Close to you 可愛い女の子達は海斗を求めた

小鳥遊 正

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第11話 妹の休日

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 今朝の葵は早起きだ。海斗とお出かけの約束をした日曜日だからだ。洋服ダンスの引き出しの音がゴトゴトと海斗の部屋まで聞こえた。

 海斗は着替えて、先にリビングへ下りた。リビングでは正太郎と明子が楽しそうに話をしていた。三人は朝の挨拶を交わした。
「今日はね、葵を横浜美術館に連れて行こうと考えているんだ。今、モネ展をやっているでしょ。それに横浜らしい所も案内出来るしね」
「それは良いわね、海斗さん、きっと葵、喜ぶわ。絵を描くのが好きだから、絶好の機会だと思うわ。誘ってくれて有り難う」
「やっぱりそうだよね。葵には言わないでね。驚かそうと思って、行先は言っていないんだ」
  明子は微笑みうなずいた。
「有難う海斗、それじゃあ小遣いをやろう。葵ちゃんと美味しいものを食べて来なさい。気を付けて行くんだよ」
「有難う、お父さん。それと……、家で二人の時間も出来るでしょ?! 夕食までに帰るね」
 正太郎と明子は顔を見合わせ笑った。

 するとオシャレをした葵が下りて来た。葵も朝の挨拶を交わした。
「さあ皆が揃ったから、朝食を用意するわね。すぐ出来るから食卓に着いてね」
 明子は手際良く朝食を並べた。オムレツにサラダとトースト、ヨーグルトが並んだ。正太郎も海斗も明子が作る料理を楽しみにしていた。明子も葵も家族揃って食べる食事が大好きだ。

 朝食を済ませると、二人は家を出発した。
「ねえ、お兄ちゃん、私、楽しみだな!」
 葵は海斗と並んで歩いた。
「みなとみらいって、どうゆう場所か知っている?」
「え~と、桜木町のお洒落な所でしょ?」
 海斗は得意げに語った。
「エッヘン、みなとみらいは、正式にはみなとみらい二十一地区って言ってね、まだ今の様な建物が建つ前、二十一世紀の未来都市を創造して付けられた地区名なんだよ。お父さんが小さい頃は未だ、殺風景な場所で造船所と貨物列車の基地があったらしい。だから今でも当時を知る人は繁華街の桜木町と、殺風景な場所のみなとみらいを、使い分けている人が多くいるんだよ。因みに文字数が多いからMM21って略す事が有るんだ」
「あ~、だから桜木町から海側は新しい建物が多くて、未来都市っぽいんだね」
「今日は、みなとみらいに有る横浜美術館に行き、モネ展を見ようと思います!」
 葵は飛び跳ねて喜んだ。
「わー、やったー、嬉しいなー、お兄ちゃん! 横浜美術館に行って見たかったの。それに、みなとみらいに行けるのね。私、ちゃんとした美術館行くの初めてだよ」
 海斗は嬉しそうにはしゃぐ葵を見て安心をした。
「それは良かった。葵は絵を描くのが好きだよね、だから興味があると思ってさ」
「私ね、電車にある広告を見て、行きたいなって思っていたの。有難う」


 二人は、みなとみらい駅で降り横浜美術館に到着した。早めに家を出たものの、やはり多くの人が並んでいた。
「わー、すごい列だね~葵」
「うん、凄いね。でもお兄ちゃんと一緒なら、いくらでも待っていられるよ。ねえ、お兄ちゃんと二人で並んでいたらカップルに思われるかな?」
「えっ! うん、そう見えるかもね」
 葵は海斗と腕を組んで笑った。海斗は無邪気に笑って腕を組む葵をとても可愛く思もった。

 入館し、海斗は葵の後ろを意識して歩いた。葵が見るペースに合わせる為だ。二人はゆっくり作品を見た。
「ねえ、お兄ちゃん、世界的な作品をこんなに間近で見られるなんて凄いよ。この柔らかい表現が、独特の世界観を感じさせるのよねー!」
「流石ですね~、葵先生!」
 海斗はちゃかすと葵は赤面し、二人は見つめ合い笑った。ゆっくり、一つ一つの作品を見て回った。

「俺、知らなかったよ、睡蓮って、幾つもあるんだね」
「そうよね、モネも良かったし常設展示も良かったね。美術館って楽しいね。お兄ちゃん有り難う。いろいろ見られて、とっても良かったよ。本物を見るって大事だね。それと、いっぱい見たからお腹が空いちゃった」
 葵は時間も忘れて、夢中で見ていたのだ。二人は美術館を後にした。

 海斗は休憩を兼ねて、葵を食事に誘った。
「遅くなったけど、お父さんが葵と美味しいものを食べるようにって、お小遣いをくれたんだよ。だから気兼ねしないで美味しいもの食べようね。葵は何が食べたいかな?」
 葵は人差し指を顎に当て考えて答えた。
「お兄ちゃんとパフェが食べたい!」
「えっ、脳が疲れているのかな? じゃあ、食事をしてから美味しいパフェを食べようね」

 葵は好きな人が出来たら、一つのパフェを食べ合う事が夢だった。海斗は葵をイタ飯屋に誘い、食後に一つのパフェを食べ合った。パフェを食べていると突然、葵が鼻をすすり始めた。
「葵、どうかしたの? 寒いの、それとも舌でもかんだのか?!」
「……ププ、寒く無いし、かんでも無いよー、もう笑わせるんだから! わたし嬉しいの、引っ越しをするまでの生活の事を考えると、こんなに幸せで、……有り難う。お兄ちゃん」
「礼を言うなら、お父さんとお母さんだよ。俺も同じで、今の生活は楽しいよ」
 葵は泣いたり笑ったり忙しかった。海斗は続けた。
「未だ行こうと思っている所があるんだ、いいよね?」
「うん、良いよ。連れてって!」
 海斗はランドマークタワーに向かった。婦人服が並ぶフロアで、ハンカチをプレゼントしたのだ。葵は嬉しくて再び海斗の腕を組み歩いた。その姿は正に恋人の様だった。

 残念ながら、その様子を買い物に来ていた女の子が偶然見てしまった。
「う、嘘! あれ伏見君だよね?」
 林莉子と一緒に買い物をしていた中山美咲も見てしまったのだ。林莉子は感情をあらわにした。
「もー伏見め! 浮気性なんだから! 私が月曜に聞き出してやるわ!」
 中山美咲はショックで声が出なかった。そうとも知らず海斗は葵と楽しく買い物を続けたのだ。

 海斗は買い物の後に、葵を観覧車に誘った。二十分ほど並び乗車した。葵は興奮をして景色を眺めた。
「お兄ちゃんって、エスコート上手だね。きっとモテるんでしょ?」
 ついこの間、来たとは言えなかった。
「まさか、たまたま知っていただけだよ。それに全然モテないよ、彼女いないし」
「えー、うそー、ホントに彼女、居ないんですか-?」

 二人を乗せたゴンドラは徐々に移動して、一番高い位置になった。東の方角には横浜港が見えた。海の先には夕陽を浴びた、白いベイブリッジが空に映えるように見えた。
「お兄ちゃん、とっても綺麗! あの橋、ベイブリッジでしょ?」
「そうだよ、東の方角もいいけど、反対側も見てごらん?」
 葵は眩しそうに西の方角を見た。
「わー、すごく綺麗!」
 夕陽をバックにした、富士山のシルエットが見えた。
「ねー、綺麗だねー」
 海斗は葵の顔を覘いた。うるんだ瞳が見えたが心配をしなかった。こんなに綺麗な景色を見れば、誰だって感動するからだ。葵はかけがえの無い時間を二人で過ごしていると思った。そして二人は観覧車から降りて帰路についた。
 その日の夕食は、葵が珍しく喋りっぱなしだった。正太郎も明子も葵の話を聞いてほっこりした。楽しい一日だった事を印象付けたのてあった。

 (翌日の月曜日の教室にて)
 海斗は登校すると、松本蓮と鎌倉美月に横浜美術館の話しをしていた。
「昨日ね、横浜の案内を兼ねて、妹と横浜美術館に行って来たんだ!」
「いいな~海斗、葵ちゃんと二人で行ったの?」
「そうだよ、蓮。葵は前に美術部にいたんだって。電車の吊り広告にモネ展を目にしていたんだ。知らずに誘ってみたんだ」
 鎌倉美月も加わった。
「それじゃあ、喜んだでしょ。やっぱり本物を見られるなんて、貴重だもんね」
「そうなんだよ。それが想像以上に喜でくれたよ! 俺も本物の美術を見られて感動した。蓮も美月と行った方がいいよ、お勧めだよ!」
 松本蓮は照れながら鎌倉美月に顔を向けた。
「じゃあ、美月、行ってみるか? たまたまハス繋がりだしネ」
 思いがけない蓮の誘いに鎌倉美月は赤面した。
「ププ、ハス繋がりは余計だけどね、うん、本物を見るチャンスだもんね、一緒に行こうね」
 鎌倉美月は松本蓮と二人だけで美術館に出かけるのは嬉しいけど、照れ臭かったのだ。

 三時限目から中山美咲は教室から居なくなった。昨日、見てしまった海斗と彼女の事が、頭から離れず睡眠不足で体調を崩したのだ。

 中山美咲は保健室に居た。保健室の熊谷祥子先生は中山美咲に睡眠時間や、家の事、学校の事、友人問題、そして、悩み事まで聞いた。
 熊谷先生は優しく話しかけた。
「これは、お医者様でも草津の湯でも治おせないやつだね」
「こんなに、心がザワザワしているのに、治せないのですか?」
 熊谷先生は一呼吸おいてから優しく話しかけた。
「これは恋の病だよ。解決するには、いろんな事を一方的に考えるより、現実と向き合う事が何よりの解決策なんだよ。たとえ、それが望まない結果でもね。それに誰かに話す事で気が楽になるのもこの病の対処法なのよ。だから私が聞いた事で少し楽になったでしょ? これできっと眠むれるから、少し寝てから教室に戻りなさい」

 中山美咲は一時間程、深い眠りについてから教室に戻って行った。彼女は心配している林莉子に恥ずかしながら体調について説明をした。
 林莉子は聞いているうちに、頭に血が昇った。
「美咲、私もあの女の子の事が気になっていたから、私が聞いてあげるね。白黒付けないとね」
 昼休みになると、林莉子は怖い顔をして海斗を屋上に呼び出した。

 (屋上にて)
 海斗は怖かったので、松本蓮と屋上に上がった。すると林莉子の隣に中山美咲が居た。
 林莉子は目をつり上げた表情で、海斗に言った。
「私、伏見君一人を呼び出したんだけど、なんで松本君が居るのかしら?! まあ、いいけどね。昨日、ランドマークで美咲と買い物をしていたら、伏見君が歳下の子とデートしている所を見ちゃったのよ、あの子は誰なの、説明しなさいよ!」
中山美咲は悲しそうな顔をしていた。

 海斗は慌てて否定した。
「えー、違うよ、違う! それ妹だよ」
 林莉子も中山美咲も目が点になった。
「嘘、付いているんじゃ無いでしょうねー。伏見君に兄妹いたの? だいち兄妹にしては仲が良かったわよ!」

 松本蓮が冷静に説明した。
「林さんさあ、それ妹だよ。妹が美術が好きで、一緒に見に行ったんだって。今度は俺も美月と行こうかって、今朝話をしたんだ」
 林莉子は首を傾げた。
「ねえ、美咲、伏見君に妹がいる事、知っているの?」
「う、うん、……」
「もー! 伏見君、紛らわしい事しないでよね! てっきり彼女がいると思ったじゃないの!」
 中山美咲はバツが悪そうな表情をした。林莉子はカンカンだった。
「じゃあ、いいわ! さあ、お昼にしましょう、美咲行くわよ」
 林莉子は中山美咲の腕を引き、階段を下りて行った。

 気落ちしている海斗に、松本蓮は慰めた。
「なあ海斗、女って怖いな。凄い情報網だよな、本当に見たのかな?」
「本当に怖いね。でも蓮が居てくれて助かったよ」
「所で海斗は中山さんと、付き合っているのか?」
「未だだよ。まだ一回、勉強を教えた、だけだよ」
「それじゃあ、林さんと付き合っているのか?」
「それは、まったく無いよ!」
「じゃあ、何が前提で怒っているんだ? 俺が思うに中山さんは海斗が好きだよ。今のは浮気の追求だよ!」

 海斗は思った。もし、そうだとしたら、中山さんの家に行ってキスをしそうになったのも偶然では無く、自然の流れだったのかもしれない。急に海斗はデレデレしになった。

「海斗、聞いているのか? お前、急に骨が無くなったように見えるぞ! どうしたんだ?」
「だって中山さんが、俺の事、好きなんだろ、エヘ」
「俺も解らないけど、そんな感じがしたよ。でも喜んでばかりいられないよ。そうだとしたら中山さんって独占欲強いね。兄妹で出かけただけで、焼き餅を焼くんだぜ。ちょっと引くな」
「……う、うん。蓮、いろいろ有り難う。取りあえず教室に戻ろうか」
二人も教室に戻っていった。

 確かに美術鑑賞だけじゃなく知らない人が見れば、あれはデートだった。海斗は女性と付き合う難しさを痛感したのであった。

 中山美咲はその日の夜に、寝際に思い返していた。ランドマークで見た女の子が妹で安心をしたのだ。数学を教えてもらった時のときめきを思い出し、安心して眠むりについたのであった。
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