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21 天幕の外で
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しおりを挟む天幕の外に追い出されてしまったスレクツは、途方に暮れていた。
着ていた兵服は、知らないうちに洗濯に出されているそうで、着るものがなかった。
天幕を追い出される直前に、くるぶし丈の長靴だけは履いたけれど、普段は頭からつま先まで布で隠しているので、素足に風を感じるたびに落ち着かない気持ちになる。
顔を出したくないと必死で言い募った結果、頭にオンフェルシュロッケン団長の、赤銅色の兵士服をかぶることになった。
絶対に、変な格好していると思われてる。
恥ずかしいかも。
普段の黒布の方が目立っているとは考えず、スレクツはもじもじと体を揺らした。
毛布を貸して欲しいと言うスレクツに、オンフェルシュロッケンが着用済みの上着を押しつけたことには、理由がある。
(気持ちの上ではすでに)嫁のスレクツに、夫の匂いをまとわせるためだ。
根が田舎者で、獣性が強いオンフェルシュロッケンにとって、結婚とは子作りと同意になる。
雌の発情に合わせて口説き落とし、整えておいた巣穴で愛しあうことが、婚姻の儀式だ。
愛しあえば確実に匂いをまとわせられるけれど、スレクツが性的な行為を知らない、と理解して譲歩した。
本音では、スレクツにアレス団長の外套を着せるのも嫌だった。
アレス団長がスレクツの親だと理解していても、嫌なものは嫌だ。
特注のオンフェルシュロッケンの戦闘用外套は、スレクツには重すぎて大きすぎた。
一歩も歩けなかったので、諦めるしかなかった。
そんな獣人種側の理由を知らないスレクツも、毛布を借りてしまうとオンフェルシュロッケンが凍えてしまうと考え直して、兵服を受け取った。
兵服なら着替えもあるだろう、と。
しかし実際にかぶってみると……頭を覆う兵服から、オンフェルシュロッケン団長の気配を感じて、落ち着かない。
獣人主兵士は体内魔力を使って、身体強化しながら戦う。
赤銅兵士団の兵服には、内側からの魔力漏れを防ぎ、身体強化の精度を高める陣が刻まれている。
そのせいで、服に使用者の魔力残滓が起きる。
獣人種は気づかない程度でも、魔術師であるスレクツには明確に感じ取れる。
オンフェルシュロッケンの気配は汗臭さや獣臭さではなかった。
天日干しした毛布のような、埃っぽい土の匂いのような、自然の中でしか嗅げない香りだった。
抱きしめられた時のことや、舐められたことを思い出して、指先や背中がそわそわしてしまう。
嫌いではない、むしろ、好きかも。
スレクツは深く息を吸って残滓を堪能し、陶然と身を震わせた。
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