『Pâtisserie Hina 〜夢と絆のスイーツ物語〜』

ユキワラシ

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第1章:「静かに始まる予感」

第5話:待ち遠しい昼休み

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昼休みになると、俺は自然と屋上へ向かうようになった。

陽菜が来るのを待っているわけではない。ただ、屋上で一人でいると、なんだか落ち着かなくなってきたからだ。

「おーい、朝倉くん!」

いつものように、陽菜が元気よく屋上に現れた。

「お前、どこにでも現れるな」

「だって、朝倉くんがいるから!」

「……それだけか?」

陽菜はクスっと笑いながら、「もちろん!」と元気よく答える。

「じゃ、席取ってくる」

陽菜はそう言って、俺の隣に座る。

「今日は何食べるの?」

俺は弁当箱を開けながら、「適当」と答える。

「適当? それ、毎日言ってない?」

陽菜は少しだけ口を尖らせるが、すぐに笑い出す。

「朝倉くん、結構おもしろいこと言うよね」

「……は?」

「いや、冗談だって」

俺は答えないまま、黙々と弁当を食べ続ける。

その静かな空間が心地よく感じる——。

陽菜もそれに気づいたのか、少しだけ静かになる。だが、すぐに言葉を紡ぐ。

「でもさ、やっぱりここで朝倉くんと食べるの、すごく楽しいよ」

「……楽しい?」

「うん。なんだか、落ち着くんだよね」

陽菜は少し照れたように顔をそらした。その仕草に、俺の心臓が少しだけ速くなるのを感じる。

「……そうか」

俺は照れ隠しに弁当箱を閉じると、陽菜に向かって軽く頷いた。

その時、陽菜が急に静かになった。

「……あのさ、朝倉くんって、本当はもっと喋りたくない?」

その一言に、俺は言葉を失った。

「は?」

「だって、私が話しても全然嫌そうじゃないもん。ちょっと思ってること、教えてくれるだけで嬉しいって感じだし」

陽菜の瞳が、少し真剣に俺を見つめてくる。その視線が、俺の心に触れるような気がした。

「……話したいことは、あまりない」

そう答えながら、俺は本当にその言葉が正しいのか、少しだけ悩んだ。

「そうなんだ」

陽菜は少しだけ肩を落としたが、それでもまたすぐに笑顔を作る。

「まぁ、無理しなくてもいいよ。私は、朝倉くんが好きなように過ごしてくれればそれでいいから」

その言葉に、俺は少しだけ安心した。

でも、心のどこかで、陽菜のことが気になっている自分を感じる。
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