上 下
5 / 56
第1章 死にたかったんでしょ?

1-4

しおりを挟む
 その日、授業が終わると荷物を抱え、一目散に教室を飛び出した。
 もちろん春輝から逃げるためだ。
 だけど廊下に一歩出て、わたしは足を止めた。

「芹澤さん、ちょっといい?」

 待ち構えていたのは、美鈴を中心とした、陽キャグループの女子生徒たち。
 わたしはため息をついて、「いいよ」と答えた。
 彼女たちの言いたいことはだいたいわかる。
 わたしは女の子たちに囲まれたまま、まるで連行されるように、ひと気のない空き教室へ連れていかれた。


「……はぁ」

 やっと美鈴たちから解放されて、昇降口から外へ出たのは、いつもより遅い時間だった。
 とぼとぼと自転車置き場に向かい、自分の自転車を引き出す。
 あの子たちに文句を言われているうちに、こんな時間になってしまった。そのおかげで、春輝には捕まらずに済んだけど。

 グラウンドで声を上げている運動部を横目に、わたしは自転車を走らせた。
 そして頭の中で、美鈴たちに言われたことを思い出す。
 簡単に言えば、「あんたみたいな不愛想な女が、あたしたちのアイドル春輝に近づくな」と言うことだ。それにどうやら、美鈴は春輝のことが好きらしい。

「そんなこと、言われなくてもわかってるって」

 ひとりつぶやき、ペダルを踏む足に力を込める。
 わたしだって春輝には迷惑してるんだ。
 でも何度説明しても、彼女たちは納得してくれず、延々と文句を言われ続けた。反論する気にもなれなくて、黙って聞いていたけれど。
 向かい風を受けながら、ぎゅっとハンドルを握りしめる。

 もう嫌だ。すべてが面倒くさい。

 やっぱり――今日、死のう。

 ペダルを強く踏み込み、わたしは帰る予定の家から、別方向へ自転車を走らせた。


 学校の近くはわりとにぎやかで交通量が多いが、少し自転車で走ると、すぐにのどかな田舎の風景になる。いつも帰るのは畑が広がる山の方角だけど、今日のわたしは海の方角へ走っていた。
 ぽつぽつと民家の並ぶ狭い路地を抜けたら、目の前にいきなり海が開ける。突き当りのT字路を左に曲がり、堤防沿いの道をひたすら進む。
 小ぢんまりとした漁港を横目で見ながら、釣具店の前を通り過ぎると、民家もなくなり、車はもちろん人通りも少なくなる。夏なら多少は釣り人などが訪れるが、この季節はひと気がない。

 寂しい道をさらに進むと、トンネルが現れ、その手前に駐車場のような空き地が見えてくる。
 わたしはそこでブレーキをかけた。
 空き地にある堤防の向こうは、どこまでも続く広い海。左側を見ると、狭くて急な階段がある。ここから海岸に下りられるのだ。
 だけどこの階段を下りる人はめったにいない。海水浴場でもないし、釣りができるような場所でもないからだ。
 わたしは自転車を空き地に止めると、古い階段をゆっくり下りはじめた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

黄昏は悲しき堕天使達のシュプール

Mr.M
青春
『ほろ苦い青春と淡い初恋の思い出は・・  黄昏色に染まる校庭で沈みゆく太陽と共に  儚くも露と消えていく』 ある朝、 目を覚ますとそこは二十年前の世界だった。 小学校六年生に戻った俺を取り巻く 懐かしい顔ぶれ。 優しい先生。 いじめっ子のグループ。 クラスで一番美しい少女。 そして。 密かに想い続けていた初恋の少女。 この世界は嘘と欺瞞に満ちている。 愛を語るには幼過ぎる少女達と 愛を語るには汚れ過ぎた大人。 少女は天使の様な微笑みで嘘を吐き、 大人は平然と他人を騙す。 ある時、 俺は隣のクラスの一人の少女の名前を思い出した。 そしてそれは大きな謎と後悔を俺に残した。 夕日に少女の涙が落ちる時、 俺は彼女達の笑顔と 失われた真実を 取り戻すことができるのだろうか。

俺にはロシア人ハーフの許嫁がいるらしい。

夜兎ましろ
青春
 高校入学から約半年が経ったある日。  俺たちのクラスに転入生がやってきたのだが、その転入生は俺――雪村翔(ゆきむら しょう)が幼い頃に結婚を誓い合ったロシア人ハーフの美少女だった……!?

優秀賞受賞作【スプリンターズ】少女達の駆ける理由

棚丘えりん
青春
(2022/8/31)アルファポリス・第13回ドリーム小説大賞で優秀賞受賞、読者投票2位。 (2022/7/28)エブリスタ新作セレクション(編集部からオススメ作品をご紹介!)に掲載。 女子短距離界に突如として現れた、孤独な天才スプリンター瑠那。 彼女への大敗を切っ掛けに陸上競技を捨てた陽子。 高校入学により偶然再会した二人を中心に、物語は動き出す。 「一人で走るのは寂しいな」 「本気で走るから。本気で追いかけるからさ。勝負しよう」 孤独な中学時代を過ごし、仲間とリレーを知らない瑠那のため。 そして儚くも美しい瑠那の走りを間近で感じるため。 陽子は挫折を乗り越え、再び心を燃やして走り出す。 待ち受けるのは個性豊かなスプリンターズ(短距離選手達)。 彼女達にもまた『駆ける理由』がある。 想いと想いをスピードの世界でぶつけ合う、女子高生達のリレーを中心とした陸上競技の物語。 陸上部って結構メジャーな部活だし(プロスポーツとしてはマイナーだけど)昔やってたよ~って人も多そうですよね。 それなのに何故! どうして! 陸上部、特に短距離を舞台にした小説はこんなにも少ないんでしょうか! というか少ないどころじゃなく有名作は『一瞬の風になれ』しかないような状況。 嘘だろ~全国の陸上ファンは何を読めばいいんだ。うわーん。 ということで、書き始めました。 陸上競技って、なかなか結構、面白いんですよ。ということが伝われば嬉しいですね。 表紙は荒野羊仔先生(https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/520209117)が描いてくれました。

冬の水葬

束原ミヤコ
青春
夕霧七瀬(ユウギリナナセ)は、一つ年上の幼なじみ、凪蓮水(ナギハスミ)が好き。 凪が高校生になってから疎遠になってしまっていたけれど、ずっと好きだった。 高校一年生になった夕霧は、凪と同じ高校に通えることを楽しみにしていた。 美術部の凪を追いかけて美術部に入り、気安い幼なじみの間柄に戻ることができたと思っていた―― けれど、そのときにはすでに、凪の心には消えない傷ができてしまっていた。 ある女性に捕らわれた凪と、それを追いかける夕霧の、繰り返す冬の話。

脅され彼女~可愛い女子の弱みを握ったので脅して彼女にしてみたが、健気すぎて幸せにしたいと思った~

みずがめ
青春
陰キャ男子が後輩の女子の弱みを握ってしまった。彼女いない歴=年齢の彼は後輩少女に彼女になってくれとお願いする。脅迫から生まれた恋人関係ではあったが、彼女はとても健気な女の子だった。 ゲス男子×健気女子のコンプレックスにまみれた、もしかしたら純愛になるかもしれないお話。 ※この作品は別サイトにも掲載しています。 ※表紙イラストは、あっきコタロウさんに描いていただきました。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

【完結】箱根戦士にラブコメ要素はいらない ~こんな大学、入るんじゃなかったぁ!~

テツみン
青春
高校陸上長距離部門で輝かしい成績を残してきた米原ハルトは、有力大学で箱根駅伝を走ると確信していた。 なのに、志望校の推薦入試が不合格となってしまう。疑心暗鬼になるハルトのもとに届いた一通の受験票。それは超エリート校、『ルドルフ学園大学』のモノだった―― 学園理事長でもある学生会長の『思い付き』で箱根駅伝を目指すことになった寄せ集めの駅伝部員。『葛藤』、『反発』、『挫折』、『友情』、そして、ほのかな『恋心』を経験しながら、彼らが成長していく青春コメディ! *この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件・他の作品も含めて、一切、全く、これっぽっちも関係ありません。

榛名の園

ひかり企画
青春
荒れた14歳から17歳位までの、女子少年院経験記など、あたしの自伝小説を書いて見ました。

処理中です...