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第3章 【すぐに行く】

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 その日の放課後は、なんだか教室内がざわついていた。みんなが窓の外を眺めている。わたしもバッグに荷物を詰めながら、外を見てみた。
 この教室からは、校門が見える。そこに数人の生徒が集まっているのがわかった。
 よく見るとうちの高校の制服ではない。なんだかガラの悪そうな、いわゆるヤンキーという人たちのようだ。

「なに、あの人たち」
「こわいんだけど」

 うちの学校の偏差値は平均で、髪を染めた女の子や、制服を着崩した男の子はいるけれど、そんなに荒れているわけではない。
 だからあんな人たちと関わることは、めったになかった。

「春輝いる?」

 廊下から飛び込んできた男子が叫んだ。春輝と仲がいい慎吾くんだ。わたしが視線を動かすと、席に座っていた春輝が「いるよ」と答えた。

「なぁ、なんなの、あいつら。おまえのこと捜してるみたいなんだけど」

 わたしの心臓がドキッとした。中学生のころ、喧嘩していた春輝のことを思い出す。

「うちの学校の生徒にひとりずつ聞いてるんだよ。『一年の渋谷春輝は知ってるか?』『知ってたら呼んでこい』って。あいつら春輝の知り合い?」
「あー……」

 あせっている慎吾くんとは反対に、春輝はのん気な口調で答えた。

「あいつらはおれの友達だよ」
「は? 友達」

 春輝がにこっと笑って立ち上がる。

「呼ばれてるなら、行くしかないかなぁ。あんまり気が進まないけど」

 周りの子たちが心配そうに見ている。わたしはぎゅっと手を握る。
 いや、気が進まないってことは、友達じゃないんでしょ? 絶対行くべきじゃないでしょ?

「じゃ、ちょっと行ってくるわ」
「えー、春輝、大丈夫なの?」

 美鈴が聞いている。

「大丈夫、大丈夫、友達だから。じゃあね」

 春輝が手を振って背中を向ける。
 だめだよ。だめだめ、行っちゃだめ。
 心の中で思うのに、春輝は教室を出ていこうとする。
 わたしは立ち上がり、その背中に叫んだ。

「春輝!」

 教室中に響き渡ったその声に、みんなが一斉に振り向いた。廊下に出ようとした春輝も、ゆっくりと振り返る。

「行かなくていい」

 教室の中がざわめき出す。美鈴が顔をしかめたのがわかった。

「ほんとは友達じゃないんでしょ? だったら行かなくていい。行っちゃだめ」

 春輝がわたしを見ている。わたしたちの視線が、教室の中ではじめてぶつかる。
 しかしすぐに春輝は、いつもみたいに、にかっと笑った。

「ありがと、芹澤さん、心配してくれて。でも本当に大丈夫だから」

 そして念を押すようにこう言った。

「だから絶対ついてこないでね?」

 春輝がさっと教室から出ていく。

「ちょっと待って! 春輝!」

 追いかけようとしたわたしの前に、美鈴が立ちはだかった。

「ねぇ、なんなの? なんで芹澤さん、そんなに春輝に馴れ馴れしいの?」

 ああ、もううるさい! いまはあんたにかまってるひまはないの!

「どいて!」
「きゃっ」

 突き飛ばすと、美鈴は簡単によろけた。わたしは荷物を持って走り出す。

「ちょっと! 芹澤さん! 待ちなよ!」

 だけどその手を美鈴がつかんだ。
 もういい加減にして! わたしは春輝を追いかけなきゃいけないんだから!
 思いっきり、美鈴の手を振り払い、声を上げた。

「ごめん! わたし嘘ついてた!」
「は?」

 顔をしかめた美鈴に告げる。

「わたし、春輝とつきあってるの!」
「え?」
「わたし、春輝の彼女なの!」

 ぽかんとした顔の美鈴を残し、わたしは教室を飛び出した。
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