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66 やっぱり一緒に

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 わたしが目の前の同級生との関係をこじらせたくないと思っていると、突然、教室の扉が開かれて担任が飛び込んできた。

「ネラ、さんっ、だい、っお、お客さまです」

 先生、口調が変です。
 そう思いつつ、この場にいたくなかったので席をたつ。

 一口も食べていない食事をどうしようかな、と思っていたら、ポケットから手紙がこぼれ落ちた。

 ……これって、ポケットがすごいの?
 タイミングがぴったりすぎて怖い。

 手紙に書いてあった言葉『ショー ミョーヘンミン』を口にして、なかなかうまく言えなくて、三回目でやっと食事が消えた。
 お皿も何も残さずにマットの上から消えた食事に、わたしも感激してしまう。

 魔導師になった気分が味わえる日が来るなんて。
 実際は魔法道具のマットを、魔力で起動させているだけって知っている。

 その魔力がどこから来ているかは知らない。
 仕組みも知らない。

 このマットは、たぶんどこかに用意された食事を、この上に出すだけのものだと思うんだよね。
 魔法の知識があって、自分の意思で魔力を使える魔導師でないと、魔法道具を自分の魔力を使って発動させられないって聞いたもの。

 プレースマットはたたんで、手紙が届く方と反対のエプロンのポケットにつっこんでおく。

 手くせが悪い人が他にもいて、盗まれでもしたら困る。
 クラスニーからの贈り物を取られるなんて、いやだもの。

 食事を片付けることに成功したわたしは、お客さんが待つという学校長室へ、担任と向かった。



「あっ」
「ネラ」

 わたしの姿を見るなり、嬉しそうに目を細める姿に、わたしも嬉しくなる。
 今まで感じていた寂しさは消えて、わたしははしたなくない程度に足を早めると、ソファに腰を下ろしているクラスニーに抱きついた。

「一人の食事が味気なくて……食事はまだだよね」
「知ってるんでしょ」

 ついさっき、ポケットから手紙が出てきたよ。
 そう思いながらクラスニーを見つめると「さあ、どうかな」と微笑まれた。
 うわ、ごまかす気だ。

 むっとした気持ちが表情に出てしまったのか、クラスニーの鉤爪の生えた指が、わたしのほほをつん、とつついた。

「一緒に食事をしてくれませんか、僕の奥さん」
「ま、まだ奥さんじゃないからっ」

 ニコニコと笑顔で言われてしまうと、文句も言えない。
 とても嬉しいから文句なんて出てこない。

 一人の食事があんなに寂しいと知らなかった。
 これまでに、空腹をごまかす時には知らなかった感情。

 好きな人との食事は幸せ。
 クラスニーも同じように思ってくれているなら、嬉しいな。

 わたしは甘やかされている。
 理解しているのに、抜け出せないほど溺れてしまいそうだよ。

 わざとらしい咳払いが聞こえて、ここが学校長室だと思い出した。

 学校長がしかめっつらでこちらを見ていたけれど、クラスニーが「なにかご用ですか」と言ったら見事に青ざめた。
 どういうことなの。

 
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