ減る所だったよ。サンキュー・フォー・梨紗グレース小野!」
「ププッ、何なのよ、それ? まあ、いいわ。海斗さあ、航空会社からインスタントが販売されているでしょ。あれを買えば、家でも飲めるじゃん」
「あれじゃあ、ダメなんだよ! 前に飲んだけど、何かが違うんだよね。たぶん乾いた上空で飲むのが良いのかな、それとも、家で作るのと違って濃さのバランスも良いのかも。何より綺麗なキャビンアテンダントに、入れてもらうのが良いのかもね!」

 小野梨沙は話を聞いているうちに飲みたくなった。
「海斗、未だ飲んでないよね、一口ちょうだい!」
 小野梨花は海斗の手からカップを取り上げ、一口飲んだ。
「本当だ~! 美味しいねー。私はいつもコーヒーだから知らなかったよ」
 すると中山美咲も飲みたくなった。
「伏見君、私も一口ちょうだい」
 海斗は小野梨沙からカップを受け取り、中山美咲に渡した。
 中山美咲もコンソメスープを一口飲んだ。
「ホントだわ、何か違うのね。美味しいね、伏見君」
 中山美咲は海斗に戻した。海斗は口を尖らせた。
「も~、起こしてくれなかったからだよ。もうあげないからね」

 この時、海斗は大変な事実に気が付いた! ウサギちゃんを二兎捕まえてしまったのだ! このコップには小野梨紗が口を付けた所、そして一八〇度回転して、中山美咲が口を付けた所。そして今、口を付けようとしている中間の名付けるならマイスポットが有るのだ。その位置は小野梨沙も、中山美咲も注視していた。

 海斗は初めに、マイスポットに口を付けた。
「ああ、美味しい~」
 一口目はマイスポットに口を付けて自然を装った。二口目は中山美咲の口が付いた所に合わせてスープを飲んだ。ああ~、これが中山さんとキスをしてスープを飲んだ味なのか~、なんて優しい味に変わるんだろう。飲み終えると九十度戻しマイスポットで一口飲んだ。海斗はソムリエの如く味をリセットしたのだ。次は反対側に九十度回して、小野梨紗の口を付けた所でスープを飲んだ。はあ~、小野さんはローズヒップのような甘いフレーバーを感じたのだ。海斗は幸せと興奮で赤面した。
 海斗を見ていた中山美咲も、小野梨沙も真っ赤になった。すっかり海斗のペースに二人ははまってしまった。

 海斗達を見て、松本蓮が鎌倉美月をに話し掛けた。
「ねえ美月、海斗達を見てみろよ。三人とも顔が赤くないか?」
「ホントだ、なんだろう? 飲み物が熱かったのかな」

 鎌倉美月は外を見ていた。眼下の雲に、この飛行機の影が映っていた。しかも機体の影の周りに虹色のリングが見えたのだ。
 鎌倉美月は興奮をして松本蓮に話し掛けた。
「ねえ蓮! 雲に面白い影が見えるよ」
 松本蓮は鎌倉美月越しに窓の外を見つめた。
「ス、スッゲー! こんなの初めて見るよ、写真を撮らなくちゃ」
 松本蓮は鎌倉美月に体を押し付け、レンズを向けた。写真を撮るには難しい態勢だった。
「もー、痛いよ! 蓮」
 しかし鎌倉美月は松本蓮の体温を感じて嬉しかった。しばらくすると彼女は席を譲った。座り直した松本蓮は夢中に写真を撮った。

 目的地に近づき着陸に向け高度が下がってきた時だった、窓から興味深いものが見えたのだ。
「ねえ美月、あの星型、五稜郭だよね」
「ホントだ! あの星形、教科書で見た事があるよ」
 数枚の写真を撮り、二人は小さな窓に顔を並べて覗いた。松本蓮はふと気が付いた。
「美月、お前、女の子の良い香りがするな」
 松本蓮は、初めて鎌倉美月を女性として意識した。
「蓮、顔が近いよ! 何で匂いをかんでいるんだよ。もうー離れろよ!」

 鎌倉美月は赤面した。松本蓮は窓から離れ、背もたれに寄りかかった。彼女は窓を眺め、言い過ぎた事を反省した。
 すると、隣でシャッター音が聞こえた。鎌倉美月は不意を突かれたかのようで驚いた。音の方を見ると松本蓮は鎌倉美月の横顔を至近距離で撮影していた。
「何、撮っているんだよ蓮! もうー近いよ!」
「……だって、美月、可愛かったんだもん」
 鎌倉美月は、また赤くなった。
「その写真……、私に絶対、送れよな!」
飛行機は間もなく新千歳空港に着陸した。

 広い飛行場を添乗員の後に続き、生徒達は観光バスに向かった。昼食は生徒達が楽しみにしていたビール園でジンギスカンを頂いた。その後、隣接するビール博物館を見学したのだ。
 皆は観光バスに戻ると、長谷川先生はマイクを使い生徒達に話し掛けた。
「皆、忘れものは無いですか、これから札幌テレビ塔に向かいます。テレビ塔に到着後、自由行動となります。グループ長は事故が無いようにグループをまとめて下さいね。集合は同じこの場所とします。観光バスが待機しているので、予定時刻より早く着いた者は、乗車して待っていて下さい」

 バスはテレビ塔近くの路上に停車した。生徒達は降車して各グループに集まった。
 海斗は張り切って言った。
「楽しみになってきた、じゃあ出発しよう!」
「おー!」
 皆も笑顔で応えた。いよいよ自由行動が始まった。
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