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07 後悔と現実
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しおりを挟む老年の馴染みの職人は、スレクツの適性や体質を知り尽くしていた。
スレクツが必要とする義眼が、汎用品とは別物だということも。
魔術具は魔力のある者なら誰でも使用できるが、魔術具義肢は違う。
個々人で内在魔力量も必要とする魔術も違うため、特注品になってしまう。
老いた職人は、あえて弟子に仕上げを任せることにした。
弟子を後継者に据える最後の試験を兼ねて、指示書に〝流入魔力量制限の刻印不要〟と書かなかった。
指示がないことをおかしいと思って仕様書を全て端から端まで読めば、刻印は不要、と気がつける。
分からなければ聞きにこい、そうしたら後継者に指名しよう。
機密情報と顧客を弟子に引き継いで、療養と補佐に専念しよう。
職人はそう考えていた。
まさか、自己判断で刻印を彫り込む、と考えもしなかったのだ。
報告も連絡も相談もなく、師匠の仕事に泥を塗るような真似をするとは。
弟子は、自分ならできる。
師匠の見落としを補佐できる技量があると、師匠が元気な間に認めてもらいたくて焦っていた。
手を加える前に確認を取らなかったのは、師匠が寝込んでいたから。
汎用品では当たり前の加工だったから。
やって当たり前の加工だから、指示がなくて当たり前。
きっと師匠の見落としに違いない。
そう判断して加えた一手間は、義眼の大元を作り直さなくては修正できない部分だったところが、スレクツにとっての災難だった。
未だに体調が芳しくない職人に、無理を通すことはできない。
腕の良い魔術具職人はいつも予約がいっぱいの上、数も少ない。
規格外のスレクツの求める義眼の性能を引き出せたのは、老職人だけだった。
後継者として認められる寸前だった弟子は、取り返しのつかない失敗をしでかしたと、自信を失ってしまう。
目の前で、見ていられないほど落ち込む師弟職人に責任をとれ、と言えるわけもない。
スレクツは自分に自信のない、人付き合いが苦手な陰気女子だ。
結局、新しい義眼を発注し、工房側の責任で材料費と少しの技術料という格安で請け負ってもらうことになった。
当初、弟子は「自分が義眼の代金を肩代わりします!」と息巻いていたが、師匠から値段を聞いて真っ青になっていた。
スレクツの義眼は、二つ一組で、平均所得の家庭が楽に二年は生活できる値段だ。
繊細で緻密な構造を持つ、魔術具義肢装具の中でも特別仕様の特注品。
制作にかかる手間も時間も費用も、汎用品とは比べ物にならない。
一番高価な魔力充填部分を流用してこの値段なのだから、一から作れば目が飛び出る値段になる。
スレクツは若い職人に、これからもずっと義眼の調整をしてほしいと頼むことで、借金生活を回避してもらった。
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