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第1章 死にたかったんでしょ?
1-2
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教室の窓際の席に座ると、わたしはひとり、スマホの画面を見下ろした。
画面には【短編小説コンテスト結果発表】という文字。
以前、なんとなく書いた小説を送ってみたんだけど、案の定落選していた。
別にいい。ひまつぶしに書いただけだし。特に小説に興味あるわけでもないし。
耳にイヤホンをつけ、適当に曲を流す。休み時間はこうやって、周りの音や声を遮断している。
この教室で、わたしはいつもひとりだ。友達と呼べる人はいない。
だからといって、特に問題はない。わたしは自分の意思で、周りの人間を寄せつけないようにしているんだから。
友達なんかいらない。楽しい学校生活なんて必要ない。行く場所がないから、ここで時間を消化しているだけ。
「芹澤さん」
頬杖をついたまま顔を上げると、春輝がわたしを見下ろしていた。
わたしはすっと視線をそむける。
「わ、無視かよ! ひどっ!」
うるさい、あっち行って。陽キャグループのあんたが、ぼっちのわたしに声をかけたりしたら、にらまれるのはわたしなんだよ?
「おーい、芹澤さーん」
のん気なその声を無視して、窓の外を見つめ続ける。
「『撮るよ』」
その声にハッとした瞬間、スマホのシャッター音が鳴り響いた。
「ちょっ……」
振り向いたわたしを、春輝がにやにや見下ろしている。そしてスマホの画面を確認して、「おーっ!」と大げさな声を上げた。
「ヤバいね、これ。芹澤さんの横顔。すっげー、綺麗」
綺麗……。
『奈央はね、ママに似て綺麗なんだから。もっと自信持っていいんだよ?』
再び頭に響く甘ったるい声を、急いで追い払う。
春輝がスマホの画面をこちらに向けた。やわらかな光に包まれる、わたしの横顔が写っている。
「な? 超綺麗だろ?」
わたしは耳からイヤホンをはずすと、手を伸ばしてスマホを奪った。そしてその写真を迷わず削除する。
「わっ! なにすんだよ!」
見ると他にもたくさん、わたしの写真が保存されている。いつの間にこんなに撮ったんだ。腹が立つ。
「だめだよ。これはおれの宝物なんだから」
春輝の手が伸び、わたしからスマホを取り返した。
「あんた……おかしいよ」
「え?」
「わたしの写真なんか撮って、なにが楽しいの?」
すると春輝がにこっと笑った。女の子に人気のある、あのアイドルっぽい笑顔だ。
「そりゃ、楽しいよ。おれ、モデルは芹澤さんって決めてるんだ」
わたしは思いっきり顔をしかめた。
「あんた、やっぱりおかしい」
「そうかなぁ。おれ、いたって真面目なんだけど」
そう言って春輝が、あははっと笑う。にぎやかな教室に、春輝の明るい笑い声が響く。
でもその向こうで美鈴たちが、冷たい視線を送っているのが見えた。
「もうあっち行ってよ。みんなに変に思われる」
「え、でもおれ、芹澤さんと話したいし」
「わたしは話したくない」
きっぱりと断ったのに、春輝はまだそこにいる。わたしは顔をそむけて、再びイヤホンをつけた。
そんなわたしの耳に、その声が届く。
「じゃあ放課後ならいい?」
わたしはゆっくりと首を動かした。にこにこ笑っている春輝の顔が見える。
「今日一緒に帰ろう」
それだけ告げると、春輝はみんなのほうへ戻っていった。わたしは呆然とその背中を見送る。
『今日一緒に帰ろう』
その言葉が、じんわりと胸に沁み込む。
だけどそれを振り払うように、わたしは首を横に振った。
バカじゃないの? 帰るわけないじゃん。
ぼっちのわたしが人気者のあんたとなんか、帰れるわけない。
画面には【短編小説コンテスト結果発表】という文字。
以前、なんとなく書いた小説を送ってみたんだけど、案の定落選していた。
別にいい。ひまつぶしに書いただけだし。特に小説に興味あるわけでもないし。
耳にイヤホンをつけ、適当に曲を流す。休み時間はこうやって、周りの音や声を遮断している。
この教室で、わたしはいつもひとりだ。友達と呼べる人はいない。
だからといって、特に問題はない。わたしは自分の意思で、周りの人間を寄せつけないようにしているんだから。
友達なんかいらない。楽しい学校生活なんて必要ない。行く場所がないから、ここで時間を消化しているだけ。
「芹澤さん」
頬杖をついたまま顔を上げると、春輝がわたしを見下ろしていた。
わたしはすっと視線をそむける。
「わ、無視かよ! ひどっ!」
うるさい、あっち行って。陽キャグループのあんたが、ぼっちのわたしに声をかけたりしたら、にらまれるのはわたしなんだよ?
「おーい、芹澤さーん」
のん気なその声を無視して、窓の外を見つめ続ける。
「『撮るよ』」
その声にハッとした瞬間、スマホのシャッター音が鳴り響いた。
「ちょっ……」
振り向いたわたしを、春輝がにやにや見下ろしている。そしてスマホの画面を確認して、「おーっ!」と大げさな声を上げた。
「ヤバいね、これ。芹澤さんの横顔。すっげー、綺麗」
綺麗……。
『奈央はね、ママに似て綺麗なんだから。もっと自信持っていいんだよ?』
再び頭に響く甘ったるい声を、急いで追い払う。
春輝がスマホの画面をこちらに向けた。やわらかな光に包まれる、わたしの横顔が写っている。
「な? 超綺麗だろ?」
わたしは耳からイヤホンをはずすと、手を伸ばしてスマホを奪った。そしてその写真を迷わず削除する。
「わっ! なにすんだよ!」
見ると他にもたくさん、わたしの写真が保存されている。いつの間にこんなに撮ったんだ。腹が立つ。
「だめだよ。これはおれの宝物なんだから」
春輝の手が伸び、わたしからスマホを取り返した。
「あんた……おかしいよ」
「え?」
「わたしの写真なんか撮って、なにが楽しいの?」
すると春輝がにこっと笑った。女の子に人気のある、あのアイドルっぽい笑顔だ。
「そりゃ、楽しいよ。おれ、モデルは芹澤さんって決めてるんだ」
わたしは思いっきり顔をしかめた。
「あんた、やっぱりおかしい」
「そうかなぁ。おれ、いたって真面目なんだけど」
そう言って春輝が、あははっと笑う。にぎやかな教室に、春輝の明るい笑い声が響く。
でもその向こうで美鈴たちが、冷たい視線を送っているのが見えた。
「もうあっち行ってよ。みんなに変に思われる」
「え、でもおれ、芹澤さんと話したいし」
「わたしは話したくない」
きっぱりと断ったのに、春輝はまだそこにいる。わたしは顔をそむけて、再びイヤホンをつけた。
そんなわたしの耳に、その声が届く。
「じゃあ放課後ならいい?」
わたしはゆっくりと首を動かした。にこにこ笑っている春輝の顔が見える。
「今日一緒に帰ろう」
それだけ告げると、春輝はみんなのほうへ戻っていった。わたしは呆然とその背中を見送る。
『今日一緒に帰ろう』
その言葉が、じんわりと胸に沁み込む。
だけどそれを振り払うように、わたしは首を横に振った。
バカじゃないの? 帰るわけないじゃん。
ぼっちのわたしが人気者のあんたとなんか、帰れるわけない。
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