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12 帝都にて
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しおりを挟む戦場から戻り、次の仕事に駆り出されるまでの余暇を、スレクツは持て余していた。
兵士寮での自室待機命令が出ているので、買い出しに行くこともできないし、千里眼も使えない。
本当なら、まだ戦場派遣期間中だったのに、と唇を噛み締める。
オンフェルシュロッケン団長は戦場にいるのに、自分だけが帝都に戻されたことが不満だった。
お勧めスープの缶詰をどこかに落としてしまって、渡すことができなかったことが心残りだ。
抗議の声を上げることはできない。
兵士は、服務規定に触れない限り、与えられた仕事に文句を言ってはいけないのだ。
スレクツが帝都に戻されたのは、他国からやってくる王族の接待に回されることになったからだ。
他に類を見ない〝千里眼の魔術師〟であるスレクツ・イインの話を聞いた、魔術に造詣の深い他国の王族が、ぜひ本人と語りたいと言いだしたらしい。
名前を聞いたけれど、当然ながら知らなかった。
他国の王族に興味などない。
スレクツはオンフェルシュロッケン団長一筋だ。
二つ名持ちの魔術師ではあっても、兵士であるスレクツにできるのは既存の魔術を使うことだけだ。
魔術理論の研究者でもなければ、魔術の歴史に関しての薀蓄家でもない。
魔術学院にいた頃でも、スレクツより知識に貪欲で、スレクツより探究心に満ちた魔術師見習いは、芋を洗うように大勢転がっていた。
スレクツの頭抜けている能力は〝千里眼〟への適性ではない。
魔術を同時に多重発動できる並列処理能力の高さが、スレクツの適性だ。
百を超える魔術を同時に展開、さらにそれを一日中でも維持できる、凡人種らしからぬ膨大な魔力量こそが、天が与えた才である。
アレス団長曰く、常軌を逸している魔力量。
これまでに五台以上の測定器を壊してしまって、いまだに上限は不明だ。
育て親のアレス団長の尽力と、スレクツ自身の他人を寄せつけない内向的な性格により〝千里眼の魔術師〟はひどく地味な能力しか持たないと国の上層部に考えられている。
物陰をこそついて餌を見つける、ネズミのような魔術師だと。
スレクツの実力と価値を理解しているのは、帝都全域を守る衛士隊に所属する隊員たちと、育て親のアレス団長とその伴侶、兄弟子のクフォーンテ副団長くらいだ。
スレクツが四歳の時点で、大陸中に多重発動の魔術もどきを展開していた、と知っているのは三人だけ。
権力に飲みこまれれば、国のために使い潰される未来しか見えなかった。
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