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39 自己防衛:現実逃避

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 灰色の顔色が濃くなっているクラスニーに、呪法師とは、なんらかの事情があって魔導師になれなかった人々のうちで、呪いに手を染めた人々のことだよと教えてもらった。

 呪法対策官は呪法師を捕まえる人。
 魔導師協会は、魔導師が所属する集まり。
 つまり町内会みたいなもの?

 呪法というのは魔法のようでいて、似て異なるもの。
 そして、蔓延を許してはいけないもの。

 魔導師本人の湧出魔力や、自然界にただよう魔力を使い、世界の膨大な力を借りて行使するものが魔法。

 純血の人の場合、魔力もちと呼べる魔力湧出量があるのは、十人に一人くらいだという。
 その魔力もちの中にいるごく少数の素質を持った者が、勉強して修行して、最終的に魔導師になれるそうだ。

 素質の他にも、湧出する魔力の量や経験や勘が必要であり、どれだけ努力を重ねても、魔導師に到達できない人というのは必ず出る。
 そういう人々が、自分の能力や努力ではどうしようもない部分を、どうにかしようとした結果、呪法が生まれたらしい。

 他者の命や生命力を使い、世界に穴を開けて力を盗んで行使するものが呪法。

 呪法を乱用すると世界が壊れてしまう。
 だからこそ呪法師を野放しにはできない。

 焦がれるほどに魔導師になりたくて、努力してもなれなかった者の、強すぎる思い。
 それがよくない形で昇華された結果が、呪い。

「呪法師だと確定した際は、全ての知識と記憶を消し、魔力生成の阻害措置をした後で、魔石鉱山へ送られるのが一般的だな」
アニさん、島流しって手もあります」
アニさん、最低級労働者落ちって手もあります」

 クラスニーとソウレイネナヴィストさんが説明してくれるのを、後ろの仮面二人さんも捕捉してくれる。
 この二人も男性の声だった。
 捕捉された内容は、どうしようもないものだった。

 理解したのは、父さんはもう普通の生活を送れないってこと。
 過去に二人、人が死んでいるって聞いた時点で、父さんがわたしの知ってる優しい父さんではないのかと、衝撃を受けた。

 でもどこか、現実味がなかった。
 受け入れられない。

 わたしの父さんのことではないのかも。
 優しい父さんだもの。
 きっと人を間違えているのかも。
 父さんがそんなことできるはずない。

 どこかでそう思っていた。
 でも、これは間違いなく現実で、わたしは……。

 ふわり、と手が温かくなった。

「ネラ、なんと言えば君の苦痛を和らげられるのか、僕には思い至らない。
 それでもね、僕が昔、家族を失った時には友人たちがいてくれた」

 側にいるよと優しく手を握られて、目の前が揺れる。
 わたしは自分のことしか考えていなかったのに、クラスニーは父のことで傷ついていると思っているのだ。

 優しい人。
 そして善良な大魔導師さま。

 わたしはやはり、人を殺した男の娘なのだ。
 クラスニーの優しさを利用しているのだから。


   ※







   ※

次話より少々重いです
数日で終わって、甘くなってく予定です
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