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06 支援するは天才
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しおりを挟む迫りくる魔物を、拳に装着した合金製の鉤爪で引き裂いたオンフェルシュロッケン団長は、見えるはずのないスレクツの視点へ頭を向けた。
あふれそうな喜びで胸が一杯になって苦しい。
どきどきと、薄い胸の奥で心臓が暴れる。
目があった。
怪我をされていないだろうか。
スレクツが魔物の意識を逸らしたことに気がついてくれた。
それだけで、今日も血生臭く凄惨な戦場に耐えられる。
それにしても、団長はいつにも増してひどい姿に見える。
兵服が濡れて全身に張り付いていると、凹凸しか見えないスレクツでも感じ取れた。
唇をかみしめる。
魔物の体液に塗れては動きにくいだろう。
ひどく臭うことだろう。
疲労で体調を崩すのではないだろうか。
〝不浄払拭〟の魔術を使ってさしあげたいけれど、連絡手段がない。
いきなり遠隔で魔術を使うと驚かせる、不快に思われるだろうな、とスレクツは我慢した。
陣頭指揮を行うはずの団長が、どうして最前線で戦っているのか、なんてことは考える意味がない。
これは獣人種ゆえの在り方だから。
戦いの中で、獣人種は血の匂いと戦場の空気に酔い、指揮の声など聞こえなくなるらしい。
戦闘本能を滾ぎらせた兵士達を最前線で導くのが、統率者たる団長だ。
赤銅兵士団の団長は、最も強い者で無くてはいけない。
黄金近衛兵士団の凡人種近衛兵達が「動物の群れかよ」と嘲りを口にしていたけれど、スレクツはそんな風に思ったことはない。
兵士を守ろうと戦場に立つオンフェルシュロッケン団長は、誰よりも素敵だ。
他を置いてでも守ってさしあげたいと強く願ってしまう。
どうか、怪我をしませんように、無事に野営地に戻ってきますように。
それだけが望みだったのに、寝不足が続いて疲れきった結果。
欲望を隠せなくなってしまったスレクツは、団長と会いたい、と思っていた。
いつか、街の中を仲睦まじく歩く夫婦のように、見つめ合う若い恋人たちのように、指を絡めて手を繋いだり、口と口を押し付けあったり……できるだろうか。
団長の素敵な鼻先は長いから、口同士を押し付けるのではなく、尖った鼻先に自分の口を寄せることになるのだろうか、と顔を赤くしながら思う。
黒布の下で青白い顔色を変えながら。
獣人種との口づけは、光を反射する鼻先に口を押しつけるのか?
それとも、口づけ自体をしないんだろうか、とまとまらない思考を垂れ流す。
埒もないことを思考の一つで考えながら、スレクツは個人用天幕の中で棒立ちして、オンフェルシュロッケン団長の周辺へとさらに多くの魔術を飛ばした。
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