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53 これもまた有言実行
しおりを挟むひざをついてわたしの手を握っているクラスニーが、流れるように立ち上がる。
とても自然にわたしを抱き上げて、カウチに移動して座る。
「無理しないで、急いでいないから、ネラが成人を迎えてから考えてくれたら」
「いや、今すぐがいい」
目の前の首筋に抱きついて、頬を押しつける。
魔導師さんたちが来る予定だったからなのか、ハリのある濃いえんじ色の上着と、きっちりとしめられたシャツが邪魔で、ドキドキが聞こえない。
「ネラ、君はまだ未成年だ」
「知ってるもん」
未成年だからなに?
両親に言わないといけないってこと?
それは、そうか。
そうだよね、未成年だから。
今すぐが無理なんて知ってるよ。
あと二年経って成人したら、大人扱いしてくれるようになるの?
そんなに待ちたくない。
その間に、美人できれいで素敵な女の人があらわれたら?
頭が良くて魔法の話もできる女の人があらわれたら?
相手が誰でも、わたしが勝てるところなんて、何一つ思いつかないよ。
考えるだけで、目の前がじんわりとにじんでいく。
クラスニーがわたしを好きだって思ってくれているのは嘘でなくても、子供扱いなのは気がついてるもの。
「……わかったよ」
分かってない。
分かって欲しいわけではない。
ただ、わがままを言っているだけ。
わたしはクラスニーに頼っているふりをして、逃げている。
助けてくれる、甘やかしてくれるって信じているような素振りで、逃げているだけ。
つらいことを考えたくない。
父さんがこれからどうなるのか。
うちの家族はどうなるのか。
街に戻りたくない。
クラスニーの側にいることが許されないなら、仕事も未来もないって、思い出したくないだけなの。
わたしは、優しくて善良なクラスニーに、寄生しようとしているの!
「ネラが魔導師に必要な基礎知識を習得したら、婚姻の儀を行おう。
誰にもネラを譲る気はないから、早いか遅いかの違いでしかないけれどね」
……ええ??
分かった、ってそっちなの?
わたしの気持ちを分かってくれた、ってことじゃなくて、用意できたら結婚しようってこと?
たしかに、クラスニーの側にしか居場所がないことを、正当化するのに婚姻が一番分かりやすい。
本当にそうなのかな。
どうしよう、何もかもいきなりすぎて、混乱してきた。
こんなに簡単に決めて良いのかな。
告白してしまったのはわたしからだけど、求婚されるとは思ってなかった。
きちんと考えずに、勢いで返事した上に急かしたのもわたしなのに、いざとなると腰が引けてしまう。
……クラスニーの奥さんとか、わたしにできる気がしない。
嬉しいより不安。
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