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第7章 いっぱい見れてよかった

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 日が暮れて、いつものT字路でわたしたちは立ち止まった。
 わたしはここで、春輝と別れようと決めていた。
 日付が変わるとき、わたしの命が消える。
 痛いのかな? 苦しいのかな? 怖くて怖くてたまらないけど、そんな姿を春輝に見せるわけにはいかない。

「じゃあ、ここで」
「ほんとに送らなくていいの?」
「うん。ここでいい」

 これ以上春輝と一緒にいたら、離れられなくなりそうで。
 泣きわめいて、春輝を困らせたくないんだ。

「明日、学校でね」

 思ってもいないことを口にした。わたしが学校に行くことなんて、もうないのに。
 春輝はそれには答えず、じっとわたしの顔を見ていた。その目がちょっと潤んでいるように見えて、わたしは慌てて顔をそむける。
 なんで? わたしの命が今日で最後ってこと、春輝が知っているはずないのに。

「うん。そうだね。また明日、学校で」

 春輝がぽつりとつぶやいた。かすかに潮の匂いが流れてくる。

「じゃあ、バイバイ、奈央」

 顔を向けると、春輝がいつもみたいに笑って、わたしにカメラを向けた。
 笑わなきゃ。わたしも笑って、さよならしなきゃ。

「うん。バイバイ、春輝」

 春輝の一番好きな顔で、笑ったつもりだった。なのに涙がつうっとこぼれて、きっと変な顔になってしまったと思う。
 わたしはすっと背中を向けた。春輝はその場を動かない。
 足を前に出す。振り向いちゃだめだ。振り向いたらもっと泣いてしまう。
 だけど悲しくて、寂しくて、苦しくて……。

「奈央!」

 後ろから声がかかった。わたしはハッとして足を止める。その背中を春輝が抱きしめた。
 春輝……。
 体が震える。でも春輝の体も震えていた。

「……ごめんね?」

 耳元で春輝が、ささやいた。
 ごめんってなに? 謝るのはわたしのほうだよ?
 春輝の体がわたしから離れる。わたしは前を見たまま立ちつくす。
 走り去る春輝の足音が聞こえなくなると、その場にすとんっと座り込んだ。

「うっ……うわあっ……」

 泣き叫びそうになり、体を丸めた。地面に這いつくばるようにして、声を押し殺し、涙を流す。

『奈央。泣かないで』

 春輝の声が、泣きすぎて真っ白になった頭に、優しく響いた。
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