『Pâtisserie Hina 〜夢と絆のスイーツ物語〜』

ユキワラシ

文字の大きさ
17 / 173
第1章:「静かに始まる予感」

第15話:新たな試練

しおりを挟む
木下の言葉が頭の中で響いていた。彼の冷たい笑みを見た瞬間、俺は確信した。この先、俺たちに試練が訪れることは避けられないだろう。そして、その試練は俺たちの絆を試すものになるはずだ。

陽菜と一緒に帰る途中、俺は彼女に静かに話を切り出した。

「陽菜、木下が言っていた試練って、もしかしたら俺たちに何かしらの障害を与えてくるかもしれない。でも、俺はお前と一緒にそれを乗り越えるつもりだ」

陽菜は少し考え込んだ後、顔を上げて俺に答えた。

「うん、私も同じ気持ちだよ。でも、ちょっと不安な気持ちもある」

「不安は当然だよ。でも、お前と一緒なら何だって乗り越えられる」

陽菜はしばらく黙っていたが、やがて静かに頷いた。その顔に浮かぶ微笑みには、少しだけ安心した様子が見て取れた。けれど、俺の胸の中には、木下が言った「試練」という言葉が重くのしかかっていた。

***

数日後、予感は現実となった。

その日、昼休みが終わりかけた頃、突然校内放送が流れた。

「お知らせします。新たな転校生が本日からこちらの学校に通うことになりました。皆さん、よろしくお願いします」

放送が終わると、教室がざわつき始めた。新しい転校生が来るという話は聞いていなかった。だが、その転校生が教室に入ってきた瞬間、俺の心は一瞬で凍りついた。

その転校生は――

「木下 瑠奈(きのした るな)」

木下と同じ名字が呼ばれたその瞬間、教室内に広がる静けさ。あまりにも突然で、誰もがその事実に驚いていた。俺と陽菜も、驚きと困惑の入り混じった表情を浮かべていた。

「え?」陽菜が小さくつぶやいた。

教室の扉が開き、入ってきたのは木下と瓜二つの顔をした少女だった。髪型は少し長めで、まっすぐな黒髪が肩を覆う。彼女は一歩踏み込むと、教室を見渡して、淡々とした表情で自己紹介を始めた。

「こんにちは、木下瑠奈です。転校生です。よろしくお願いします」

その声には、どこか木下の冷徹さを感じさせるものがあった。教室の空気が一層重くなった。

***

授業が終わり、放課後になった。陽菜と俺は、二人で帰ろうとしたが、木下瑠奈が突然俺たちの前に現れた。

「待って」

その言葉に足を止めると、彼女は軽く笑ってから言った。

「私、ずっとあなたのことを見てたわ。朝倉くん」

「え?」俺は思わず驚いたが、彼女はさらに一歩近づいてきた。

「あなたが陽菜と一緒にいるの、見てるとなんだか腹が立つのよね。だから、これからちょっと遊んでみようと思う」

木下瑠奈の言葉に、陽菜は明らかに驚き、そして少しだけ顔をこわばらせた。俺もその言葉に警戒心を覚えた。

「お前、何を言ってるんだ?」

「何って、簡単よ。陽菜を試すだけ。私と一緒にいると、きっと何かが変わるわよ。だって、私は陽菜のライバルだもの」

その言葉に、陽菜は驚きとともに反応した。

「ライバル?」

木下瑠奈は冷ややかな笑みを浮かべ、俺に向かって続けた。

「私、陽菜が本当に朝倉くんを大切に思ってるのか、試してみたくなったの」

その瞬間、俺は心の中で決意を固めた。この試練は、俺たち二人の絆を試すものだと確信した。そして、陽菜がどうしても不安そうな顔をしていたので、俺は優しく手を取って言った。

「陽菜、大丈夫だよ。どんな試練が来ても、俺はお前を守る。木下瑠奈が何をしてきても、俺はお前を選ぶから」

陽菜は少し戸惑いながらも、俺の手を握り返してくれた。その握手の温もりが、俺の心を支えてくれる。

木下瑠奈は、俺たちのやり取りを見て、楽しそうに笑った。

「そうね、それならそれで面白いわ。じゃあ、覚悟しておいて。試練はもう始まっているから」

彼女はそう言って、立ち去った。その後ろ姿を見送りながら、俺は心の中で誓った。どんな試練が来ても、必ず二人で乗り越えてみせると。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...