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17 ひだまりの終わり
しおりを挟むふぅ、とクルがため息をついた。
イヌってため息がつけるんだ、とすぐ横のアームチェアに相変わらずきゅうくつそうに座っているクルと、女の子を見比べる。
「〝風の子〟ネムスリム・ナ・ニク、君には二つ名まで与えられているんだよ。
もう弟子ではないのに、僕の私有地を探った挙句に勝手に入ってきて客人を脅す行為が、魔導師として正しくあるべき姿だと思っているのかな」
クルが勉強している時以外に長々と話す姿も、ふきげんな様子も、見るのが初めてでびっくりとしてしまった。
話しながら、クルは席を立つとわたしの前に出て、女の子から見えないように大きな体でさえぎってくれる。
わたしがのぞこうとすると、見えないように動く。
この女の子が危険ってことなら大人しくしておくけど、なんだか違うような気がする。
わたしと女の子を合わせたくない、のかも。
なんだかそんな気がしてきた。
「だって、人を入れるなんて聞いてなイッ」
「なぜ、言わないといけない」
「ボクは弟子だよ、ミステルに早く魔都に戻って欲しいんダッ」
「いいや、君が独り立ちをしてから三十年以上が過ぎている、元弟子と言いなさい。
僕の在り方は自分で決める」
口調はいつもと同じでおだやか。
文句は言わせない、と言いそうなたいどは初めて。
わたしの目の前はクルの背中でおおわれて、女の子の様子は見えない。
「う、う、なんデ!?
只人なんか入れたら、ううん、人じゃなくても呪われてるやつなんか入れたら、試練を妨害しかしないだロッッ」
女の子が泣きそう。
話の内容は理解できない。
クルが女の子をいじめている、ってこともないと思う。
すごく落ち着かない。
お人形みたいにきれいな子が、悲しそうな様子をしてると思うと、すごく落ち着かない。
こんなにかわいい子がクルと親しくする姿を見たくない。
「それも、僕が決めることだよネムスリム」
「……知らないから、元の姿に戻れなくなっても知らないんだかラッッッ!!」
涙声で叫んで、バタンッと扉の音が聞こえた。
「困った子だ」
再びため息をついて、クルが体を回す。
「デザートにしようか、ネラ」
「大魔導師さま?」
「ネラ……」
わたしの口からこぼれ落ちたつぶやきに、クルが顔をゆがめる。
初めて見る表情に体がこわばる。
クルの側はいつでもひだまりみたいに穏やかだったのに、今では巨木に見下ろされているような気がする。
「その問いを聞かなかったことにしたい、でも嘘はつけないから、答えはその通り、だよ。
元魔導師見習いウクリドニット・ズトラツィムの呪いを負う娘、ネラ・ズトラツィム、君はこれからどうしたい?」
「……」
気がつけば、涙がほほをつたい落ちていた。
わたしの夢のような時間は終わってしまったのだ。
気がつきたくなかった。
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