デブでブサイクなブタを溺愛するのは……

８８ 仲直り

　

　食べさせてもらいました。
　人前なのに。
　立食形式なのに、すぐ横にぴったりくっつかれて、ひな鳥なみにあーんしました。

　こっそりと恥ずかしいからやめて、って言うと、クラスニーにしょぼくれたイヌの耳と尻尾が生えたように見えるのよ。
　わたしにしか見えない幻の耳と尻尾。

　赤い毛並みのイヌの姿を知っているけれど、クラスニーがクルだった頃は穏やかなイヌって感じで、今みたいに感情表現が豊かではなかった。

　演じていたか隠していたのかなとも思ったけれど、クラスニーの元へ挨拶に来る、人ではなさそうなずるずるさんへの対応を見ていると、クルの時の態度なんだよね。

　そっけないわけではないけれど、歩み寄らない。
　穏やかで優しげだけれど、一歩引いている。
　文字通り先生と生徒の関係に見える。

　親しい知人なので困っている時は力を貸しましょう、でも家族や友人のようになれあう気はありません、って感じ。

　クラスニーとずるずる魔導師さんたちの間に、見えないのに明確な壁が見える気がする。
　これ以上は踏み込んでこないで欲しい、という壁が。

　わたしの夫になる人が、厭世エンセイ的なのは良いことなのか悪いことなのか。
　……あれ、でも近所付き合いって奥さんがすることが多いから良いのかな。

　井戸端会議をしていたおばさんたちが「亭主は元気で留守が良い」って言ってた。
　仕事してろってことかな。
　まさか、他の女性と外で遊んでこいって意味ではないよね。

　そんなことを思いながら、食後のお茶を飲んでいたら、くい、と背後から服を引かれた。

「あ」
「……ズトラツィム」

　そこには、風の子ニクさんと、クラァサさんがいた。
　さっきクラァサと呼んでくださいって言われたから、レイエンが二つ名なんだろうな。
　どんな意味だろう。

「ボクの妹弟子だろ、魔法を教えてやるから、許してくれル？」
「風の子、素直に許してくださいと言いなさいな」
「許してくださイ」

　一生懸命つんけんしている、お人形さんみたいに可愛らしい子供の、ふしゅる～と音がしそうな消沈具合に、盗人扱いされた過去を水に流したくなる。
　そもそも、子供が「バカ！」、「バカって言うほうがバカ！」って喧嘩していたようなものだと思うから。

「許すって言いたいところだけど、最初から怒ってないからそんなこと言えないよ」

　風の子ニクさんがもうすぐ百歳と聞いていたから、口調を年上の人向けに変えるか一瞬だけ考えた。
　でももしわたしが、妹弟子に丁寧に話されたりしたら。
　うん、いやだね。

　お姉ちゃんって慕って欲しいもの。

　んー、でも風の子ニクさんの意見はどうなのかな。
　兄、姉弟子として敬えって言いたがるかな。